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不安 ペナルティキックを受けるゴールキーパーの……
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商品詳細
| 内容紹介 | |
|---|---|
| 販売会社/発売会社 | 三修社 |
| 発売年月日 | 2020/01/21 |
| JAN | 9784384050004 |
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不安 ペナルティキックを受けるゴールキーパーの……
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2019年ノーベル文学賞受賞者、ペーター・ハントケの初期の代表作。 1990年代のユーゴスラビア紛争の際、親セルビア的立場を取ったことから激しい非難を浴びた。昨年のノーベル賞受賞も物議を醸したことは記憶に新しい。毀誉褒貶の激しい人なのだろう。 とはいえ、ハントケの名は日本ではどの...
2019年ノーベル文学賞受賞者、ペーター・ハントケの初期の代表作。 1990年代のユーゴスラビア紛争の際、親セルビア的立場を取ったことから激しい非難を浴びた。昨年のノーベル賞受賞も物議を醸したことは記憶に新しい。毀誉褒貶の激しい人なのだろう。 とはいえ、ハントケの名は日本ではどのくらい知名度があるのだろう? あるいは、日本人に最もわかりやすい紹介は、ヴィム・ヴェンダースの『ベルリン・天使の詩』の脚本家というものかもしれない。少なくとも私自身は、ハントケのノーベル賞関連のニュースで、引っ掛かりがあったのはこの一点のみだった。 本作は、『ベルリン・天使の詩』よりもユーゴ紛争よりもずっと前、70年の作品である。 ある種、実験的な作品と言っていいのだろう。 サッカーのゴールキーパーとして活躍した後、機械の組み立て工となったヨーゼフ・ブロッホは、ある日、工場を首になる(あるいはそうだと思い込む)。 彼は街をさまよい歩き、映画館のキップ売りの娘と知り合い(いや、本当に「知り合った」のかは疑問だが)、彼女を殺す。その後、彼は昔親しくしていた女が国境近くに住んでいるのを思い出し、女を頼ってその地へ向かう。 そこでも行方不明の児童がいたり、誘拐犯と疑われている流れ者がいたり、小さな事件はあるのだが、実のところ、こうしたストーリーはこの作品の主眼ではない。 ブロッホは殺人犯として追われるわけでもなく、殺人の動機が解明されるわけでもない。正義がなされるわけでもないし、華麗な謎解きがあるわけでもない。そういう意味でカタルシスが得られるものではない。 物語の主軸は、終始、ブロッホの<意識>とその<言語化>である。彼はさまざまな事象を捉えてはそれを解釈して言葉にする。誰かと会話をすれば相手の言葉の使い方、返答の組み立て方に異常なまでにこだわり、分析する。 解説に引用されている著者自身の言葉によれば、 或る人(注:ブロッホ)が認知するさまざまな対象が、或る事件(ここでは殺人ですが)の結果として、彼にとってどのようにして次第に言語化されていくか、そしてまた、いろいろな形象(ビルト)が言語化されていくにつれて、対象がどのようにして「命令」となったり「禁止」となっていくか、それを示すこと がこの小説の原理なのだという。 読んだ限りでは、ブロッホによる「言語化」は、殺人事件より前にすでに始まっており、むしろ、そうした彼の物事の捉え方が事件の一端になっているようにも思えるのだが。 彼は普通に人とも交わるし、会話もする。けれどどこか、乖離したところがある。 笑っていても怒っていても、どこか「上の空」に見えるのだ。 それは一対の冷徹な目がどこかにあるからだ。 世界はブロッホの目を通して語られる。けれども、そのブロッホの<意識>を捉える目は、ブロッホの内側からではなく、外から見ている。それがブロッホ自身のもう一対の目なのか、作者の目なのかよくわからないが、途轍もなく冷めた目が厳としてある。それがブロッホを、そして世界を見据えている。 タイトルの「不安」は、殺人事件で追われるかどうかなのか、華やかなサッカー選手でなくなり、さらには職を失ったことに関してなのか、人との関わりを保てないことなのか、何とも言えない。あるいはそれらをすべてひっくるめてなのかもしれない。ひょっとすると、<意識>を持つことへの不安があるのかもしれない。 ラストのサッカーボールは、ブロッホの不安を鎮めるのか、あるいは不安そのものなのか。 長くはないがすらすらとは読めない。 おもしろいかと問われればそうとは言えない。 けれどもどこか何かが気にかかる。 つらつらと考えながら、ドイツ語読者ならまた受け止め方が違うのだろうかとも疑問に思ったりもする。
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