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ヨーロッパ文学講義
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ヨーロッパ文学講義

ウラジミール・ナボコフ(著者), 野島秀勝(著者)

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ヨーロッパ文学講義

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 阪急コミュニケーションズ
発売年月日 1982/01/01
JAN 9784484001203

ヨーロッパ文学講義

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2013/03/08

ナボコフの小説の読み方はきわめて明快である。小説を読む目的は、作中人物に自分を投影していっしょに泣いたり笑ったりすることでもなければ、小説の中に生きる目的や人生の意味を求めたりすることでもない。無論、学者のように多くの小説の中から抽き出した一般論を語るためでもない。 どんなによ...

ナボコフの小説の読み方はきわめて明快である。小説を読む目的は、作中人物に自分を投影していっしょに泣いたり笑ったりすることでもなければ、小説の中に生きる目的や人生の意味を求めたりすることでもない。無論、学者のように多くの小説の中から抽き出した一般論を語るためでもない。 どんなによくできた小説でも、それは一種のお伽噺。「文学は、狼がきた、狼がきたと叫びながら、少年が走ってきたが、そのうしろには狼なんかいなかったという、その日に生まれたのである」。だから、小説の背後に現実の社会を探しても得るものはなく、主人公の精神分析など試みるのは愚かなことだとナボコフは言う。 作家には三つの面がある。一つは物語の語り手、さらには人生について何かを教える教師、そして何もないところに様々なものを浮かび上がらせて見せる魔法使いの面だ。もちろん、ナボコフが最も注目するのは魔法使いとしての小説家である。牧師館の客間しかしらないオースティンが『マンスフィールド荘園』の美しい庭園や準男爵をはじめとする様々な階級の人々を描くその魔法。しかし、魔法使いの技術には差もある。ナボコフはディケンズが海を叙した部分を引用してその差を比べて見せる。 要は、これらの素晴らしい玩具、文学上の傑作の仕組みを明らかにすること、それがこの講義のねらいである。もともと大学での講義用に作られた草稿であって、作品として発表を想定したものではない。妻の手によってタイプ原稿にされているものあれば、走り書きのメモのようなものも混じっている。それを一冊の本にするために体裁を整えたのは編集者だが、学生を相手にしていることもあり、かなり大胆な小説論が展開されていて、作家や作品に対するナボコフの好悪がはっきり分かるのが愉しい。 豊富な引用をもとに、文学の魔法を成立させている仕掛け、仕組みを、文体、比喩、構造、主題といったニュークリティシズム風の観点で分析してみせるナボコフの手際は鮮やかで、批評家としてのナボコフの力量をうかがうことができる。 圧巻は『ボヴァリー夫人』執筆中のフロベールが知人に書いた手紙を引きながら、ナボコフがフロベールの「対位法的手法」と呼ぶ「二つ以上の会話なり思考を平行して挿入したりからませたりする方法」について解説しているところ。創作の機微に触れた分析は実作者ならではの説得力を感じさせる。 或いは、ジョイスの『ユリシーズ』。日本語訳でも本文より長い脚注がついているが、いちいちギリシァ神話他からの引用やもじりに義理立てして読む必要などないとばっさり切り捨てる。そんなことより、カチカチと音立てて時を刻むように叙述された小説の中、ダブリンの町を歩くブルームとディーダラスが同時刻、どこに誰といるのかに読者の注意をいざなう。そうすることによって、この作品独特の錯綜した時間と空間の構造が立体的に立ち上がってくるからだ。 ナボコフは、読書とは再読のことだという。プルーストの『スワン家のほうへ』もそうだが、ずい分前に読んだ時にはよく理解できなかった作品が、たっぷりの引用をもとにていねいに読みほぐしてもらうことで、もう一度手にとってみたくなる。未読のものならなおさらだ。エンマ・ボヴァリーの髪型がどのように訳されているか、髪から出ているのは耳の先か耳たぶか、確かめながら読むという愉しみもある。ナボコフのいう細部を大切にした読みは再読でこそ味わえる。読者を小説の読み巧者に育てるこんな授業なら、ぜひ受講したいところだが、『ロリータ』の好評でナボコフは二度と大学に戻ることはなかったという。

Posted by ブクログ