ポスト・ウォー・シティズンシップの構想力 叢書 21COE-CCC 多文化世界における市民意識の動態

萩原能久(編者)

• 販売会社／発売会社: 慶應義塾大学出版会/
• 発売年月日: 2005/03/31
• JAN: 9784766411423

商品レビュー

2012/09/11

8章 リベラル・ナショナリズム論の意義と展望ー多様なリベラル・デモクラシーの花開く世界を目指して p147~

理論的背景としては、80年代初頭以来活発に議論されてきたいわゆるリベラル対コミュニタリアンの論争から生じた共同体に対する関心が高まり、および多文化主義の議論に触発された文化への高まりが挙げられるだろう。普遍主義的道徳観の上に立つと想定されてきたリベラル・デモクラシーの理論に、共同体や文化などの個別主義的要素をどのように位置づけるかという問題関心が興隆してきたと言える。p149

いわゆるポスト・モダン的言説の普及に伴い、国民国家やナショナリティの「物語性」、つまりこれらが社会的構築物であることを指摘する議論が社会学や人類学、歴史学の分野で数多く提出されてきたことも、政治学におけるリベラル・ナショナリズム論の登場に関係があると思われる。こうした社会学や人類学や歴史学における議論は、国民国家やナショナリティの物語性の指摘に留まるか、あるいはその物語性・人為性ゆえそれを解体する必要があるという否定的評価を言外にほのめかす場合が多い。つまり、「物語」であるにしても、それが価値ある有用な物語なのか、そうではないのかについて体系的に論じる視点は多くの場合欠落していた。p149

リベラル・ナショナリズムの論者は、ナショナル・アイデンティティの多面性、可変性、柔軟性を強調する。p151

リベラル・ナショナリズムがマイノリティを排除するものとして批判する「差異の政治」p157
↓
「たとえ異なる社会集団に属する者であっても我々は仲間である」という高次の共有のアイデンティティの欠けているところでは、多数者は少数者の声を聴く動機を持つとは考えがたい。p158

【ベイツらに対して】p160
問題なのは格差それ自体ではなく
①不平等の底辺の者が最低限の水準を越えているかどうか
②不平等が望ましくない力関係のメカニズムから生じていないかどうかである

ミラーの枠組みでは、目指すべき国際社会とは、各ネーションが自決権を持ち、各々の最も馴染みやすい社会正義の構想を実現しうる環境が整備された場である。国際社会における義務とは一義的には、基本的権利を侵害されたり搾取を受けたりしている人の状態を改善することである。また、逆境に陥っている恵まれないネーションに対し、自決し独自の社会正義構想の実現を目指すことを可能にする機会を与えることである。p161