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本物の読書家 講談社文庫
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商品詳細
内容紹介 | |
---|---|
販売会社/発売会社 | 講談社 |
発売年月日 | 2022/07/15 |
JAN | 9784065285954 |
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商品レビュー
3.3
9件のお客様レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
Kindleのセールで買って積んであったのを読んだ。これまで著者の作品を何冊か読んでいるが、その中でも最も読むことが難しい一冊だった。タイトルにあるように「本物の読書家なのか?」と試されているのかもしれない。キャリア2作目ということで、その後のスタイルの萌芽を目撃できるという点では読んでよかった。 「本物の読書家」「未熟な同感者」の2つの中編が収録されている。タイトル作である前者は読み終わった今となっては後者に比べてかなり読みやすく、そしてエンタメ性があった。叔父に付き添って電車で老人ホームまで向かう電車の道中で起こる文学与太話。隣の席に座る見ず知らずの文学おじさん、叔父、主人公がお互いの腹を探り合う様は探偵ものを読んでいるような感覚だった。特に見ず知らずのおじさんが関西弁で真相を突き詰めようと迫ってくる様は名探偵コナンの服部を彷彿とさせ懐かしい気持ちになった。川端康成のゴーストライターが叔父だったのでは?というのが大きなテーマなのだが、そこに至るまでの良い意味でのまわりくどさは著者の特徴と言える。エンタメとして最適化するときに切り落とされる日常、生活の空気のようなものが拾い救われているのを読むと心がフッと軽くなる。合わせて文学論も語られているのだがナボコフの以下引用がグッときた。 *文学は、狼がきた、狼がきたと叫びながら、少年がすぐうしろを一匹の大きな灰色の狼に追われて、ネアンデルタールの谷間から飛び出してきた日に生まれたのではない。文学は、狼がきた、狼がきたと叫びながら、少年が走ってきたが、そのうしろには狼なんかいなかったという、その日に生まれたのである。その哀れな少年が、あまりしばしば噓をつくので、とうとう本物の獣に喰われてしまったというのは、まったくの偶然にすぎない。しかし、ここに大切なことがあるのだ。途轍もなく丈高い草の蔭にいる狼と、途轍もないホラ話に出てくる狼とのあいだには、ちらちらと光ゆらめく仲介者がいるのだ。この仲介者、このプリズムこそ、文学芸術にほかならない。* 後者である「未熟な同感者」は大学の文学論のゼミの講義内容、サリンジャーの小説、そしてゼミに参加するメンバーの様子が入り乱れて描かれる複雑な小説で正直かなり読みにくかった。読み進めることはできるものの目が滑りまくって何を読んでいるのか分からなくなる瞬間が何度もあった。現実パートも著者のフェティッシュを感じさせる内容に今のスタイルと共通する点を見出しつつも荒削りのように感じた。こんな風に感じる私は未熟な同感者なのだろう。本物の読書家への道のりは険しいのであった…
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「本物の読書家」と「未熟な同感者」の二篇。どちらも多数の引用を以て構成され非常に読むのがめんどくさい小説。 前者は1本の道筋を通るのでまだ読みやすい。うさんくさい関西弁を話す男が出てくるが態となのだろうか。 後者は「十七八より」の続編としてその少女の大学時代を記したもの。大学の講...
「本物の読書家」と「未熟な同感者」の二篇。どちらも多数の引用を以て構成され非常に読むのがめんどくさい小説。 前者は1本の道筋を通るのでまだ読みやすい。うさんくさい関西弁を話す男が出てくるが態となのだろうか。 後者は「十七八より」の続編としてその少女の大学時代を記したもの。大学の講義内容を著す部分が矢鱈多く特異な小説の印象。主眼はどこにあったのか。 引用される作家は多少読んだこともあるのがあるがそこまで深く読み込んだことはないので何とも言えず。
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本書は、2015年にデビューした新鋭による2冊目の書物である。2018年本作「本物の読書家」で野間文芸新人賞受賞。2019年、2021年芥川賞候補。 表題作「本物の読書家」では、語り手の「わたし」が、独り身の大叔父を茨城県の高萩にある老人ホームに入居させるため、上野から電車で...
本書は、2015年にデビューした新鋭による2冊目の書物である。2018年本作「本物の読書家」で野間文芸新人賞受賞。2019年、2021年芥川賞候補。 表題作「本物の読書家」では、語り手の「わたし」が、独り身の大叔父を茨城県の高萩にある老人ホームに入居させるため、上野から電車で同行する。車中で二人はあやしげな大阪弁の男と出会う。この男が開陳する文学関連のマニアックな知識に反応する読書家の「わたし」と大叔父。やがて大叔父の口から、信じがたい秘密が告げられる。 川端康成の名作「片腕」を本当に書いたのは自分だ、という大叔父の主張を、小説外の事実として認める読者はいないだろう。文豪川端康成の伝説から実際に起こり得そうな設定で、川端作品「片腕」の虚構性と作品制作上の伝説と作者乗代雄介のこの小説「本物の読書家」の虚構が混ざって少し複雑な構造になっている。 大阪弁の男が冒頭から千原ジュニアが話しているような錯覚に陥る。文学があり、文学知識があり、お笑いがありで楽しい。 後半の作品「未熟な同感者」も文学論を戦わせる。しかしながら、作家のサリンジャーを中心に展開される文学論がわかりづらい。中心となる文学論と並行してサブストーリーとして大学三年生のゼミでの人間模様が描かれる。主人公の阿佐美、超美人の間村季那、男の野津田慎吾、野津田のことが好きな道中あかり、変態かもしれないと描かれるゼミの准教授が登場する。主人公が女性だと判明した瞬間意表を突かれた。また間村のビンタの描写も圧巻。 小説のジャンルではエンタメ小説ではなく純文学になるけれども、純文学ではこういう楽しみ方があるよということを示してくれる本作品は貴重だと思う。有名な文豪の引用が出てくる本書は本好きな人には好まれるのではないか。乗代雄介の他の作品を読んでみたくなった。
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