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源実朝 「東国の王権」を夢見た将軍 講談社選書メチエ578
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商品詳細
内容紹介 | |
---|---|
販売会社/発売会社 | 講談社 |
発売年月日 | 2014/07/11 |
JAN | 9784062585811 |
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商品レビュー
4.3
3件のお客様レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
源実朝の歌集「金槐和歌集」から実朝とその名付け親である後鳥羽上皇との友好関係、踏み込んで言えば、早くに父の頼朝を亡くした実朝が後鳥羽上皇に父性を感じた、との話がとても面白かった。実子を儲けずに後鳥羽上皇の親王を次期将軍に据えることも、源氏の血統よりも「父」たる後鳥羽上皇の関係者を重視したわけだと。一時はその路線で進みかけた。しかし実朝の将軍親政は北条氏、特に北条義時から反感を買った。 そして鶴岡八幡宮での右大臣拝賀の儀で甥の公暁に暗殺される。その黒幕を義時や三浦義村とする説もあるが、本書では若い公暁の単独犯行というフツーの結論に追いついている。そして親王の将軍を、との路線は後見人たる実朝不在により王権東西分裂に繋がりかねないとして撤回される。後鳥羽上皇と義時と、つまりは朝廷と幕府との関係が悪化してゆき、承久の乱へ至ることになる。 「幕府政治に背を向け、公家文化に耽溺して和歌や蹴鞠に没頭した文弱な正宮、源氏と北条氏、幕府と朝廷との狭間で懊悩しつつも、個性的で雄大な『万葉調』の和歌を詠んだ孤独な天才歌人、こうした従来の実朝像をくつがえすことができたのではないかと考える。(エピローグp. 265) 歴史にあまり詳しくないわたしには、この「従来の実朝像」が無かった。そのために著者の論はとても飲み込みやすかった。しかも従来説や他の研究者の説なども随時取り上げている点も、本書を信頼できるものとして読み進めることができた。 今年(2022年)のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証担当者でもある著者は、本書や中公新書「承久の乱」などで描いた鎌倉時代初期のリアリティーを上げるのに大いに貢献していることと思われる。(が、2月下旬の現時点で私はまだ未見である…w
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実朝の夢見た東国王権。それは父頼朝が晩年に皇家との婚姻によって出来た子を将軍に迎える構想を引き継いだものだった。このできなかった実朝は後鳥羽院を主と仰ぎ、その血筋の皇子を自身の次の将軍にしようとした。後鳥羽院もそれを支持して頼朝を越える異例の官位上昇で実朝を支える。母政子や北条義...
実朝の夢見た東国王権。それは父頼朝が晩年に皇家との婚姻によって出来た子を将軍に迎える構想を引き継いだものだった。このできなかった実朝は後鳥羽院を主と仰ぎ、その血筋の皇子を自身の次の将軍にしようとした。後鳥羽院もそれを支持して頼朝を越える異例の官位上昇で実朝を支える。母政子や北条義時達もその意向に沿って動き、実現するかに思われたが、公暁によってころされる。歴史のもう一つの大きな可能性があった。また繊細な万葉調の天才歌人という実朝像を、和歌を読んだ背景や政治状況などを照らし合わせることで否定。遊び心あるそしてどちらかといえば古今や新古今和歌集に学んだ歌が多い。
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800年来の誤解をいま解く!というキャッチコピー。正岡子規、小林秀雄、斎藤茂吉といった錚々たる面々による、天才詩人であるが文弱な悲劇の将軍という評価に対し、歴史学と文学の両面より実朝の真実に迫る。 ということなのだが、本書の論旨は実は自分にはあまり意外性は感じられなかった。もとよ...
800年来の誤解をいま解く!というキャッチコピー。正岡子規、小林秀雄、斎藤茂吉といった錚々たる面々による、天才詩人であるが文弱な悲劇の将軍という評価に対し、歴史学と文学の両面より実朝の真実に迫る。 ということなのだが、本書の論旨は実は自分にはあまり意外性は感じられなかった。もとより右大臣正二位にまで達する職位は幕府内そして朝廷での安定した地位確立のためのはずだし、そもそも後鳥羽への接近は雅な世界の憧れはあるにせよ、むしろ幕府の相対化をもたらし、従属的であるにせよ東西2極化をさらに推進するものと考えるからだ。(後鳥羽にしてみれば権門体制への一層の取り込みかもしれないが・・・。)将軍親裁指向と執権北条義時ら北条勢力とのせめぎ合いもこの文脈の背景として首肯できるものだろう。将軍としては孤独だったかもしれないが、実際、幕府内での主導権・権威確立を考えた場合、実朝のとるべき道であったといえる。 一方、父・頼朝の構想を引き継ぎ、実朝や政子、そして義時、大江広元らをはじめとした幕府首脳が一丸となって、鎌倉に後鳥羽の皇子を迎え入れようとしていた事実は、ことここに至っては「幕府」にとって「源氏」の「血」もそれほど重要なものでなかったともいえる。官位の急激な上昇は、親王補佐の役割を目指した後鳥羽側からの家格上昇策と著者は考えるが、何よりも著者も触れるように幕府に対しての何の実績もない実朝にしてみても、「源氏」の貴種性を上げるための家格上昇は当然の選択であったことだろう。 そのような中で『金塊和歌集』に向けて没頭していく姿は、ある意味、趣味と実益を両立するものだったのではないだろうか。(笑)著者は特に『金塊和歌集』での様々な和歌を通じて実朝の心情を読み解いていくのだが、歴史的背景に対してパラレルに跡付ける新味があってなかなか興味深かった。 次にお約束の実朝暗殺についてだが、自分も従来の有力説通り三浦義村黒幕説を単純に思っていたが、確かに経緯を考えると直接的には公暁の妄念のみが生んだ犯行であったかもしれない。実際はどうであるにせよ現時点でそこに黒幕を考えるには、少々ミステリーチックに過ぎるのかもしれない。また、事件後に阿野全成の息子どもや頼家の息子が次々と殺されている事実は、「源氏」の「血」は「御輿」にはなり得る存在だが、今となっては幕府首脳にはその「血」自体、邪魔なものでしかなく、「幕府」存在としても必須のものでもなかったということなのだろう。何よりその後の摂家将軍・親王将軍がそれを証明しており、対朝廷対策という意味において頼朝時代から断続的に要請されてきたという親王下向の願いは、後世の「幕府」条件を考えると歴史の皮肉ともいえる。 さて、実朝の死で後鳥羽の構想も頓挫したわけだが、幕府首脳の「源氏」断絶策はむしろチャンスでもあったはずなのだが、その後の流れはパワーバランスを見誤ったというほかはない。実朝喪失は後鳥羽の王権をも大きく覆すこととなりこれも歴史の皮肉であったともいえる。 かように存在自体が微妙なバランスを取り持っていた実朝であるが、今回著者は「たくましい」政治家としての側面をも併せ持つ新実朝像を提示したのだと思うが、ひたむきな将軍親裁といい、後鳥羽、そして和歌への傾倒といい、かなり純真で孤独な人物だったのだろうという基本イメージそのものは未だ変わらないといっても良いのではないか。 文学の素材を何とか使えないものかと自分ももったいなく感じていたので(笑)、今後も著者には、文学面などのアプローチから人物の心情面にまで踏み込んだ歴史論述を行い、歴史学に新風を吹かし続けてもらいたい。
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