混声の森(上) 松本清張プレミアム・ミステリー 光文社文庫

松本清張(著者)

• 販売会社／発売会社: 光文社
• 発売年月日: 2015/11/01
• JAN: 9784334769987

商品レビュー

2023/11/23

私立女子大学の若葉学園。大学の用地買収で実績を上げた石田謙一は、現大島理事長を追い落とし理事長の椅子を狙っている．理事長と女子職員との情事や謙一自身のバーのマダムとの浮気や思春期の息子の非行に悩む父親の面も絡ませながらストーリーは進んでいきます。
2023年11月23日上巻読了。

2023/05/01

この小説の主人公、石田謙一は、東京の某女子大学の専務理事。
戦後、仕事がない時に女子大学の事務職を見つけ、初めは一介の事務職員だったのだが、ある強力なコネを持っていたので、当時敷地の狭かったその女子大に旧陸軍の軍用地を格安で払い下げてもらうことに成功し、その恩を前理事長に売ったので、専務理事に昇進し、今は2代目理事長を引きずり下ろし、自分の思いのままになる看板学長を迎える準備をしていた。
ちょっと最近似たようなことを聞いたことがあるが……これは、1978年の小説。最近、NHK BSでドラマ化されてたらしい。
現理事長をどのようにして引きずり下ろす計画かというと、理事長と学生課事務職員の不倫関係を暴く計画を着々と進めている。が、石田自身も愛人を持ち、そのせいで毎日帰りが遅くなり、妻とは冷え切り、息子は強盗殺人事件の関係者とつるむような不良。息子がそうなってしまったことを妻のせいにし「俺は遅くまで仕事をしているのだから、息子の教育はお前の責任だろ」とえっらそうに妻に言っている。
そして、息子自身のことを心配するのではなく、「息子が問題を起こしたらせっかくここまできた俺の出世が台無しになる」と心配している。
サイテー。
石田さん、言わせてもらいますがね。あなたのしていることは仕事ではありませんよ。あなたのしていることはただのゲームです。「仕事」というのは、あなたの場合、教育機関に勤めているのだから、ちゃんと「教育」と向き合うことです。教員でなくとも。なのにあなたは、自分の息子の教育すら投げ出している。教育に全く関心がないではないですか？いえ、あなたは息子が親の言うことを聞かないのが問題だ、親の権威が無いのが問題と言ってますね。
良く聞いて下さいね。今のあなたの高三の息子さんは…18歳になられる年齢だと思いますが、44年後には法律で「成人」とされる年齢になってしまうのですよ。もし犯罪を犯せば、大人と同じだけの罰を受けるし、「教育」をするにも“親”から“子”へと頭ごなしに権威を振りかざすようなことは出来ず、ちゃんと一人の大人としての人格を尊重して物を言わねばならなくなります。
このあたり、松本清張さんでも気づかなかった違和感が今読むとありますが、色んな意味で自戒の念も含めて主人公の石田さんに意見させて頂きました。
この石田さんには根っこが無い。幸か不幸か、国家的な権力者と謎のコネがあったために、華々しい出世街道の歯車に組み込まれ、自分は得意になっていたが、自分が拠り所とする“愛”を持っていないために、強くない。一人で立っていられない。

現理事長を引きずり下ろし、自分が理事長になる時のために勝手に新学長を決める手はずを整えに京都に行った際、こっそり若い愛人も同行した。全ては彼の味方をしているかと思われた時、彼が奈落の底に向かうほうに歯車がカチッとズレた気がした。

何より気になるのは、彼を出世させるきっかけになった、権力者との“強力なコネ”の正体だ。

この主人公は殺人は犯していない。
だけど、腹の中は殺人者より黒い。
社会の大きな影を追うミステリーかな。

2022/09/19

戦後、陸軍の用地払い下げで急成長した女子大。その後見立役者が主人公。その功績を認められて専務理事に就く。当時の理事長は没し、その後を継いだのが地方公務員だった亡き理事長の弟。金と名誉、色欲に強い。この理事長を追い落とすために主人公が策を練る。他方、この主人公も愛人遍歴、そして家庭での粗暴な息子や妻との確執に悩み。上巻では、理事長追い落としの準備が完了。