奇跡の聖堂(下) ハヤカワ文庫NVモダンホラー・セレクション

ジェームズハーバート【著】, 相沢久子【訳】

• 販売会社／発売会社: 早川書房/
• 発売年月日: 1989/05/31
• JAN: 9784150405397

商品レビュー

2010/04/13

地方紙貴記者のフェンはある晩、教会の墓地へ入っていく少女を見かける。彼が後を追って行くと、少女は大きな樫の木の下で一言何ごとかを呟いて気を失った。少女アリスが実は聾唖だったことを知った彼はその事件を新聞に書きたてる。事件は大きな反響を呼び、教会には多くの人間が奇蹟を期待して集まってくる。
多くの人間の眼前でアリスは不治の病人を癒し、自分は聖母の幻を見たと告げる。教会には奇蹟を待つさらに多くの病人が集まり、さらには周辺の観光地化による経済復興を期待する住民たち、教会を聖地としようとする宗教界の思惑も絡み、教会を取り巻く状況は混沌としていく。
……だがアリスを幼い頃から知っていたヘイガン神父は何かに怯え、次第にやつれていく。そして相次ぐ彼女の周囲の人間の不可解な死。アリス自身にも起きた奇怪な出来事……。高位聖職者のデルガードに依頼され、フェンは教会とそこにまつわる歴史の調査に乗り出す。そして明らかになった忌まわしい事実。彼らはアリスの身に何が起きたのかを知ることとなる。

信仰、奇蹟、憑きもの……そんな材料をまとめて鍋にぶち込みながらも、うまくまとめ上げられた感じ。イギリスの田舎町、教会、哀れな少女に中世の秘められた歴史、といかにも湿めり気の強そうなドロドロした作品のようになりそうだが、（解説にもある如く）主人公フェンが持つある種の軽さ（解説はその辺りをアメリカナイズと評した）が、物語に小気味のよさ、明るさをもたらしている。また、英国教会の司教らによって代表される「現代宗教」の“奇蹟”に対するスタンスは興味深い。

ラストに用意された地獄絵図の描写はなかなかの迫力。こういう良作が絶版のままなのは本当に惜しい。