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エロス
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商品詳細
| 内容紹介 | |
|---|---|
| 販売会社/発売会社 | 集英社/ |
| 発売年月日 | 1997/02/25 |
| JAN | 9784087732603 |
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エロス
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本書について訳者は次のように概括している。 <本署『エロス』(1994年)も刊行と同時に異常なほどの世評を集めて、話題が話題を呼んだ。全51篇の文章を収めているが、長短が一定せず、必ずしも短篇小説だけではない。イタリアでいう《評論小説》の部類に近いが、要するに、《愛》をめぐる自...
本書について訳者は次のように概括している。 <本署『エロス』(1994年)も刊行と同時に異常なほどの世評を集めて、話題が話題を呼んだ。全51篇の文章を収めているが、長短が一定せず、必ずしも短篇小説だけではない。イタリアでいう《評論小説》の部類に近いが、要するに、《愛》をめぐる自伝、自説、評論、物語などの散文集である。> タイトルが『エロス』だから当然だが、目次を見ると「エロス」の文字がたくさん目に跳び込んで来る。いくぶん”いかがわしさ”を覚えながら読むと、その叙情的な文章に引き込まれる。二つ例を挙げてみる。 <《過ぎゆく日々のノート》から エロス《紫葵(マルヴァ)の色》。 移ろいゆく時の流れのうちに、時の感覚のうちに、ぼくは読み取るだろう。ふと、詮索されたいという願いに、取り憑かれている自分を。それは失われた愛情の痕跡を探すのにも似ている、たとえごく短時間であっても、自分が暮らしたことのある土地や場所において。プルーストが告白した一節を、いまは思い出している。《パルマという名称は、スタンダールの小説『僧院』を読んだ後に、とりわけて訪れてみたいと思う都市の一つであって、滑らかな、凝縮した、甘美な、紫葵の色に包まれたいる……》 肉体的な関係を必要としないエロス。流れる風にも似て、それは深く吸い込むだけでよい。斜めに射し込む光線にも似て、それは見つめるだけでもよい。そして到る所に溢れるエロス。それもまた存在するのだ。 様ざまな土地や場所で、そこに流れる気配を吸い込み、そこに漲る気配を見つめる。それは、間違いなく、それぞれの土地や場所に”属するもの”なのだ。半ばは光に照らし出され、半ばは影に沈んでいる、広場。何げない小路。そして、四月の朝早くに澄んだ光を浴びている拱廊(きょうろう)。 そういう気配を、《紫葵の色》のエロス、とぼくは名づけている。> <一枚の女性の性器を写した写真、ぼくは秘蔵している。 それはポー河の支流のバッカネッロの辺りの、最も高いポプラの樹の幹に、リーガブーエが刻んだものだ。いまでもそこにあるにちがいない。リーガブーエが創ったものとは、誰も知らないから。それはいわゆる”赤いオートバイの日々”にリーガがポプラ林に撒きちらした、あるいは気の狂(ふ)れた日々に彼が撒きちらした(土地の人びとは、もっぱらそう噂していた)彫刻の群れの一つだ。この芸術家は何度もアーダ・ヴィターリをモデルにして描いているが、それらの画面のなかで獅子や虎や豹は口を大きく開けて、それは確かにそのとおりなのだが、野獣たちの大きく開けた口腔はみなアーダ・ヴィターリの性器を変形したものだ。 リーガは旋風(つむじかぜ)のように土手に姿を現した。少年のぼくを気に入っていたので、エンジンを激しくふかして天馬を乘りまわすがごとくに、駆け寄ってきては、ぼくに言った。 「さあ、乘れ!」 目指すポプラの幹のところへ着くと、ぼくは彼の後に従ってその周囲をまわり、彼と同じような慎重さで、足音を忍ばせながら彫刻の前に立つのだった。樹皮のあいだに生殖器官は微に入り細を穿って再現されてゆく。広げられた腿。そのあいでに顔を突っ込んで、彼は製作に没頭する。オレンジの種子が棘状に彫り込まれていった。薔薇色の本質に、燕の尾のごとくに、裂けた陰部。その両側に垂れている大きな陰唇。 「見たか?」ぼくに向かって、リーガが指差す。 歳月と季節とが芸術家の仕事を完成させていった。夏の嵐や冬の霰(あられ)が清純なニスを少しずつ剥がしてゆく。秋の長雨が丹念に皴を刻んで、自然の罅(ひび)割れを女体の秘密と同化させた。厳冬の寒さは、あの裂け目を少し押し広げたばかりか、大きな陰唇の腫れを肥大させ、美神(ヴェーネレ)の小丘や蛹(ニンフ)をさらに浮き立たせた。 (略) リーガブーエはうっとりと見惚れながら、自分の彫刻作品を撫でては摩(さす)った。その樹幹にアーダ・ヴィターリの最も内なる部分は埋めこまれた。「アーダこそは」と、彼は熱をこめて主張したが、それは彼だけの意見ではなかった。「ポー河流域一帯で最も美しい性器を持つ女性だ」 ぼくもその美しさに見惚れながら、芸術家の夢を追った。そして彫刻に触れては、そっと指を動かした。するとリーガの刻み込んだ徴(しるし)が、最も人間的な熱い命の気配と共に、伝わってくるのだった。彼は自分が彫り刻んだ性器を、まるで自分が生み出したのではなく、大自然が、その賜物(たまもの)として、あの一瞬にだけ彼に差し出してくれたもののごとくに、愛しつづけた。しかしながらアーダ・ヴィターリはその幸せを、芸術家に対して、実際には拒みつづけたのであった。> お終い
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