風車の見える丘

旭爪あかね(著者)

• 販売会社／発売会社: 新日本出版社/新日本出版社
• 発売年月日: 2005/10/20
• JAN: 9784406032162

商品レビュー

2020/12/18

日本農業大学を卒業した５人の若者たち。彼らは、風力発電研究会の仲間である。エコに優しいエネルギーを考えるのだが、エコエネルギーの分野に進むわけでなく、風車が、５人の共通したメタファーとなっている。それが、ドン・キホーテの物語がつながる。つまり、５人がドンキホーテという暗示かな。いまの若者は、ドン・キホーテにもなれないということなのかなぁ。
主人公は、5人のリーダー的存在　小林新。株式会社共栄コンサルタンツのつくば環境保全研究所の研究員で、スーパーグリンの開発および営業を担当する。スーパーグリンは、牛糞と廃材を主な原料とし多種類の微生物を添加して発酵させた土壌改良剤。災害復旧の早期緑化を目的とする。小林新は、公務員を接待することに抵抗があり、実験データがスーパーグリンより他社の方がいいといく結果を上司から他社データを排除せよと言われる。それを偽造データづくりだという。ふーむ。なぜ他社がいいのか、微生物がどう違うのかなどということを追求しないのかなぁ。新くんは。それにしても、芝でデータを取ろうとするのも、よくわからないなぁ。
一方、風力研究所の仲間の小林新の恋人ゆかりは、千葉県の農業改良普及員として、サツマイモの産地育成チームに配属される。サツマイモの1万点近くのデータから、サツマイモの優劣と圃場の相関関係を解明する仕事をしている。小林新とは、電話連絡するが、なかなか互いに悩んでいることについては話せない状況の中で、ゆかりは好きだった高校の先輩が、サツマイモを作っていることから急速に仲良くなるのだが、その先輩には病弱な妻がいた。ゆかりは、小林新と別れてしまう。
小林新は、失恋ともに、会社をやめ、ゆかりの近くの農園のアルバイトを始める。みんなからはストーカーだと言われる。そして畑30アール（３反、1000坪）の農家になろうとする。一応、30アール以上が農家の経営規模要件を満たす。
多品種栽培をする。ふーん。小林新くんは、新規就農者になるので、補助金が出るのじゃないかなぁ。それにしても、農業を「経営感覚」で見ていないところが恐ろしい。そして、有機農法ー緑肥草生農法（自然農法）をしようとするが、周りの農家からは雑草の種が飛ぶことで文句を言われる。草生農法は、主に果樹で行うけど、野菜での草生法はかなり厳しいなぁ。それで、色々他人に対して、怒りを覚えたり暴言を吐く。あまりいい子じゃない感じがする。将来的にも経営的に成り立つとも思えないなぁ。
榛名は、編集者になろうとして、努力し勉強している。まっすぐな姿勢が頼もしい。長谷川拓郎は、カメラが得意だったが、教職の試験に落ち続ける。そして、農業学校の臨時教師をするのだが、なかなかうまく折り合えないところがある。うつ病となる。カメラもやめてしまう。漆原靖は、うるちゃんと呼ばれ、農家の倅であるが、農家は継がず、料理人になろうとする。車が好きで、長距離トラック運転手となる。そして、過重労働で事故を起こす。
若者たちの生きづらい世の中が反映される。なんとなく、それぞれが不器用な生き方をしている。この物語の中で、ピアノをする千華ちゃんの存在が実に重要で、引きこもってしまって何もできない状況の中から、農業の手伝いをする中で、回復していくことで、周りの悩みを受け止める素地を作り上げていることだ。作者自身も、引きこもりを９年間していたという経験から、リアリティがある。
この５人は、卒業した時に「自分の力や未来を信じられなくなることがあったら、一人で悩まず、必ず他の4人に相談する」と誓った。5年たって再会したが、そのことができていないことを反省して、再度その誓いをするのだった。