ハイスクール八犬伝(8) 淫婦船虫 トクマ・ノベルズ・ミオ

橋本治【著】

• 販売会社／発売会社: 徳間書店/
• 発売年月日: 1991/10/31
• JAN: 9784191546646

商品レビュー

2020/01/20

東京が死の都になって
日本政府と各国大使館はいきなりぜんぶ消滅してしまった
窓口を失った諸外国は対応を考えあぐねて
足踏みしてる状態だった
しかし当の日本国民は意外に冷静というか不人情というか
中央がなくなっても商売なんか勝手にやってるし
そりゃ、政府の補助金がアテにならないことで不安になる人もいたけど
少なくとも、来年度予算審議の時期には間があったから
たいして大きな混乱が起こることもなく
それどころか新政府の設置に向けて、みんな張り切ってしまっており
ことに、首都構想を規定路線にする大阪と
大阪弁にアレルギーを持つ東日本のあいだでは
非常に激しい火花が散らされていたのだった
東京のことが気にならないと言ったらウソになるが
日本政府が消えた以上、自衛隊も勝手には動けないし
それだったら、あえて怖いことを考えるよりも
蓋をして日常を続けていくのが、日本人の知恵であるらしかった

八犬士たちはといえば、東京で巫女柴先生と戦った後
再び男女に別れてはぐれてしまっていた
それで、グレート山林の実家に戻った伏見しのぶは
暇を持て余して将来のことなんか考えてるうち
処女懐胎者としての不安に流されたのかもしれない
グレートの弟で、ジミー大西に雰囲気が似ているという
犬多古房八（イヌタコ・フサハチ）と結婚することを決めてしまった
またしてもショックを受ける荘田礼子だが
大人なので文句は言わなかった
それから数ヶ月、「敵」の動きもないもんで
それぞれが新しい日常に馴染んでいった頃
最後の八犬士・犬村角太郎（マザコン）がようやく登場するのだけど
この人の新しい義母の正体というのが
やはり、またしても復活をとげた巫女柴先生なんですよね

さて、徳間書店のSF雑誌で5年も続いた「ハイスクール八犬伝」は
こんなところで尻切れトンボに中断したまま
作者が死ぬまで続きが書かれることもなかったわけであるが
まあこのまま行けばたぶん、東西日本の対立に端を発して
「世界の破滅と再生」みたいなことが起きていたんだろう、と思う
しかしそうであればいかにも
人間の卑俗さを肯定しようとする作者の語り口が
ストーリーに否定されるという、妙なことになってたに違いない