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「哀しみ」という感情
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 新書館 |
発売年月日 | 2008/12/25 |
JAN | 9784403210983 |
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「哀しみ」という感情
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もうすでに何作も焼き直しの掌編コラム集に陥っていたが、ここにきていよいよ終わりを告げたような感がある。タイトルの哀しみとは、正しくは作者の衰えに対する、哀しみなのだった。ただし最後の二章、講演の書き起こしと心理学用語集は岸田秀、唯幻論の要約として便利かつ秀逸。つまりこれだけでいい...
もうすでに何作も焼き直しの掌編コラム集に陥っていたが、ここにきていよいよ終わりを告げたような感がある。タイトルの哀しみとは、正しくは作者の衰えに対する、哀しみなのだった。ただし最後の二章、講演の書き起こしと心理学用語集は岸田秀、唯幻論の要約として便利かつ秀逸。つまりこれだけでいい。
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p.163「嫉妬の人間学」 嫉妬は、とくに卑劣な者だけが持つ衝動ではなくて、ごく普通の者が持つ卑劣な衝動である。嫉妬される者にとって嫉妬は恐ろしいが、嫉妬する者にとっても嫉妬は苦しい。われわれは、自分が人に嫉妬していることを認めたくない。それは、自分がその人より劣っていることの...
p.163「嫉妬の人間学」 嫉妬は、とくに卑劣な者だけが持つ衝動ではなくて、ごく普通の者が持つ卑劣な衝動である。嫉妬される者にとって嫉妬は恐ろしいが、嫉妬する者にとっても嫉妬は苦しい。われわれは、自分が人に嫉妬していることを認めたくない。それは、自分がその人より劣っていることの何よりの証拠だからである。したがって、いったん嫉妬し始めれば不可避的に悪循環の地獄に陥る。嫉妬していることが劣等感を強め、強められた劣等感がさらに嫉妬を煽るからである。 われわれは、この悪循環の地獄から逃れようとして、嫉妬を正当化し、相手を悪人に仕立て上げ、悪人に対して正義の鉄槌を下すつもりになろうとするが、このような自己欺瞞は長続きしない。それが自己欺瞞であることは相手に明らかであって、そのような自己欺瞞にすがる見苦しいわれわれを開いてはますます軽蔑し、それを感じてわれわれはさらに劣等な状態に追い込まれる。 p.234「好ましくないことを否認しない」 難しいが、精神病にならずに悩みを解消するためには、それしかない。好ましくない現実を現実と認識するしかない。夜、なかなか眠れないのは、心が二つに引き裂かれているためであることが多いが、したがって、安らかに眠るためには、もはや現実とはなり得ない好ましい状態を望み続けるのをやめて、好ましくない現実の認識を徹底させるしかない。なかなか眠れないときにわたしが具体的にどうするかというと、わたしにもたとえば自分に関していろいろたくさん好ましくない現実があるが、それらの現実を追っ払いたい気持ちを捨てて、好ましくない現実に目を据えるのである。過去を振り返ってみると、恥ずかしいこと、みっともないこと、見苦しいことをしたことがいっぱいある。人の弱みに付け込んでいい思いをしたこともある。己惚れていい気になって威張ったこともある。必要もないのに意地悪をして人を傷つけたこともある。相手が怖くて当然の権利を主張しなかったこともある。人に気に入られようとして卑屈に迎合したこともある。些細な利益にこだわってあさましいことをしたこともある。それらのことはすべて「なかったこと」にしたいところだが、それはできないことだと諦めて、敢えてわざわざそれらの好ましくないことをできる限りはっきりと思い出して、これこそが現実の自分なのだと自分に言い聞かせていると、そのうち心が落ち着いて安らかに眠りに入ることが出来る。
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