パヴァーヌ の商品レビュー
歴史改変小説。『パヴァーヌ』は、楽曲のように、序章から終章に挟まれた6つの章(旋律)があり、それぞれに語り手となる主人公が紡ぎ出す物語で構成された連作小説です。各内容が意外なところで関連しており、特に5章からそれらの繋がりが明確になって行きます。気がつけば、すっかり物語の世界に没...
歴史改変小説。『パヴァーヌ』は、楽曲のように、序章から終章に挟まれた6つの章(旋律)があり、それぞれに語り手となる主人公が紡ぎ出す物語で構成された連作小説です。各内容が意外なところで関連しており、特に5章からそれらの繋がりが明確になって行きます。気がつけば、すっかり物語の世界に没入してしまいました。 1587年、女王エリザベス一世は、カトリックの復興ひいてはイングランドを脅かす可能性のあるスコットランド女王メアリー・スチュアートを、「エリザベス暗殺未遂」という罠に嵌めて亡き者にしました。 本作は、その翌年の1588年、自身も暗殺の憂き目に遭い歴史の歯車が狂いを生じたところから始まります。混乱に乗じたスペイン無敵艦隊にイングランドは敗れ、プロテスタントの宗教改革は鎮圧、欧州世界は法王によるローマ・カトリックの支配下に入ります。 そこは、教理に反するとして、テクノロジーの発展が阻害された世界。エネルギーは蒸気機関頼りであり、人々は電力の恩恵をうける事なく不便な日常を強いられており、教会に反すれば異端として弾圧されてしまいます。時代は下り20世紀末、鬱屈した閉塞感の中で、ついにイングランド南部から反旗が上がり…というお話し。 機関車や信号塔の細かい描写は作品にリアリティを与え、人々の暮らしぶりや閉塞感、風景などの自然を描き出す文章がとても美しい。物語も、構成がよく練られていて、後半から歴史が動いていく様子に心が掴まれました。 第六旋律のコーフ城の話しのように、実際の歴史を上手く物語に溶け込ませてあるのも良かったです。
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オルタネイトヒストリー物。短編をつないでSFの首尾をつけてるが、そんなんより手旗信号、蒸気機関など消えゆく技術に向けた執念めいた架空リアリズムにどっぷり浸る作品。
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閑散とした大地を疾走する蒸気機関車。吹き上がる黒煙は寒空を覆い、耳を劈く汽笛は荒涼たる山間にきえる。灰色の雲は低く、強風に急きたてられて進む帆船の眼前に広がるは暗澹の大海。教会の祝詞が人々を包み、蒸気と手動の信号が国を往来する世界は、英国キース・ロバーツの歴史改変小説の傑作と名高...
閑散とした大地を疾走する蒸気機関車。吹き上がる黒煙は寒空を覆い、耳を劈く汽笛は荒涼たる山間にきえる。灰色の雲は低く、強風に急きたてられて進む帆船の眼前に広がるは暗澹の大海。教会の祝詞が人々を包み、蒸気と手動の信号が国を往来する世界は、英国キース・ロバーツの歴史改変小説の傑作と名高い長篇「パヴァーヌ」です。 1588年、英国女王エリザベス1世が暗殺され、混乱に乗じたスペイン無敵艦隊により英国本土が強襲される。プロテスタントの気運高まる英国は、カトリック・ローマ法王の支配下におかれ、欧州では大きなうねりと化していた宗教改革はついに鎮圧されてしまう。 時はながれ20世紀、法王庁の弾圧により、科学の進歩は足踏みをしていた。そこはガソリン車が存在せず、蒸気機関車のみが発達し、信号塔と呼ばれる人力の通信技術が闊歩する世界。暗く閉ざされた「もうひとつの欧州」。しかし、ついに反乱の火の手があがり… あらすじのとおり、20世紀が舞台の小説ですが、雰囲気は中世ヨーロッパ。野盗に怯え暗く貧しい生活を強いられる平民と、権力を貪る教会/貴族の横暴が終盤のカタルシスに繋がります。が、本書にとっての魅力は、やはりこの改変世界に関する圧巻のリアリティでしょう。まるでこの世界が現実に存在していたかのような濃密な描写は、登場人物の息づかい、その吐息の冷たさまでもが目に浮かぶほど。その筆致は情景描写に限らず、貧しさのなかで必死に生きる人々の不鮮明な感情をも描きます。このリアリティがあるからこそ、閉ざされた世界に反発する人々の苦悩を味わい、その微妙な感情をわかち合うことができるかと。 さて、物語は終盤、マーガレットが語る次の台詞がとても印象に残っています。 「時々私、人生全体が意味の集まりだという気がするの。いろんな種類の糸が綴れ織りか錦のように縦横に織り上げられているのよ。だから一本でも引き抜いたり、断ち切ったりすれば逆に布全体の模様をすっかり変えてしまうことになるの。そうかと思うと今度は……全く意味なんかないんだという気もするわ。後から見ても前から見ても全く同じことで、結果が原因を導き、その原因がさらに結果を導いて行く……おそらく私たちが『時』の終わりまでたどり着いた時に、それが起こるのかもしれない。世界中がばねみたいにパッと勢いよくほどけて、それからまた最初に向かって少しずつ巻いて行く……」 ちょっとメタ的な発言とも捉えられなくはないですが、協会による圧制のもと、人生を悲観めいて、そして第三者的に眺めるこの発言には、なんだか「もうひとつの欧州」のなかで実際に生きる人間の言葉をきいたような気がするのでした。
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1588年、英国女王エリザベス1世が暗殺され、スペイン無敵艦隊がイギリスに侵攻。ローマ法王の支配下に入ったイギリスは、宗教革命も産業革命も起こらず中世の封建社会のまま20世紀を迎えていた。科学技術の発展は法王庁に寄って厳しく制限され、ガソリン駆動の自動車ではなく蒸気機関車が主要な...
