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秘密の武器 岩波文庫
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秘密の武器 岩波文庫

J.コルタサル【作】, 木村榮一【訳】

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秘密の武器 岩波文庫

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 岩波書店
発売年月日 2012/07/20
JAN 9784003279038

秘密の武器

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2025/06/30

20世紀アルゼンチンの作家コルタサル(1914-1984)の第三短篇集。1959年。 コルタサルとともにラテンアメリカ文学ブームを担ったアルゼンチンの作家ボルヘスは、夢、無意識、狂気を人間の外部にあるヨリ大きな何か(《永遠客体》)へ通じる秘密の抜け穴のようなものとして捉えて、人...

20世紀アルゼンチンの作家コルタサル(1914-1984)の第三短篇集。1959年。 コルタサルとともにラテンアメリカ文学ブームを担ったアルゼンチンの作家ボルヘスは、夢、無意識、狂気を人間の外部にあるヨリ大きな何か(《永遠客体》)へ通じる秘密の抜け穴のようなものとして捉えて、人間を、人間のスケールを超えて時間的にも空間的にも遠くに高まっていく「高度」においてついに解消させてしまうようなところがある。逆にコルタサルは、夢、無意識、狂気から出発して人間の内部に沈潜していき、その内奥において見出される何かを通して、日常とは異なる、世界の別の姿を現出させることを企てているように感じられる。その意味では、コルタサルはボルヘスよりもフロイトに近い。 「十八世紀の哲学的、科学的楽観主義によれば、この世界はさまざまな法則、原理、原因と結果の関係、きわめて明確な心理学、きちんと作成された地勢図といったものの体系によって、多少とも調和のとれた形で支配されているとのことだが、一切がそうした世界の中で記述し、説明することができると思い込んでいるのが、僕のいうまやかしのリアリズムである。僕自身は、それよりももっと秘めやかで伝え難い秩序があるのではないかと考えている。また、アルフレッド・ジャリは真に現実を研究しようとすれば、法則ではなく、それから外れた例外に目を向けなければならないと言っているが、この発見は真に実り多いものである。僕はあまりにも無邪気なすべてのリアリズムからかけ離れたところで文学を追求してきたが、その僕を導いてくれたのが先に述べた別の秩序であり、アルフレッド・ジャリの発見だったのである。」(『コルタサル短篇集 悪魔の涎・追い求める男 他八篇』岩波文庫p294-295) コルタサルは、「まやかしのリアリズム」「あまりにも無邪気なリアリズム」とは別の世界の姿を言語で構築するために、どのような手段に打って出るのか。 そもそも理性にとって秩序とは、事象が区別され、序列づけられ、順序に従って排列されていることである。近代的な「リアリズム」の秩序を根底で支えている観念は、時間の連続性(順序が保たれているということ)と意識の連続性(同一性が保たれているということ)だろう。つまり、ニュートン力学的世界観とデカルト以降の自己意識の哲学だ。ここでの連続性とは、変化が順を追って起こり、かつ変化の程度が漸進的であることをいう。時間と意識の連続性は、互いに相即的だ。近代的な「リアリズム」の世界像を揺るがせたいのなら、この連続性を撹乱してしまえばいい。 そこで言語が役割を果たす。言語それ自体は、線形に排列されるが、言語によって構築される世界の像は、いくらでも不連続なものになりうる。収録されている作品の中でコルタサルがさまざまな試みをしているとおり、言語によって構築される世界において、時間の流れは複線化し、多方向になり、逆行し、屈折し、折り重なり、断線し、飛躍し、意識は同一律を逃れ、誰かのもとへ乗り移り、誰かのものが乗り入れてきて、もはや「誰か」の意識であるとは名指しできない渾然とした何者かになってしまう。 言語は、一見すると厳密な論理に従って事象を整序しているようでいて、実は極めて信用ならない代物であるといえる。ここに、コルタサルのような実験的な(「あまりにも無邪気なすべてのリアリズムからかけ離れた」)文学の可能性が開かれることになる。 「うまく言えないが、音楽はおれを時間の外へ連れ出してくれたんだ。いや、むしろ音楽が、おれを時間の中に引きずり込んだと言ったほうがいいかもしれない。だが、おれのいう時間ってのは、つまり……言ってみれば、おれたちとは何の関係もない時間なんだ」(「追い求める男」p149) 「なあ、ブルーノ、地下鉄に乗っている時だとか、演奏している時に時間が変化するんだが、あんな感じでずっと生きていけないだろうか? 一分半の間に何が起こるかも分かるだろうし……その時、おれはひとりの人間であって、しかも同時にあいつやきみや若い連中でもあるんだ。誰だってその気になれば、何百年も生きられるはずだ。その方法さえ分かれば、今の何千倍もの人生を生きることができるはずだ。ただ、時計や、何分だとあさってだとか、そういったことにこだわるものだから、生きる意味を見失ってしまって……」(同上p161)

