星をかすめる風

イ・ジョンミョン(著者), 鴨良子(訳者)

• 販売会社／発売会社: 論創社
• 発売年月日: 2019/01/10
• JAN: 9784846017774

商品レビュー

2021/06/02

フィクションがノンフィクション以上に真実を語るのだという著者の信条が後書きに書かれていたので納得したが、イ・ジョンミョン氏は本作品がはじめてだったので、最初ちょっと戸惑った。
尹東柱という実在の詩人に関心があって手に取ったため、結構ぶっとんだフィクションぶりに一度脳内の環境設定の切り替えが必要だった。それからはスムーズに読めた。

結果、著者の信条どおり、史実に忠実かどうかは全く問題ではなく、後半たたみかける様に織り込まれる文学と戦争についての普遍的な問いかけには強く頷くことしきりだった。
禁書を検閲し焼却する検閲官と、文学を奪われた思想犯。相反する立場の者たちを強く結びつけたものとは、、
この物語は一貫して刑務所という閉じた空間を舞台としながら、作中出てくるあらゆる国、あらゆる時代の文学や音楽を通じて、それが普遍性を持った人間そのものなのだと言うことを教えてくれる。

翻訳の方の後書きもとても良かったので、数カ所誤植があったのは残念。

2019/10/20

尹東柱の詩は本当に素晴らしいと思う。文字がキラキラ輝いてみえるような。一度ちゃんと彼の詩を読んでみたいと思った。私は徴用で兵士になった人が監獄で働く事も、監獄にも戦争がある事も分かっていなかった。同じ日本にある施設だから、そこにも戦争があったことは自明の理なのに。日本全国に戦争があり、戦いがあり、生きた人達がいた事を、私は忘れてはいけないと思う。

2019/06/20

刑務所という限られた場所を舞台に、ミステリ仕立てで物語は展開していく。やや詰め込みすぎの印象だが、それらをうまくまとめあげて、最後まで飽きさせない。ロマンチックというかドラマチックというか、やや気恥ずかしくなるくらい直球勝負の描写や筋立もあるが、事実に近い現実的なものより美しいフィクションに真実が宿るという著者の考えにたてば、それもありだと思う。文字の世界、本の世界の人々のためのファンタジーである。