「想定外」の世界 福島原発事故で語られなかったこと

平田周【著】

• 販売会社／発売会社: 技報堂出版
• 発売年月日: 2011/09/08
• JAN: 9784765544696

商品レビュー

2011/11/13

サブプライムローン危機も、東日本大震災で発生した津波による原発事故も、想定外（平均寿命よりも長い１００年に一度）の事故ということで片づけられようとしています。想定外だったので、復興のために増税もやむなし、ついでにTPPも参加しなければという雰囲気に今の日本はなっています。

この本を読んで衝撃だったのは、設計は一流？とされている原子力発電所が、実際の建築現場では、原子力をしらない人が作業をしていて安全管理に不安があるということを配管工であった方が述べていたこと（ｐ１５９）です。

一度原発は運転を始めると、放射能が蔓延していて補修工事をすることは難しいようです。地震が頻繁に起きる日本では、原子力以外の道を考えたほうが良いのかもしれませんね。

以下は気になったポイントです。

・英語では、危険を予想して防衛策を講じるという「リスク」と、現在遭遇している重大局面を脱するための解決努力である「クライシス」は別の言葉をあてるが、日本語はその区別がない（ｐ２１）

・雪印牛乳工場で黄色ブドウ球菌が発生したのは、製造過程で発生する残乳を調整用貯蔵タンクに還流するホースの先端につける接続バルブの洗浄を行っていなかったから（ｐ４６）

・宮崎県の口蹄疫事件では、県家畜改良事業団の種雄牛６頭は守られたが、民間所有の４９頭の種雄牛は殺処分対象となった（ｐ５１）

・東京電力がキュリオン社、アレバ社に払う費用がどの程度になったかは公表していない、国産メーカにも頼まなかった（ｐ７６）

・管首相の奇異な行動は、１）厚生大臣時代の成功体験、２）東京工業大学で応用物理を専攻、３）政治家としての衰えを挽回する、が原因と考えられる（ｐ８１）

・原子力発電とは、ウランの燃料棒の核分裂反応以外は、すべてが水が主役（ｐ１１６）

・２０１１年５月２４日に福島原発事故調査委員会ができて委員長に畑中氏が任命されたが、権限はない（ｐ１１８）

・本社は状況にたいして楽観的であるのに対して、現場は悲観的になる、これが福島原発でも起きた（ｐ１３３）

・福島原発事件において、電子メールを使うという発想がなかった、組織が受け取った情報を係りがキーパーソンに渡すという日本の旧式な情報伝達方式がいまだに残っている（ｐ１３８）

・定期検査作業において防護服を着るのは、従業員を守るというよりは、放射能を外に持ち出さないための作業衣である（ｐ１４２）

・日本が個人主義にかわるのは、指導者層を形成している世代が退場して、４０歳代の人たちがリーダーとなる２０２０年以降、本当に変わるのは２０３０年頃だろう（ｐ１５６）

・阪神大震災後に日本中の原発の耐震設計を見直して、９月に発表したものは「どんな地震がきても大丈夫」というものであった（ｐ１６３）

・１９６９年までは核のゴミはドラム缶に詰めて海に捨てていた、東海原発のゴミは千葉沖へ、今は青森六ヶ所村で、合計３００万本を３００年間保存する（ｐ１７５）

・福島第一原発の解体・廃炉は、専門家の試算によれば、３０年間で１兆円、スリーマイル島原発は原子炉一基で、１２年間で８００億円、廃炉作業完了は２０３６年（事故から５７年）の予定（ｐ１９０）

2011年11月13日作成