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2020/12/26

ずっと田舎から出たことのない人間(自分)が、都会から来た洒落た人間(作者)の醸し出す粋な雰囲気に驚嘆し羨望しうまく消化できずに、いぶしたまま焦がれている。びっくらするほど主要人物の身のこなし会話考えが洗練されている。はあはあ。チャーリーパーカーの自伝以外は彼の持ち味である、現実か...

ずっと田舎から出たことのない人間(自分)が、都会から来た洒落た人間(作者)の醸し出す粋な雰囲気に驚嘆し羨望しうまく消化できずに、いぶしたまま焦がれている。びっくらするほど主要人物の身のこなし会話考えが洗練されている。はあはあ。チャーリーパーカーの自伝以外は彼の持ち味である、現実か幻想かあいまいな世界で溺れる、他者を必要としてないこじらせであり、物語はくっきりしてないので、彼の提供する魔力にとりつかれない限りは、もて余す類の本だと思う。真夏にアブラゼミの大合唱の中にいると気が狂いそうになる。そういう感じ。

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2018/08/02

アルゼンチンの作家コルタサルの第三短編集、 全5編で、作品の舞台は作者が長く暮らしたパリ。 解説によれば、 収録作はいずれもコルタサル本人の内面の問題 ――心を占拠し、振り払おうとしてもこびりついて 落ちない何かを言語化し、 自身から切り離そうと試みて得られた生成物、らしい。 ...

アルゼンチンの作家コルタサルの第三短編集、 全5編で、作品の舞台は作者が長く暮らしたパリ。 解説によれば、 収録作はいずれもコルタサル本人の内面の問題 ――心を占拠し、振り払おうとしてもこびりついて 落ちない何かを言語化し、 自身から切り離そうと試みて得られた生成物、らしい。 以下、個人的にグッと惹きつけられた2編について。 いずれもある種の「憑依(posession)」 もしくは「強迫観念(obsession)」を描出している。 「母の手紙」  不器用な兄ニーコと、  その想い人ラウラの間に割り込んで  彼女を奪った弟ルイス。  ルイスとラウラは結婚してブエノスアイレスを離れ、  パリで暮らしていたが、  ルイスの母からの便りに苦しめられる……。  母は単に日常の些細な出来事を伝えていただけだが、  無意識下の悪意の発露か、はたまた、  読む側の罪悪感のためか、  手紙の中のちょっとした書き間違いによって  「死者が蘇ってしまう」恐怖。 「秘密の武器」  23歳のピエールは同い年のミシェルと交際している。  仲睦まじい彼らだが、  ピエールは関係がなかなか発展しないことに焦れている。  手を握ったりキスしたりしながら、  一線を越える決心がつかないらしいミシェル……  という具合に、  表層はくすぐったいような微笑ましい流れに見えるが、  二人の友人の言葉を拾ってみると、  不穏な影が浮かび上がる。  ミシェルはかつて自分を苦しめた者の残像が  時折ピエールの面影や言動と二重写しになるため、  彼を恐れているのだった。  ピエールの人格が分裂しているのか、  それとも何かが彼に憑りついているのか?  ボルヘスが「本来別個のものであるはずの二者の合一」  を描くと、「不死の人」のように  清潔なエロティシズムを孕んだ物語になったが、  こちらは現実に起こり得そうな  不気味(unheimlich)な事件。

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