ドラゴン刑事！ 講談社X文庫ホワイトハート

東海林透輝(著者)

• 販売会社／発売会社: 講談社/講談社
• 発売年月日: 2005/06/05
• JAN: 9784062558013

商品レビュー

2014/05/30

確認先：川崎市立川崎図書館（KK20）

ほんのり（いやかなり？）西東京バス（西東京バス氷川車庫）の匂い漂うのは果たして評者の気のせいだろうか？
冗談はさておき、本書はあくまでもサスペンス小説である。妖怪など人外を見る（たまに捜査協力もお願いしたりする関係のようだ）能力を持つ女性刑事が東京都交通局早稲田自動車営業所青梅支所管内を中心に発生した連続少女殺人事件の捜査に巻き込まれていくというストーリーである。

評者としては、近年のジャーマンサスペンスの流行傾向である「ご当地もの」の系譜に属するのではないだろうかと推察する。確かに山独楽町はないにせよ、舞台は東京都西多摩郡奥多摩町であり、昨朝のどこかで西東京バスが走っていてもおかしくない舞台設定を予州在住の東海林が描けているとは恐れ入る。
また、主人公に付されている能力は人外以外にも性犯罪などに対応する専門職機能（東海林によれば、スコットランドヤードで運用されている「シャペローン」を参照にしたとのこと）を西多摩郡域で唯一肩書として使うことが許されている設定でもある。

もちろん、怪しい設定があることは否めない（特に、悪名高い国籍法が絡んでいる警察官採用に際する国籍条項を意図的に無視するなど）。が、そうした設定自体が国民国家の枠組みの中で疎外されてきた妖怪さんというステークホルダーを再び「なにものでもない存在」から掬い上げようともがく東海林の試みは率直に評価してもいいといえる。
惜しむらくは、そのもがきゆえに、文体が一貫していないことなどといったケアレスミスが文中に目立ち、ライトノベルというには難解な文章に仕上がってしまったことだろう（そしてそれゆえにセリフとの間で不協和音を奏でてしまう結果になっている）。どちらかといえば、創元推理文庫などでお目にかかりたいような作品である。ホワイトハートで扱うにはあまりにも「宝の持ち腐れ」としか言いようがない。