生命科学クライシス 新薬開発の危ない現場

リチャード・ハリス(著者), 寺町朋子(訳者)

• 販売会社／発売会社: 白揚社
• 発売年月日: 2019/03/07
• JAN: 9784826902090

商品レビュー

2025/05/29

生命科学とくに、生物医学の再現性に関する問題提起を基礎医学研究者の置かれている環境から、考察している。

2025/03/25

再現性がない研究結果が多い。研究費の奪い合いのため、早合点が多いが、早合点に対する罰則はない。その結果、無駄な後続研究が多くなる。他人の研究を確かめても報酬はない。

無意識のバイアスが科学者にはある。盲検でないと再現性は低くなる。統計的検定が適切でない、など、235種類のバイアスがある。
新薬候補は厳密な段階になると9割は脱落する。
イールームの法則＝ムーアの法則の逆綴り。新薬開発のスピードが遅くなっていることを表す。
動物は、人間を小さくしただけの生き物ではない＝動物実験と同じ効果はない。
運良く見つかった薬物も多い。他の効用を見つけることもある。薬物は、魔法の弾丸ではなく、散弾。使っているうちに他の効果に気づく。
ヒーラー細胞は、無限に増殖を続ける＝研究室に潜り込んで他の培養といっしょに増殖する。
購入する抗体は、信用できない場合がある。他のタンパク質に結合する性質があることがある。
ノイズに幻想を見る。今はデータが数多く取れる。ビッグデータを統計の力で分析すると、再現性のない結果が得られてしまう＝P値が0.05未満なら結果が得られた、とする死票が乱用されている＝pハッキング。
p値を0.005とすると再現性は高くなるが、論文の数は激減する。科学者のキャリアがなくなる。
ピストルを撃ってから、その穴にあわせて絵を書くようなもの。
検証方法が隠されている場合もある。

うまくいかなかった研究は発表されない。
典型的な科学者は、分野を変えない。分野を移動する科学者は冷遇される。
19世紀の科学者は生活には困らなかった＝ダーウインなど。今は、論文発表がポスドクのキャリアを妨げることになる。ポスドクの21％しか、終身在職権のある職につけない。
インパクトファクターの問題は、科学界のキャリア制度を歪める。見栄えの良いデータが出たところで研究を辞める。
終身在職権のための審査では、論文の量が物を言う。論文は誰も読んでいない。
再現性の問題は、意識だけでは変わらない。

研究校正性は、捏造、改竄、剽窃を中心に姿勢を正そうとしているが、これだけでは再現性の問題には対処できない。研究の厳密性に対しては意識は高くない。

2024/03/17

医学生命科学における再現性の問題について、現場レベルの要因から研究者コミュニティの置かれた構造的要因まで幅広く分析した本。
膨大なインタビューや文献調査に基づき、再現性のなさの原因だけでなく、再現性を向上させるための多様な施策についても紹介している。
「だから医学・生命科学はダメ」という内容ではなく、きちんと研究を人類の未来につなげるための可能性を高めるための本。