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あるヴァイオリンの旅路 移民たちのヨーロッパ文化史
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 法政大学出版局 |
発売年月日 | 2021/02/26 |
JAN | 9784588352355 |
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あるヴァイオリンの旅路
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商品レビュー
3.7
4件のお客様レビュー
ヴァイオリンを所有する者なら自分の楽器についてあれこれ知りたいと思うのではないだろうか。 私の楽器はグァルネリと書かれたイタリア訛りのドイツ娘である。 この本は自分の楽器が、作られてからどのような経緯で今に至るのか、というよりも、作った職人はどこの出身でどのような人生を送ったのか...
ヴァイオリンを所有する者なら自分の楽器についてあれこれ知りたいと思うのではないだろうか。 私の楽器はグァルネリと書かれたイタリア訛りのドイツ娘である。 この本は自分の楽器が、作られてからどのような経緯で今に至るのか、というよりも、作った職人はどこの出身でどのような人生を送ったのか、を歴史的根拠に基づき想像していく時空旅行記といえようか。 有名な職人や有名な生産地の話ではないからヴァイオリン製作の歴史に興味がある人にとってはちょっと退屈だろう。 ヨーロッパにおける移民の話に興味が向く人にとっては面白い内容だろうが、それではこの本を手にする人がひどく限られてしまうから文化史と題したのかもしれない。 まぁ確かに話題は多岐にわたっているから文化史という副題は誇大でもない。
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著者のブロームはあるとき風変わりなヴァイオリンを購入する。ヴェネツィアで仕事をした南ドイツ出身の職人の作だろうという楽器商の見立てに興味を惹かれ、ブロームは歴史のなかから自分のヴァイオリンの製作者を探しはじめる。そこから見えてきたのは、過酷なアルプスを超えイタリアへ移り住んだ職人...
著者のブロームはあるとき風変わりなヴァイオリンを購入する。ヴェネツィアで仕事をした南ドイツ出身の職人の作だろうという楽器商の見立てに興味を惹かれ、ブロームは歴史のなかから自分のヴァイオリンの製作者を探しはじめる。そこから見えてきたのは、過酷なアルプスを超えイタリアへ移り住んだ職人たちの系譜だった。移民とギルドと貿易と文化の歴史が凝縮した、一挺のヴァイオリンと一人の人間の時を超えた出会いにまつわるノンフィクション。 サイコーーー!!! エッセイ、謎解き、紀行文、歴史小説と章ごとにジャンルが変わり、フィクションとノンフィクションのあわいを行き来する、私が大好きなタイプの本だった。ヴァイオリン作りの素材の来歴を3ページも使って説明するくだりはカーソンの『琥珀捕り』を思わせるし、仮名の職人"ハンス"を探す旅は堀江敏幸の『その姿の消し方』みたいだし、「フェティシズムについて」の章はミランダ・ジュライの『あなたを選んでくれるもの』を彷彿とさせる。こういうの大好きだ!しかも著者のブロームは昔ゼーバルトの校閲をやっていたらしい。 ブロームは南ドイツのフュッセンから旅を始める。リュート作りで栄えた町が段々と携帯に便利なヴァイオリンへと移行し、小氷期と30年戦争とペストの影響を受けて少年たちが職を得るためにアルプスを渡った経緯をさらりと説明したあとで、フュッセンにある「死の舞踏」の絵画に話を移すのが心憎い。ヴァイオリンを奏でて生者をいざなう死者のイメージ、これは楽器を介在して200年の時を超えたブロームと"ハンス"の関係性をあらわすとともに、"人は全員死んでいつか忘れ去られる"というエンディングの寂寥感をも先取りさせてしまう。 アルプスを渡った少年たちはツテを辿ってヴェネツィアの工房に弟子入りした。