ナチスドイツ支配民族創出計画

キャトリーン・クレイ(著者), マイケル・リープマン(著者), 柴崎昭則(訳者)

• 販売会社／発売会社: 現代書館
• 発売年月日: 1997/06/25
• JAN: 9784768467152

商品レビュー

2018/09/24

　ナチ・ドイツの、優良人種創出、増加のためにハインリヒ・ヒムラーの主導下に創り出された組織「レーベンスボルン（生命の泉）」計画を概論的ながらも概ね設立から崩壊、戦後の裁判などまで追った英国BBC放送のキャトリーン・クレイ氏及びマイケル・リープマン氏による共著。

　ナチ・ドイツは東方のスラヴ民族を蔑視し征服後は殺害か優良アーリア民族の奴隷労働として当初はみなしていなかったにも関わらず、ポーランド侵略後視察すると意外にナチの優良人種たる重要な要素-金髪碧眼-の子供が少なくないことに驚き人口増加のため11歳まで（それ以上の年齢ではドイツ化が不可能とした）のそのような外見の子供達をさらい細かく測定（これも主に容姿に関する項目が多数を占めた。金髪碧眼はもちろん、筋肉、鼻の形（これでユダヤ系特性があるかわかるそうだ）、頭骨の形、その他などすうじゅうこうもくである。これらを経て「合格」した子供は子供のいないSSの過程に引き取られ故郷の記憶や言語を消され「アーリア化」されていった。敗戦後も自分の祖国に対する偏見を拭えなかった者もいる（後にドイツも祖国も愛していると言えるようになったのには読者としても胸をなでおろせる）
その彼の言葉が印象深く響く。
「超人も劣等な人々もいません」

本書は更に終章に「よみがえる優生学」という項目を置き、ナチの主張よりソフトながらあるいはほとんど変わらない過激な遺伝学者などを紹介し、犯罪者の遺伝子などが特定できれば中絶は是となるのか？その他、2018年の現在では一部日本でも実施されている出生前診断で判明する重度障害の胎児を中絶することなと、そもそも両親の選択でさえ正しいのか？と疑問を投げかける。そして、人間の尊厳に関わる問題には穏健な専門的知見を持った科学者と市民や政治家などが十分に開かれ公開された議論を経たあとでなければ科学的に可能であっても社会の方策としてして採用すべきではないし、遺伝子選別に基づいた公的政策が出てきた時点で末期であり疑うべきとしている。訳文は読みやすく難解な部分は殆どない。

解説はナチ・ドイツ関連に非常に詳しく著書、訳書も多い芝健介氏であるが氏が指摘する「経済至上主義に基づきまなじりをけっしてサバイバル競争をグロテスクなまでに個々人にまで迫るグローバル経済とこのナチ・ドイツの有用な人間と無用な人間を分ける身勝手かつ傲慢な価値判断は共通するところがあろう」という指摘はこの訳書刊行から21年経ちますます明らかな様に思われる卓見である。レーベンスボルン計画に興味がある日本語話者は必読の書といえよう。推奨書籍。

2015/01/10

人種各集団の勃興と闘争と没落を記録すること。ヒトラーによれば、これが歴史の最も重要な点である。
ヒムラーの長期的な目的はヒトラーに対して完全に忠誠を誓う国家治安部隊の創設であった。