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理想の書物 ちくま学芸文庫
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 筑摩書房 |
発売年月日 | 2006/02/10 |
JAN | 9784480089649 |
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理想の書物
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理想の書物
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商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
「理想の書物」とは、大仰なタイトルだと思われる向きもあろうかと思う。ここで言う書物とは、主にその内容面からではなく、形態面から見ての、つまり物としての本を指している。書かれたのは英国ヴィクトリア朝期だから19世紀末、ずいぶん昔のそれも異国の本の話である。原著者のエッセイや講演を編者が編んだもので、著者はウィリアム・モリス。詩人であり、デザイナーであり、社会主義者、そして、書物について語ることがあれば、まずは何を置いても触れられることになる、ケルムスコット・プレスを起こした人である。今風に言うならマルチタレントの異才。近代デザインを語るとき、この人を抜きにしては語れない。 そのモリスが、何故自ら印刷製本業に手を染めることになったかと言えば、それは、偏に当時のイギリスが、産業の近代化を迎え、すべてにおいて機械化が推し進められた結果、それ以前にあった手仕事の良さを見失った粗悪な製品が巷間に溢れたことによる。 モリスがそれらの粗悪な製品に対抗して自ら商会を作り、製作したのは壁紙やタペストリー、絨毯、ステンド・グラス、タイルといった室内装飾品が主であったが、それらは、後にアーツ・アンド・クラフツ運動としてヨーロッパ各地に発展していくことになる。モリス自身がその晩年に専ら力を入れたのは製本業であった。 中世彩色写本や古い木版画の挿絵入り本の蒐集家でもあったモリスは、当時出版されていた書物の醜さに腹を立てていた。醜く作るにも美しく作るのと同じくらいの労力がかけられている。やりようによっては、同程度の労力で美しい本が作れるはず。そう考えたモリスは、バーン=ジョーンズをはじめ多くの協力者の手を借り、自らタイポグラフィーをデザインし、挿絵入り、装飾頭文字、題扉、縁飾りでふんだんに装飾された本を創り出した。それがケルムスコット・プレス刊本である。 モリスによる同時代の本の批判は次のようなものだ。従来は方形であった活字が印刷スペースを稼ぐために縦に引き伸ばされた結果、線自体も細くなり、紙面から黒の効果が消えた。それなのに文字と文字の間、行と行の間隔が必要以上に広くとられているため、黒白の対比が弱まり、全体が灰色がかって見える。さらに大事なことは、一頁を単位に紙面をレイアウトしているので、印刷部分が中央に配置されることになり、見開きにした場合、必要以上にノドの部分が広くなって見苦しい。 紙やインクについても一家言あるのだが、参考資料として挿入されたケルムスコット・プレスの印刷物からはそこまでは分からない。しかし、それ以外は一目で分かる。数行分に及ぶ大きさで、特別にデザインされた飾り頭文字。古拙な雰囲気を持つ活字は「面(フェイス)」が、「胴(ボディ)」の広さ一杯をふさぐように作られ過度の白が出ないようになっている。字間、行間ともに詰められた印刷面以外の余白は、ノドがいちばん狭く、次に天、その次が小口、最後に地の順に広くなっている。一口に言えば、余白をたっぷり取った白い部分と活字でぎっしり埋まった黒い部分の対比が鮮明で見た目に心地よい。 これに、モリスの装飾家としての本領を発揮した縁飾り(ボーダー)、飾り字で書かれた題扉、盟友サー・エドワード・バーン=ジョーンズが描いた挿絵の木口木版で飾られた巻頭頁が来る。一度見たら忘れられない書物である。 モリスがモダン・デザインの父と呼ばれながら、その一方で手工業を擁護し、中世的な職人ギルド的な作業形態を良しとしたのは、産業化が進むあまり、人の生活から美的なものが失われることをおそれたからである。何がなんでも機械化に反対したわけではない。納得できるものであれば、機械化も認めていた。自身のタイポグラフィーにも写真の拡大縮小技術を駆使していたほどである。 バーナード・ショーが、社会主義活動家であったモリスの晩年の散文ロマンスを中世趣味が高じた末の退行のように批判しているが、これらの作品が書かれたのは、モリスがケルムスコット・プレスに夢中になっていた頃と時を同じくしている。書物の形態と内容は無関係ではあり得ない。分かち書きで綴られる英文の宿命として、行中に空白が数段続く「川」と呼ばれる無意味な空白部分が出ることがある。それを避けるために本来不要な前置詞を置くような真似をしたモリスである。形態に最も相応しい内容の文章を必要としたまでであろう。 ちなみに、ケルムスコット・プレス刊本は、2009年6月現在愛知県美術館で開かれている「アーツ・アンド・クラフツ展」で目にすることができる。何かと住みにくさを感じることの多い現代。自分の家から書物まで、自分の手で作った美しいもので一杯にした先人の足跡をのぞいてみるのも楽しいのではないだろうか。
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作るものの喜びとなるべき仕事はその人の持てる力のすべてを、手と心と頭を、必要とするはずである。そのようにして初めて労働は価値あるものとなり、そのようなやり方によって初めて職人は同時に芸術家となるであろう。〜〜〜〜 モリスのやりたかったことは現代のパソコンの技術があればもっと楽に...
作るものの喜びとなるべき仕事はその人の持てる力のすべてを、手と心と頭を、必要とするはずである。そのようにして初めて労働は価値あるものとなり、そのようなやり方によって初めて職人は同時に芸術家となるであろう。〜〜〜〜 モリスのやりたかったことは現代のパソコンの技術があればもっと楽にできただろうに。
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