1588年、英国女王エリザベス1世が暗殺され、スペイン無敵艦隊がイギリスに侵攻。ローマ法王の支配下に入ったイギリスは、宗教革命も産業革命も起こらず中世の封建社会のまま20世紀を迎えていた。科学技術の発展は法王庁に寄って厳しく制限され、ガソリン駆動の自動車ではなく蒸気機関車が主要な交通網を形成し、手動の信号塔が通信インフラを独占している閉鎖的な世界。しかし、20世紀も半ばを過ぎ、この社会のあり方に違和感を感じる者たちが、それぞれのやり方で叛旗を翻し始める・・・ 何と美しい物語。 荒野を疾走する漆黒の蒸気機関車、雪原の中屹立し信号を送り続ける信号塔、黒ずんだ入り江と波間を翔る白い舟、薄暗い工房に差し込む窓の光・・・ この作品は、ジャンルSF的に言えば「改変歴史もの」。中世の暗黒時代の延長線上にある「もう一つのイギリス」の歴史における様々なエピソードを描いた連作集で、基本的に陰鬱で暗いトーンで占められています。しかし、その中で描き出される「もう一つのイギリス」の風景の美しいこと、艶やかなこと。光の加減から空気の湿度感までがリアリティたっぷりに感じ取れるぐらい、迫真の描写力をもって読者の眼前に広がります。作者のキース・ロバーツはイラストレーターでもあるそうで、確かな描写力はその辺りに由来するのかもしれませんね。 改変歴史SFの名作として名高く、サンリオSF文庫から発刊されたりもしていましたが、SF風味は薄めです。読了しての印象は、マジックリアリズムによる重厚な歴史ドラマ。世界の変革に向けて静かに闘志を燃やす人々の姿をリリカルに描き出し、その試みが最終章に至って切々たる感動を呼びます。 ただ、読了した後に最初から少し読み直して、改めて気づいたんですけど、この作品、20世紀末を舞台としてるんですよね。20世紀末に蒸気機関車が走り回って、信号塔がカタカタと手動で通信を伝達して、お城には領主と兵隊がいて年貢を取っている、そこに気づくと改めて驚きます。この発想は正にSFですよ。描写がとにかく丁寧でリアルなので、読んでるとつい忘れちゃうんですけどね(^_^; 日本での紹介例が非常に少ない、知る人ぞ知る作家らしいですが、ぜひ他の作品も読んでみたいですね。 何かとせわしない年末に、豊かな読書体験をさせてもらいました。
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エリザベス女王が暗殺されたことにより、英西戦争でイギリスが勝利をおさめる代わりに、カトリック教会が支配を堅固なものとした、別の世界におけるイギリスを舞台とする連作集。 この世界では、ローマ教会により技術革新が制限され、20世紀半ばになっても自動車も電気も普及していない代わりに、蒸...
