コミック星新一 空への門

アンソロジー(著者)

• 販売会社／発売会社: 秋田書店
• 発売年月日: 2004/07/15
• JAN: 9784253104616

商品レビュー

2017/11/16

星新一のショートショートを漫画化した作品集です。1話ごとに漫画家は違うのですが、これがまた、どれも傑作ぞろいなんですよ。星新一作品って、漫画になると面白さが倍増するんですね、これはちょっと衝撃でした。
原作である星新一の文体ってとにかくシンプルですよね。余計な肉付け（もしかしたら最低限必要な説明も）を徹底的にカットしてまる。例えば登場人物の感情とか、キャラクターの個性、世界観の詳細な説明といったあたり。だから、サラリと読めるんだけれど、どこか物足りなく感じることもあるし、大事な部分も気が付かず、飛ばし読みしてしまうことも多い。
これをマンガにすると、背景とか登場人物の表情みたいなものも描くので、より星新一の作品世界がダイレクトに伝わってくるんです。で、新たに、星新一作品を漫画によって体感し、遡って原作を読み直してみると凄すぎる。ということでこの漫画、けっこうオススメです。「ボッコちゃん」とか「ようこそ地球へ」なんかからの作品が多いですね。

特にすごいなと思ったのは「処刑」という未来の世界を描いた話。未来の地球ではすべてが管理されている世界で、衝動的な行動というのは極端に制限されている。その影響か、たまに本能的な感情を爆発させて犯罪を犯すものが現れる。犯罪者は火星に「星流し」にあう。ただひとつ丸いボールのようなものだけを持たされて。そのボールにはボタンがついていて押すと、本体の一部が引き出しのように開き、水の入ったグラスが出て来る。火星の大気を利用して水を生成するのがそのボールの役割。しかしそのボタンは一定回数押すとボール自体が大爆発するように設計されている。当然水を飲もうとしていた受刑者は爆死することになる。そのいつ爆死するかわからないという状況が刑罰の内容。爆発する回数のプログラミングというのは、受刑者の刑罰の重みによって違っているし、受刑者自身には知らされない。もしかしたら次の一杯の水を飲もうとして爆死するかもしれないし、50年後にようやく爆発するかもしれない、だけど水を飲まないことには、そもそも生きていけない・・・という設定の中で、主人公である受刑者は、次の一杯の水を飲む勇気が持てない、だけど、飲まずにはいられない・・・で、考えるんですね。なんなんだ、このボールは？？？？と。これって、もしかしたら、もしも「星流し」にあっていないで、罪を犯さずに、普通に生きていたとしても、同じようなものではないのか？？？？その結果、主人公は結論を得る。そして、汚れきった服を脱ぎ捨てて、ボールを抱えて、バスタブに入る、そして、ボタンを連続で押す・・・・・・・という話。
ちょっと内容をぼかして書きましたが、この話、現実世界のメタファーとして、恐ろしいほど鋭いです。星新一の原作を読んだ時には気が付かなかった凄さがこの話にはある。漫画となって、やっと理解出来た気がしました。う〜ん、この漫画を読むことで、自分の読みの浅さがよくわかりました、反省（笑）

2012/10/07

星新一作品のコミック化作品。

なんだかんだで、小説よりもまんがの方が読みやすい、という人にはちょうどいいと思いながらも、小説で楽しんだ人ももう一度楽しめるという意味で、新しい息吹、命を与えられているように思う。

特に、どうしても時代性というのは作品に反映されるもので、はっきり言ってしまえば、描写が古くさくなってしまうものだけど、こうしてマンガとして生まれ変わると、また新しい世界が見えてくるような気がする。

と、たどたどしい感じで真面目ぶったことを書いてしまったけど、そこはそれ、星新一作品ですから。

楽しめること請け合いです。表題作であり冒頭に収録されている「空への門」は、短い中にいろんなものが凝縮されていて、すごくいいです。

ちなみに、この漫画家の方のコメント欄に書いてある一コママンガも、素晴らしいです。

合わせ技で一本！って感じです。

ぜひ、実物を手に入れてお確かめあれ。

2011/11/12

鬼頭莫宏の『空の門』だけが読みたかった。なぜこの人の書く少女は嗜虐心を擽るんだろうか。この本は、それだけで満足。