フェイクニュースに震撼する民主主義 日米韓の国際比較研究

清原聖子(著者)

• 販売会社／発売会社: 大学教育出版
• 発売年月日: 2019/10/20
• JAN: 9784866920405

商品レビュー

2023/05/04

2016年の英国ブレグジット投票や米国大統領選挙で一躍その存在感を増したフェイクニュース、本書ではフェイクニュースとは何か、またそれがどのような形態をとっているのかを米国、韓国、日本を比較しながら分析しています。その意味では、梅棹忠夫さん的に表現すると「フェイクニュースの生態史観」的な視点を提供してくれる貴重な書籍でした。具体的には、米国、韓国のように政治的な分極化が進んでいる国ほどフェイクニュースは繁殖しやすいのですが、その根底には良くも悪くも政治に対する国民の関心の高さがあります。また現状に対する不満足層がそれなりのボリューム存在しているような土壌だと、フェイクニュースは、政治的なだけでなく、ビューワー数を稼げるという意味で経済的にも繁殖してしまうからです。

日本では米国、韓国ほど政治的なフェイクニュースは繁殖していなさそうですが、その背景には政治的な分極化がほとんどなく、政治への関心が低いこと、またおそらく日本人の生活満足度が比較的高いからではないかと思いました。日本ではフェイクニュースといっても政治ではなく芸能人関係を想起したりするわけです。しかし今後日本においても社会への不満層が拡大してきたら、米韓のように政治やメディアの分極化が進み、フェイクニュース繁殖の土壌が生み出されるかもしれず、何らかの予防策は必要でしょう。その一つは第７章にも書かれていたように、少なくとも経済的なメリットは生み出させないようにする、ということかもしれません。

本書は複数人の研究者＆ジャーナリストによって書かれていますが、有権者調査の「ファクト」をもとにした丁寧な論考となっていて、安心して読めました。つまり信頼感を持って本書を読むことができたわけですが、やはり資本主義でも民主主義でも「信頼」が根底にあることを改めて実感しました。社会の構成員間の信頼が高いことこそ健全な社会の条件であり、フェイクニュースも駆逐されやすいということでしょう。