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公智と実学
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商品詳細
内容紹介 | |
---|---|
販売会社/発売会社 | 慶應義塾大学出版会 |
発売年月日 | 2012/10/22 |
JAN | 9784766419689 |
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公智と実学
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福沢諭吉の思考に迫る本だが、その考え方が面白い、そして極めて鬱陶しい。例えば、幕府側から新政府に鞍替えのように召し抱えられた勝海舟や榎本武揚に対し、執拗に迫る。幕府と共に死ぬべきだったと。他には、豊臣秀吉が農民から出世したのは私欲であり認めない、など。中庸の徳、極端な論説ではなく...
福沢諭吉の思考に迫る本だが、その考え方が面白い、そして極めて鬱陶しい。例えば、幕府側から新政府に鞍替えのように召し抱えられた勝海舟や榎本武揚に対し、執拗に迫る。幕府と共に死ぬべきだったと。他には、豊臣秀吉が農民から出世したのは私欲であり認めない、など。中庸の徳、極端な論説ではなくバランスこそ大事と唱えるクセに、強制的利他主義、忠実性志向だ。勝海舟への批難だが、敵将につく事を認めないならば、先の大戦で日本人が滅びろという主張に近い。読みが浅いかも知れないが、日本の為に悪戯に命を落とさぬ方が重要で、榎本武揚もそうした志向で努めて踏み止まった故の結果なのだから。 ー しかし福澤は、勝が和議を申し入れたというのはけしからんというわけです。なぜ徹底して戦わないのかと。それは先ほどの福澤のいう「我慢」なんですよね。福澤の挙げている例として、自分の親が非常に重篤な病気でもう命が保障されていない時でも、それを安楽にするというのではなくて、本当の子どもであれば無駄だと知っていても投薬し、医者を呼び、なんとか元気になって欲しいと思うことが人間の尊い私情、私の気持ちだと。そういう姿勢をとらないで、勝が和議を申し込んで十分戦わなかったことをまず非難するわけです。さらに重要なのは、それだけでも自分は怒りを覚えるのに、勝は新しい政府のなかで栄達を遂げたというわけですね。海軍卿になり枢密顧問官を務める。要するにいわゆる二君に仕える人間だと。無血開城に関しては、それが終わった段階で自分が身を引いて質素な生活をして世に出なければ、良い姿勢だろう。しかし、勝はそうしなかった。それを責めるわけです。 ー そして後半では榎本武揚を批判するわけですね。ご存じのように榎本もやはり幕臣で、江戸幕府の戦争の状況が思わしくなくなった時に、幕府の軍艦数隻を伴って箱館に行き、五稜郭で戦い、そして敗れる。その時榎本武揚の引き連れた部下のなかのかなりの部分に、主領である榎本武揚が白旗を掲げても、われわれは死ぬまで戦うといって、実際死んでしまった者が多数いた。 他方でこうした反論、異説は必要な過程であると福沢諭吉自身が考えていた文も読める。私は下記の考え方が好みだ。 ー 福澤はそれを「多事争論」という言葉で表わしています。この考え方は、福澤よりもずいぶん時代的に後になりますが、ベトナム戦争に反対してワシントンを去ったウォルター・リップマンという二•世紀のアメリカの偉大なジャーナリストであり哲学者がThe Public Philosophy(『公共の哲学』)という本のなかで強調した点と同じですね。つまり議論、言論の自由、学間の自由、表現の自由とわれわれはいいますが、これは何も私的な利益のためではないというわけです。言いたいことがあるから言うというのが言論の自由というふうに考えては困ると。むしろ言論が自由であることによって、公的に、国全体とか社会全体に対してどういう公共の利益があるかということを踏まえて初めて、言論の自由というのは意味を持つ。単なる私的な感情の発露、権利主張に終わるものではないということです。それは福澤の、往時の異端妄説が現代のオーソドックスな考え方になっているという表現にも現れております。議論を戦わせることによって、初めて正しいこと、真理というものが現れ出るという考え方です。この考え方というのは非常に重要で、誰かが完全な真理を手にしているのではないというわけですね。発明者はソクラテスといわれていますが、弁証法という言葉があります。AとBの二人がある時に部屋に入ってきて議論を始める。議論を戦わせ反論をし、その反論にまた再反論を加えて、議論を重ねていくと、議論が終わった時に部屋を出る二人が入ってきた時よりももっと知的に優れたもの、あるいは真理に近いものを獲得している。これは言論の公共性と言うものだ。福沢の多事争論と言う考え方が、リップマンの公共の哲学の中の考え方の基本と共通する。これはトクヴィルも強調していた。 次の文章もメモったが、共感する内容だ。 ー 「無識無学の婦女子の群居する御殿では」、誰が良いポストを得るかを無知無徳の一主人(殿様) が決定している、その決定の仕方に原理原則がまったくない。勉強して罰せられるかもしれないし、怠惰だから褒められる場合もあるかもしれない。要するに、自分を良くしようとするような原理原則がなく、「ただ朝夕の臨機応変にて主人の寵愛を倖するのみ。あたかも的無き空中に矢を射るようなものである」と。たまたま仲間のうちに立身出世する者があっても、その立身の方法を学ぶことができない。つまり原理原則がないわけです。ただうらやましく思うだけであり、このうらやましいという気持ちが悪化して、ねたみ、そねみへと変貌する。
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福澤諭吉の「私」に対する「公」の優越性の強調と「公」の尊重。すなわち「公共性」を重視する福澤の思想について重点を置き論じたもの。中身は新聞連載の時論と慶應関係の講演録で比較的読みやすい。 時論の方は2008~2012年のものなので内容的に少々古く感じる部分はある。講演録の方は経済...
