わが父アイザック・B・シンガー

イスラエルザミラ(著者), 広瀬佳司(訳者)

• 販売会社／発売会社: 旺史社/
• 発売年月日: 1999/09/01
• JAN: 9784871190695

商品レビュー

2012/08/25

アイザック・バシェヴィス・シンガーの一人息子のイスラエル・ザミラが書き下ろした『わが父アイザック・B・シンガー 』

父と子は、ザミラが五歳の時に別れ、20年後、ニューヨークで再会を果たす。

アイザック・B・シンガー が、ポーランドを去ったのは1935年。
兄のイスラエル・ヨシュア・シンガーがアメリカに移住し、弟を呼び寄せたかたちになったのだが、
ザミラの母は共産主義者で夫のシンガーとは思想的に大きな隔たりがあったようで夫のあとを追ってザミラ母子が移住のために渡米することはなかった。

ザミラと母は、念願のロシアに渡ったが、国外追放になりイスタンブールを経由してパレスチナに移住する。

父からは時々手紙が届いていたが、渡米の5年後生涯の伴侶となるアルマという女性とシンガーは結婚する。
アルマとの間に子どもはなく、シンガーの実子はザミラだけだ。

ニューヨークでの父子の20年ぶりの再会の場面の描写は緻密で、その再会がついこの前のことのように、ザミラの文章にはリアリティがある。
異国に去った父。父を知らずに育った息子。25歳の多感な青年は父親にアンビバレンツ的な感情を持ち、子どもを育てたことのない父は愛情表現のぎこちなさが目立つ。
ポケットに豆袋をいれて午後の散歩の折には鳩に餌をやる。
行きつけのレストランでオーナーに息子を紹介し自慢する。
ふたりは、それぞれの思うところを胸にしのばせながら、離れていた親子の時間を少しずつ縮めてゆくのだった。

父子は再会を果たしてから、共に長く暮らすことはなかったが、行ったり来たりで交流していたようだ。

1978年、アイザック・B・シンガーはノーベル文学賞を授賞する。
近代ポーランドからは偉大な人物が二人出たとよく言われるが、ひとりは、アイザック・B・シンガー。もうひとりはローマ教皇のヨハネ・パウロ2世。
ふたりとも亡くなったが、思えばいずれも母国ではない土地で亡くなっている。

アイザック・B・シンガーのノーベル賞の授賞式には、イスラエル・ザミラも出席しており、その様子も本書には描かれている。

アイザック・B・シンガーは子どもがあまり好きでなかったようで、ザミラの母がザミラを身ごもった時も産むのを反対したという。
ザミラも子どもたちにも進んで会い祖父を楽しむということも好まなかったようだ。
いわば、自分本位で生きている父シンガー。ザミラはさまざまな葛藤を経て作家アイザック・B・シンガーを父アイザック・B・シンガーを理解しようとしていく。

ザミラの息子のノアム・ザミラさんは日本人女性と結婚して日本に住んでいるという。