親方も同郷の人である。宗教改革以降はドイツからの移民だというだけでルター派を疑われ、異端審問にかけられることもあった。また楽器職人は演奏家として稼ぐこともあり、流浪の旅芸人たちと同じくらいいかがわしくて胡散臭い存在とみなされていた。この辺りの事情を語る物騒なエピソードが楽しいが、ブロームはドイツ系移民コミュニティがヴェネツィアに受け入れられるために様々な根回しを必要としていたと念押しする。当時すでに世界中からモノが集まり、人種が入り乱れる享楽主義の都市だったヴェネツィアだが、コミュニティ間の線引きは明確だった。 上記のような歴史的記述と交互して、鑑定のプロたちにバラバラなことを言われ謎が深まる"ハンス"探しパートと、音楽家を目指すも挫折した若きブロームの物語も語られてゆく。ゼーバルトの思い出が語られるのと同じ章で、10代のころ教わったヴァイオリンの先生についていま思えば同性愛者だっただろうと回想しているのが印象深い。ゼーバルトとは逆にドイツに移住したイギリス人だった彼女は町で浮いていたという。奇矯な孤独者の姿を描きだしたこの章全体がゼーバルトのオマージュのようでもあり、出来すぎているがその胡散臭さがたまらない。 ブロームにヴァイオリンを売った楽器商は、なぜドイツ人の作だと思うかと問われて「この楽器には訛りがある」と答える。この表現に惹かれてブロームは移民ヴァイオリン職人の歴史にのめり込んでいくのだが、本書は「訛り」を徹底的に肯定する物語でもある。18世紀は移住先に受け入れられるために改宗さえ必要な時代だったが、同郷の親方から弟子へ受け継がれた技と美意識によって楽器にアイデンティティが宿り、彼らの足跡を辿ることを可能にしたのだ。 偉くもなく有名でもないただの人は生きた証なんて何も残さないのがふつうだ。ブロームのヴァイオリンはストラディヴァリとは違う。だが200年生き残ってきた。かろうじて奇跡的に残ったモノを通じて、過去が現在に繋がる。たったひとつのモノが、作り手だけでなくその人を育てた人、街、時代と触れ合うことができる時空の特異点になる。だから"ハンス"探しの全てが憶測で完全に間違っていたとしても、ブロームが教会に響かせたバッハの旋律が齎す感動は揺るがないはずだ。それはヴァイオリンを作ったのがどこの誰であろうと変わらない、「君が生きていたこと、ぼくにはわかってる」というメッセージなのだから。
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タイトルから、あるヴァイオリンが数々の著名な演奏家を経てきた歴史をたどるドキュメンタリーを想像してたけど、違った あるヴァイオリンが造られた時代、場所、職人を見つける旅路だった 無銘だけれども銘品されるヴァイオリンを手にした著者は、ヴァイオリンとの対話を重ねていくうちヴァイオリ...
タイトルから、あるヴァイオリンが数々の著名な演奏家を経てきた歴史をたどるドキュメンタリーを想像してたけど、違った あるヴァイオリンが造られた時代、場所、職人を見つける旅路だった 無銘だけれども銘品されるヴァイオリンを手にした著者は、ヴァイオリンとの対話を重ねていくうちヴァイオリンの製作者へと辿る旅路に出る ヴァイオリンは面白い楽器だ 演奏家がヴァイオリンのクセや特徴を合わせてゆき、曲が紡がれてゆく ストラディヴァーリやグァルネーリを弾けば誰もが名演奏家になれるわけじゃない 鑑定士にとってはヴァイオリンの保存状態や補修の程度、誰が所有していたかが重要であって、音は問題ではない さらにヴァイオリンには“訛り”がある、職人のクセだったり工房や製作地の特徴だったり… ヴァイオリンの訛りや調査の結果、真実に迫っていく著者は歴史家でもあるため、“ハンス”という架空のヴァイオリン職人を創り、彼の辿った移民や土地の歴史を織り交ぜて物語を進めるが、歴史に没入することもしばしばで退屈なところも 300年以上も前に造られたヴァイオリンだから、1人の人間よりも多彩な歴史の中にあったんだろうね
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