福澤諭吉の「私」に対する「公」の優越性の強調と「公」の尊重。すなわち「公共性」を重視する福澤の思想について重点を置き論じたもの。中身は新聞連載の時論と慶應関係の講演録で比較的読みやすい。 時論の方は2008~2012年のものなので内容的に少々古く感じる部分はある。講演録の方は経済学が専門であり、福澤研究の専門家ではない著者によるものではあるが、元々福澤は経済学を重視した学者でもある。よって、西洋思想を受容する同じ経済学者として、日本政治思想史の専門家とは違った角度で共鳴する部分が感じられ、新たな視点を提供しているとも言える。
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経済学の専門家による、「公」と「私」に関する哲学論。福沢諭吉の研究から、「私智」「私徳」ではなく「公智」「公徳」を重んずるべきことを強調している。また、原理的な理論また二者択一的な極端な判断よりも、福沢諭吉の言う中庸的なバランスが重要だとする。この考え方に基づけば、現在直面してい...
経済学の専門家による、「公」と「私」に関する哲学論。福沢諭吉の研究から、「私智」「私徳」ではなく「公智」「公徳」を重んずるべきことを強調している。また、原理的な理論また二者択一的な極端な判断よりも、福沢諭吉の言う中庸的なバランスが重要だとする。この考え方に基づけば、現在直面している問題解決にも通ずると主張している。難解なところもあったが、同意できる意見が多かった。 「(福沢諭吉の主張は)生きた思想であるからこそ、時として「矛盾」と映ることもある。その意味では、論理的整合性を貫徹する「思想」は観念的で、生きた現実への対応力はない」p6 「現代の無理解は、過去の無知から生まれる(マルク・ブロック)」p14 「(日本の政治家)さほど重要でない事項に配慮が行き過ぎる一方、優先すべき事項を引き延ばしにすることが多過ぎる」p17 「わが国のデモクラシーが齢を重ねる間に、政治家たちが身につけた姿勢は、政治は「思想」ではなく、「性格」の勝負だということのようだ。理念や思想を前面に出すのではなく、「感じの良さ」にこそ自分の政治生命があると躍起になっているように見える。思想を隠してでも、表面的な謙虚さや、感じの良さを売りにすべきだと認識するようになった」p18 「(普天間移設先送り)国と国との約定が遵守されない時、連盟も同盟もあり得ない。国と国との間を支える正義がもたらす平和と交易と相互援護は、国際社会の共存共栄の礎なのである」p19 「両首脳(オバマ、鳩山)の性格上の類似点は「判断の遅さ」だけに留まらない。熟慮を経ない理想をすぐ口にするという点も似ている」p23 「日本は自国の利益が他国の利益とどうかかわっているのか考えず、国際競争の過酷さ、冷徹さを認識できない点で(明治時代と今が)共通するものが見えるからだ」p25 「夜に感情を吐露して書いた手紙は、封をせず、翌朝もう一度読み返してから投函せよ」p56 「中国の「官立大学」の学生生活の特徴の一つは、原則「全寮制」となっていることだ。寮生活が若者の「他者と接触する力」を養い、自己主張のための社会的訓練の機会となる。日本のように、完全なプライバシーのあるワンルーム・マンションに住んで大学生活を送るのとの精神の発達に与える影響は異なるであろう」p71 「(一般的な見解とは異なり)テロリストは、母国の人口全体から見て教育水準が高く、貧困家庭の出身者は少ない。国際テロリストは、市民的自由が抑圧され政治的権利が十分与えられていない国の出身者が多い」p79 「(経済学の定理)①為替レートの安定、②自由な国際取引、③独立した金融政策 - の3つの政策目標のうち同時に達成できるのは2つ」p81 「(トクヴィル)デモクラシーが進むと、個人主義的な考えが強くなり、もう利己主義以外の何ものでもないような行動を人々が取り出す」p116 「(自分と他人を)比較することによって人間は自ら不満足と不幸を呼び寄せている」p134
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