1,800円以上の注文で送料無料

クヮルテット 集英社文庫
  • 中古
  • 書籍
  • 文庫

クヮルテット 集英社文庫

なだいなだ(著者)

追加する に追加する

クヮルテット 集英社文庫

定価 ¥224

165 定価より59円(26%)おトク

獲得ポイント1P

在庫なし

発送時期 1~5日以内に発送

商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 集英社
発売年月日 1978/06/01
JAN 9784087501421

クヮルテット

¥165

商品レビュー

5

1件のお客様レビュー

レビューを投稿

2018/11/18

精神科医としての彼の社会的な身分が災いして、出版する側も、読み手も、「精神科医として」といふことについて書くやうに求めてゐたからかもしれない。作家であるといふことは知つてゐたが、今までなだいなだ先生の書いてきたもので物語といふものは読んだことがなかつた。 書くことは対話だと述べて...

精神科医としての彼の社会的な身分が災いして、出版する側も、読み手も、「精神科医として」といふことについて書くやうに求めてゐたからかもしれない。作家であるといふことは知つてゐたが、今までなだいなだ先生の書いてきたもので物語といふものは読んだことがなかつた。 書くことは対話だと述べてゐたが、物語においてもそれは変らない。主題、さう呼んで差支へないのであるなら、4つのテーマが置かれる。幸福とは。ひとの罪とは。科学とは。医療とは。それらが重なりあふことで、ひとつの曲を奏でる。 これだけならおそらく、物語といふ形式をとらずとも済んだことだと思ふが、この作品を物語として成り立たせてゐるのは、これら4つの主題を複数の奏者がそれぞれの立場で奏でてゐるところではないかと思ふ。 セロは裁判を眺める見学者。見学者たちは、裁かれる者も裁く者をわからない。ただことばからそれを眺めるだけだ。これが通奏低音となり、他の楽器を導く。メインを奏でる第1バイオリンは、証人として裁判に立つ者。第2バイオリンはそれの対旋律を成す検察官。同時に次のヴィオラを導き取り持つ鑑定医。ともすれば乖離してしまふふたつのパートを取り持つやうなヴィオラは被告。 楽器が異なれば奏でるものがことなるやうに、語るひとが異なれば、主題も同じではない。けれど、違ふ楽器であつてもひとつのハーモニーを奏でることができてしまふのだ。解説では不協和音と述べられてゐたが、不協和音もまた、ひとつの調和だ。それ故の奇妙さなのだ。 もうひとつの光の中から……はカミュの誤解を思はせるやうな物語だと感じた。誰ともわからぬ対話、光の重なりが生み出す奇妙なズレ。観客の女性はクヮルテットとのつながりを思はせる。だとすれば語り手二人と殺人鬼、観客によるもうひとつのクヮルテットか。だがこちらにはとりもつヴィオラもなければそれを担ふ演奏家もゐない。あるのはただただ奏でられる孤独なメロディ。

Posted by ブクログ