エリザベス女王が暗殺されたことにより、英西戦争でイギリスが勝利をおさめる代わりに、カトリック教会が支配を堅固なものとした、別の世界におけるイギリスを舞台とする連作集。 この世界では、ローマ教会により技術革新が制限され、20世紀半ばになっても自動車も電気も普及していない代わりに、蒸気自動車や人力で羽を動かして信号を送る通信塔ネットワークなど、異なる技術が発達を遂げている。いわば、中世が近代と切断されることなく継続しているようなもうひとつの現実である。そこは、キリスト教に放逐された「古い人々」までが干渉してくるにもかかわらず、まさに別のわれわれの姿を見ているような、圧倒的なリアリティに満ちている。 蒸気機関車会社を経営するジェシー、荒野の獣と妖精に囚われる通信士ラルフ、白い船を救おうとするベッキー、異端審問を目撃し改革者となる修道士ジョン、ジェシーの姪マーガレット、そして遂に反逆の狼煙を挙げるその娘エリナー。彼らの物語はひとつひとつが生き生きと脈打っているが、世代を超えて自由と解放を求めたこれらの人々の苦しみと挫折は、終章において、ローマ教会の支配の終焉、民主主義へと結実したことが告げられる。ではなぜ、このような別の歴史が想像される必要があったのだろう? 人々の苦闘を見守ってきた「古い人」ジョンは、こう告げる。ローマ教会の役割は、止められないとわかっていた進歩をたとえ半世紀でも押しとどめ、その間に人々が真の理知に近づく時間をあたえることにあったと。そのために多くの残虐が行われたが、少なくとも2つの世界大戦が引き起こした巨大な惨禍は起こらなかったと。 第2次世界大戦の記憶もまあたらしく科学技術が急速な発展を遂げつつあった1968年に書かれたこの小説が書かれた背後には、もうひとつの世界を想像せずにいられない、こちらの世界の切望があったのだろう。 ただ、「解説」でも指摘されているように、あちらの世界では電気の開発に引き続いてすぐに原子炉が開発されていながら、こちらの世界で起きた惨禍のひとつに原子爆弾が挙げられていないことは確かに気になる。カトリック教会の支配からの解放がイギリスからしか起こらないと想定されていることも含めて、作者の認識にはいろいろと疑問もわいてくるのだが、それを置いても科学技術と歴史について考えを誘われるとともに、文章表現のすばらしさも魅力的な小説である。
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※このレビューにはネタバレを含みます
SFの定番、改変世界ものです。まあ、何ですか、そのー、このジャンルは傑作が多いですからね~ 本編より、解説にあった、「カトリックとプロテスタントの労働倫理の差がおのおのの信奉国の現在の経済状況に如実に反映されている」ってのが興味深いと思った。
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絶版になっていて「読める機会があれば是非/絶対」 と言われていた作品が手に入るようになったので読む。 パラレルワールド、歴史のIf、改変世界ものだが 読了後はマイク・レズニック『キリンヤガ』を思い出した。 三人称とありふれた名前で分かりにくく感じるところ、 それぞれの旋律とその...
絶版になっていて「読める機会があれば是非/絶対」 と言われていた作品が手に入るようになったので読む。 パラレルワールド、歴史のIf、改変世界ものだが 読了後はマイク・レズニック『キリンヤガ』を思い出した。 三人称とありふれた名前で分かりにくく感じるところ、 それぞれの旋律とその関係、時系列の整理は じっくり読まねばならない。 生きている間に翻訳読めてよかった。 生きている間に原書で読みたい。
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宗教改革が無く、カトリックが世界を支配していたら、現代はどうなっていたか?というif小説。英国南部を舞台に、名もなき人々の日常生活から書き出していますが、描写が緻密、情景が詩的で、重厚な純文学を読んでいるようでした。カトリックが科学技術の進歩を抑えると、中世のような社会が続くんで...
宗教改革が無く、カトリックが世界を支配していたら、現代はどうなっていたか?というif小説。英国南部を舞台に、名もなき人々の日常生活から書き出していますが、描写が緻密、情景が詩的で、重厚な純文学を読んでいるようでした。カトリックが科学技術の進歩を抑えると、中世のような社会が続くんですね。一話完結の連作長編ですが、ひとつひとつの小さなエピソードがやがて大きな感動を呼ぶうねりになっていきますので、初めの頃が読みづらくても辛抱しましょうね。
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全編に渡っているかとは思うが特に、 第三旋律の女の子や第二旋律の信号手 のように、「革命!」という感じでは ない、内から沸き起こる静かな反乱の 力が設定とマッチしている。という か、それ自体がこの作品の本質なの か。
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エリザベス1世が暗殺され世はヴァチカンが世界を牛耳る大カソリック時代となった!なifワールド 特異な世界の出来事だけを語るかと思いきや登場人物たちの内面を掘り下げてそこから世界を語る手法は好ましい ただし、オチは御都合主義的であまりいただけない また、訳注が文章に頻繁に出てくると...
エリザベス1世が暗殺され世はヴァチカンが世界を牛耳る大カソリック時代となった!なifワールド 特異な世界の出来事だけを語るかと思いきや登場人物たちの内面を掘り下げてそこから世界を語る手法は好ましい ただし、オチは御都合主義的であまりいただけない また、訳注が文章に頻繁に出てくるところはどうにかならなかったのか
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