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河岸忘日抄
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 新潮社/ |
発売年月日 | 2005/02/25 |
JAN | 9784104471034 |
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河岸忘日抄
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商品レビュー
4
17件のお客様レビュー
素晴らしいとしか言いようがない。 偶然にも今日は『樽』の作者フリーマン・ウィルズ・クロフツの誕生日だそう。
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題名だけ読むと時代小説みたいだが、もちろんちがう。堀江敏幸らしい、エセーと小説のあわいに成立しているような独特の世界。仮綴じ本のように素っ気なさと親しさとを感じさせるあっさりした造本。小さめの活字、アスタリスクで切られた断章のような文章構成。すべてが肩肘張らず身軽で風通しのよいの...
題名だけ読むと時代小説みたいだが、もちろんちがう。堀江敏幸らしい、エセーと小説のあわいに成立しているような独特の世界。仮綴じ本のように素っ気なさと親しさとを感じさせるあっさりした造本。小さめの活字、アスタリスクで切られた断章のような文章構成。すべてが肩肘張らず身軽で風通しのよいのがいかにもこの作者らしい。 「海にむかう水が目のまえを流れていさえすれば、どんな国のどんな街であろうと、自分のいる場所は河岸と呼ばれていいはずだ、と彼は思っていた。」冒頭のこのセンテンスを含む一節は、そのまま終章近くに登場する。物語ならそれで何かが終わり何かが始まるかのように。 今、彼がいるのは、とある河岸に繋留された二、三人なら快適に暮らせる設備の整った一艘の船。少し働きすぎた彼は、仕事を精算し、かつて留学していた土地を再訪していた。昔なじみに提供された船の上で、行く水に日を浮かべては暮らしている。時折遊びに来る少女や郵便配達夫くらいが話し相手という市井の隠者暮らし。どうやらかつての仕事が彼をこのような孤独に追い込んだ原因らしい。電池を次々と縦につないでより強い光を求めるような直列型が今の時代というものなら、彼は並列型の人間だった。他者との軋轢に倦んで、孤独を求めてきたのだ。 ひとり暮らしの男の生活とはいえ、そこはフランス。船の中には300枚を超すLPレコードとCDとそのための音響装置、それに少なからぬ蔵書も備えられている。何不自由ない生活の中で、することと言えば本を読み音楽を聴く間に、クレープを焼き、マルメロのジャムを作り、ガラパゴス産の珈琲を淹れ、デッキの椅子に座る毎日。羨ましいような暮らしぶりだ。 物語とも言えぬほどの物語を彩るのはコラージュのように挿入される他の小説や映画、童話、音楽家の評伝に関するエセー風の思索。特に何度も言及されるのがディノ・ブッツァーティ作『K』。主人公ステファノにつきまとう海の怪物がKだ。人生において他者との遭遇がもたらす幸不幸についての苦い寓話とも言うべきこの物語は、向き合うべき人生から一時避難している彼には迫るものがある。タルコフスキーの『ノスタルジア』や、チェーホフの「スグリの木」、ショスタコビッチの交響曲と、挙げていけばその傾向が仄見える。 停滞し逡巡する彼の内省は思弁的なものにならざるを得ない。年長の友人である枕木との海を越えてのファクスや手紙のやりとりは、「他者」や「現存」という観念についての哲学的と言ってもいい対話がなされる。それと比べると船の持ち主である老人との会話はもう少し人生に寄り添っている。幸福とか悲しさ、孤独という概念が、人生の老師ともいうべき先達によって揺さぶられる。不思議なのは老成しているように見えた作家がここに来て若返っているように思えることだ。 対岸の木立が風に揺れる様子や雲や霧、風雨の描写。ほとんど定点観測のようにそこだけに限ってなされる心象風景の移ろい。航海日誌の顰みに倣って挿入される気象情報。春からはじまった物語は、一応老人の死で幕を閉じる。終章、彼はそれまで行こうともしなかった対岸に歩を進めようとする。対岸に渡れば船の反対側を見ることができる。何も変わらないかも知れないが、とりあえずためらいの時は過ぎたようだ。読後爽やかな余韻を残す一編。人生という流れに飛びこむ前に躊躇している人、日々の生活に疲れ、懐疑を感じている人に薦めたい。
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しん、と冷たく朝もやがかかっている、ゆるやかな川の水面みたいな小説。 堀江敏幸は自分の中で、あたりはずれがある。なんとなく、カッコつけすぎ!と思って、修辞の多い文章に辟易するものもあれば、逆にそれが魅力に感じることもあって。 今作はどちらかといえばあたり。
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