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夏の砦 文春文庫
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商品詳細
内容紹介 | |
---|---|
販売会社/発売会社 | 文藝春秋/ |
発売年月日 | 1996/11/10 |
JAN | 9784167409043 |
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商品レビュー
4
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一枚のタピスリの魅力に引き寄せられ、ヨーロッパに留学したものの、突如として失踪した支倉冬子という女性の日記などを手がかりに、彼女の幼少期にまでさかのぼってその生涯と芸術をえがいた作品です。 冬子の日記を再構成したエンジニアの男は、彼女が「無名(アノニム)な存在」についてくり返し...
一枚のタピスリの魅力に引き寄せられ、ヨーロッパに留学したものの、突如として失踪した支倉冬子という女性の日記などを手がかりに、彼女の幼少期にまでさかのぼってその生涯と芸術をえがいた作品です。 冬子の日記を再構成したエンジニアの男は、彼女が「無名(アノニム)な存在」についてくり返し語っていたことを回想しています。この着想は、中世以来のヨーロッパ精神史のなかで生まれたタピスリに対する彼女の憧憬に通じており、しかしながら日本というヨーロッパの外部の世界からやってきた彼女が触れることのできないものでもあったように思います。また、エンジニアという「客観的」な造形にたずさわる男性の視点から、対照的な位置に立つ冬子の人生が見わたされているというところにも、彼女の生涯を「解明」することをめざす、対極的な精神のありようが象徴されているといってよいのではないかと考えます。 近代的な芸術の理念へのめざめは、ヨーロッパの「中心」と「周縁」においてかたちづくられる精神のありかたを反映したものですが、本作にはそうしたモティーフがくり返しえがかれていることがたしかめられます。さらにこのこととならんで重要なモティーフになっているのが、大きな屋敷で生まれ育った冬子と、同様の境遇をもつギュルデンクローネ家のマリーとエルスの姉妹です。同様のモティーフは、冬子の兄による人形劇のエピソードにおいても変奏されており、また本作が冬子の日記というモノローグをもとに構成されていることも、その一例として見ることができるかもしれません。 著者の処女作である『回廊にて』と同様のテーマで、共通点が随所に見られます。しかし、カタカナ書きの文章が混入していて読みづらく構成にもいささか難のある『回廊にて』よりも本作のほうが完成度が高く、著者の代表作のひとつにかぞえられてよいと思える作品です。
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