ラクになる

伏本和代(著者)

• 内容紹介: 内容:電話男. ラクになる. 殺してやる. 何をそうまでして. ちょっとムカつくけれど、居心地のいい場所
• 販売会社／発売会社: そして企画/河出書房新社
• 発売年月日: 2002/04/20
• JAN: 9784309904856

商品レビュー

2004/11/29

読んでみたら、想像以上に面白かった…この手の話を書く作家さん大好きっす。世の中に、40代以上の女性を主人公にした、もしくまメインテーマにした話がどれだけあるだろうか？あたし程度の読書量でそれを断言することは出来ないけれど、やっぱし一番使いにくい立場の人間のような気がするし、あまりであったことないし。

本書はその、一番扱いに悔いであろう中年女性を中心にして書かれた短編5作をまとめたモノ。しかも、使いにくい条件は更に加わり、専業主婦で子どもが居なくて、夫婦関係が破綻している。だけど、この年代の女性なら誰もが持ち得る精神状態を、とてもリアルに書いていると思う。一見、複雑に思える設定かも知れないけれど、それは小説の主人公として使うにはあまりにも使いにくい反面、現実的である。すでに、女性としての魅力を消費し今までのように生きることを諦めた女性たちの日常と心理が目を反らしたくなるほど痛々しい。不倫関係にあった年下の男から、「これで最後」だと言われながら定期的な振込を続けている女性。日本舞踊の先生と生徒の老女たちの確執に右往左往させられる女性。更年期を迎え、性病と鬱状態に悩まされる女性。友の母親をパチンコで見張ることを頼まれ、逆に自分の方がパチンコにはまってしまう女性。夫の浮気の事実を黙認したまま、離婚を決意できない女性と、その姪。

こうして書き連ねてしまえば、意外に探せば見つかりそうな主婦像だな、とか思ってしまうのだけど、実際居るだろ、こういう人。でもここで登場する彼女たちは、皆共通して自分の今までの生き方とこれからの生活に不安を感じている。女性であり続けることの苦痛。いままでのありのままの自分が女性として受け入れられていた年齢とは違い、年を取り、肉体は衰え、精神は卑屈になっていく。しかし決して幸せだとは言えないけれど、不幸だと言い切るほどの不幸もない彼女たち。そう、だって彼女たちにはちゃんと夫がおり、食べて行くにも困らない程度の家庭環境を持っており、普通に元気な肉体を持って生きている。それは傍目から見て決して不幸とは言い難く、それをもし口に出してしまったら、今まで生きてきた自分の生き方全てを否定してしまうことになるからだ。
「毎日会っているのに、なんだか法事のときにだけ顔をあわせる親戚の叔父さんのようなキョリがある。」
彼女たちにとっての夫とは、そのような存在になってしまっている。けれど、だからといって、もっと熱いモノを求めて、離婚するような気もなく、今以上の生活を変えようとも思わないし、出来ない。そんなパワーはもう無いし、そんな気力も無い。ただ、でも、もう少しもう少し何かあるんじゃないだろうかという、わずかな期待を込めて、彼女たちは過去の男にお金を振り込み、踊りを習い、婦人科へ通い、パチンコに通い、確信している浮気の証拠を興信所に依頼する。まだ何かあるだろう、まだ何かあるはずだ、まだ何かあるべきだ、まだ何かあっても良いじゃないか、まだ何かあって。。

女だからか、女を諦めた人間だからか、どうしても女を諦めきれない人間だからか。いつから女は女であることに最終結論を出すのだろう。
勿論死ぬまで女であることを辞めない人も沢山いるだろう。でもあたしは、女であることを辞めて、早く人間として生きていきたいと思ってしまう。