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パヴァーヌ ちくま文庫
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 筑摩書房 |
発売年月日 | 2012/10/12 |
JAN | 9784480429964 |
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パヴァーヌ
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14件のお客様レビュー
歴史改変小説。『パヴァーヌ』は、楽曲のように、序章から終章に挟まれた6つの章(旋律)があり、それぞれに語り手となる主人公が紡ぎ出す物語で構成された連作小説です。各内容が意外なところで関連しており、特に5章からそれらの繋がりが明確になって行きます。気がつけば、すっかり物語の世界に没...
歴史改変小説。『パヴァーヌ』は、楽曲のように、序章から終章に挟まれた6つの章(旋律)があり、それぞれに語り手となる主人公が紡ぎ出す物語で構成された連作小説です。各内容が意外なところで関連しており、特に5章からそれらの繋がりが明確になって行きます。気がつけば、すっかり物語の世界に没入してしまいました。 1587年、女王エリザベス一世は、カトリックの復興ひいてはイングランドを脅かす可能性のあるスコットランド女王メアリー・スチュアートを、「エリザベス暗殺未遂」という罠に嵌めて亡き者にしました。 本作は、その翌年の1588年、自身も暗殺の憂き目に遭い歴史の歯車が狂いを生じたところから始まります。混乱に乗じたスペイン無敵艦隊にイングランドは敗れ、プロテスタントの宗教改革は鎮圧、欧州世界は法王によるローマ・カトリックの支配下に入ります。 そこは、教理に反するとして、テクノロジーの発展が阻害された世界。エネルギーは蒸気機関頼りであり、人々は電力の恩恵をうける事なく不便な日常を強いられており、教会に反すれば異端として弾圧されてしまいます。時代は下り20世紀末、鬱屈した閉塞感の中で、ついにイングランド南部から反旗が上がり…というお話し。 機関車や信号塔の細かい描写は作品にリアリティを与え、人々の暮らしぶりや閉塞感、風景などの自然を描き出す文章がとても美しい。物語も、構成がよく練られていて、後半から歴史が動いていく様子に心が掴まれました。 第六旋律のコーフ城の話しのように、実際の歴史を上手く物語に溶け込ませてあるのも良かったです。
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オルタネイトヒストリー物。短編をつないでSFの首尾をつけてるが、そんなんより手旗信号、蒸気機関など消えゆく技術に向けた執念めいた架空リアリズムにどっぷり浸る作品。
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閑散とした大地を疾走する蒸気機関車。吹き上がる黒煙は寒空を覆い、耳を劈く汽笛は荒涼たる山間にきえる。灰色の雲は低く、強風に急きたてられて進む帆船の眼前に広がるは暗澹の大海。教会の祝詞が人々を包み、蒸気と手動の信号が国を往来する世界は、英国キース・ロバーツの歴史改変小説の傑作と名高...
閑散とした大地を疾走する蒸気機関車。吹き上がる黒煙は寒空を覆い、耳を劈く汽笛は荒涼たる山間にきえる。灰色の雲は低く、強風に急きたてられて進む帆船の眼前に広がるは暗澹の大海。教会の祝詞が人々を包み、蒸気と手動の信号が国を往来する世界は、英国キース・ロバーツの歴史改変小説の傑作と名高い長篇「パヴァーヌ」です。 1588年、英国女王エリザベス1世が暗殺され、混乱に乗じたスペイン無敵艦隊により英国本土が強襲される。プロテスタントの気運高まる英国は、カトリック・ローマ法王の支配下におかれ、欧州では大きなうねりと化していた宗教改革はついに鎮圧されてしまう。 時はながれ20世紀、法王庁の弾圧により、科学の進歩は足踏みをしていた。そこはガソリン車が存在せず、蒸気機関車のみが発達し、信号塔と呼ばれる人力の通信技術が闊歩する世界。暗く閉ざされた「もうひとつの欧州」。しかし、ついに反乱の火の手があがり… あらすじのとおり、20世紀が舞台の小説ですが、雰囲気は中世ヨーロッパ。野盗に怯え暗く貧しい生活を強いられる平民と、権力を貪る教会/貴族の横暴が終盤のカタルシスに繋がります。が、本書にとっての魅力は、やはりこの改変世界に関する圧巻のリアリティでしょう。まるでこの世界が現実に存在していたかのような濃密な描写は、登場人物の息づかい、その吐息の冷たさまでもが目に浮かぶほど。その筆致は情景描写に限らず、貧しさのなかで必死に生きる人々の不鮮明な感情をも描きます。このリアリティがあるからこそ、閉ざされた世界に反発する人々の苦悩を味わい、その微妙な感情をわかち合うことができるかと。 さて、物語は終盤、マーガレットが語る次の台詞がとても印象に残っています。 「時々私、人生全体が意味の集まりだという気がするの。いろんな種類の糸が綴れ織りか錦のように縦横に織り上げられているのよ。だから一本でも引き抜いたり、断ち切ったりすれば逆に布全体の模様をすっかり変えてしまうことになるの。そうかと思うと今度は……全く意味なんかないんだという気もするわ。後から見ても前から見ても全く同じことで、結果が原因を導き、その原因がさらに結果を導いて行く……おそらく私たちが『時』の終わりまでたどり着いた時に、それが起こるのかもしれない。世界中がばねみたいにパッと勢いよくほどけて、それからまた最初に向かって少しずつ巻いて行く……」 ちょっとメタ的な発言とも捉えられなくはないですが、協会による圧制のもと、人生を悲観めいて、そして第三者的に眺めるこの発言には、なんだか「もうひとつの欧州」のなかで実際に生きる人間の言葉をきいたような気がするのでした。
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