イギリス炭鉱写真絵はがき

乾由紀子【著】

• 販売会社／発売会社: 京都大学学術出版会
• 発売年月日: 2008/01/30
• JAN: 9784876987337

商品レビュー

2019/06/06

高価だった写真の代替物“絵葉書”について、炭鉱と労働者に焦点を絞って調査されている一冊。
文章の情報量と風景・人物の写真が豊富で、当時の炭鉱夫の息遣いが感じられます。
資料の少なさ故に掘り下げることの難しいテーマですが、研究に値する重要な歴史です。

2009/08/23

テーマが最高！
割合からいうと労働者をテーマにした書籍ってまだ少ないから貴重だし、
写真絵はがきという研究対象は写真史（＝ビジュアル史）としても、書簡研究としてもアプローチ可能だから、一粒で二度美味しい！
さらに絵はがきは書籍と違って、出版社も図書館も介在せず、ひたすらアンティークフェアで探さなくちゃいけないから、蒐集ことの難しさや楽しみが、途中で挟まれる著者の日記で読むことが出来て、旅のスケッチとしての魅力もある内容。

＊＊＊備忘録＊＊＊＊
＜写真がまだ珍しかった初期＞
・炭坑会社制作の絵はがき
　規律正しい、誇り高き労働者のショット
　→会社から客への「うちの石炭は、このように立派な労働者によって採掘された良質な品物ですよ」という宣伝

・女性労働者の絵はがき
　ズボンをはいた女性や、牧歌的な田園を背景に撮った若い娘のショット
　→上流階級の一部の男性が抱く、労働者階級の女性、地方の女性への憧れ、フェティズムを満たすためのもの。
　（そのフェティズムは、労働＝たくましさ、生命力、精力／田舎の娘＝無垢など）
　特に当時、女性がズボンをはくことはスキャンダラスで、ほとんどポルノグラフィー

＜労働者階級も楽しめるようになる発達機＞
・スタジオでの個人撮影

・炭坑や工場の風景
　→故郷にいる友人や家族への報告「こういうところで働いているよ」というメッセージ

・炭鉱事故の写真
　→当時からはがきはイングランド国内を中一日置いて届けられたので、ニュース速報としての機能を果たした
　→死者の顔写真を集めたものは、亡くなった人を忘れない、この世に生きていたという証を残したい（Memento Mori）という思いから