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裏声で歌へ君が代 新潮文庫
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 新潮社 |
発売年月日 | 1990/07/25 |
JAN | 9784101169064 |
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裏声で歌へ君が代
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裏声で歌へ君が代
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商品レビュー
4.5
13件のお客様レビュー
この一作で、文学史上…
この一作で、文学史上に残ります。そんなに小難しい作品ではありません。たくさんの人に読んで欲しい一冊です。
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水際立った発端、スリ…
水際立った発端、スリリングな展開、最上のユーモアとエロティシズム。練達の著者が趣向の限りを尽して国家とは何かを問いかける注目の純文学巨編。
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▼「裏声で歌え君が代」丸谷才一。1982年新潮社、書き下ろし。個人的には恐らく1985年くらいに読んでいるんです。だから38年ぶりくらいの再読。そしてその頃はあんまりよく楽しめなかった(笑)。今回は大変に面白かったです。 ▼敢えて言えば「ウディ・アレンの恋愛映画(のように一見見...
▼「裏声で歌え君が代」丸谷才一。1982年新潮社、書き下ろし。個人的には恐らく1985年くらいに読んでいるんです。だから38年ぶりくらいの再読。そしてその頃はあんまりよく楽しめなかった(笑)。今回は大変に面白かったです。 ▼敢えて言えば「ウディ・アレンの恋愛映画(のように一見見える人間ドラマ映画)みたいな感じ」です。軽くて明るくて都会的でおしゃれで知的で・・・そして登場人物たちが難しい議論をしばしば戦わせます。そしてドロドロしたドラマチックな展開にはなかなかならず、なったかと思ったら、ひらりと身をかわすかのように拍子抜けな終わり方をします。で、僕はすごく好きです。 ▼主人公は梨田という恐らく57歳くらいの画商。戦争体験など含めて、つまり丸谷さんと同世代です。 この人がエスカレーターの反対側に、顔見知りの美女を見かけたことから物語が始まります。顔見知りだけど知り合いではない。だからここですれ違うともう生涯、ちゃんと知り合えないかもしれない。これが大変に素敵な女性である。挨拶をすると向こうも顔見知りなので、曖昧な挨拶くらいはしてくれる。 この時に梨田は下から上に上がっている。美女(朝子)は上から下に下がっている。二人はすれ違う。梨田は咄嗟にエスカレーターを逆走して下り降りて、下で朝子と合流する。朝子はそんな行動に苦笑して、でも二人はそのまま食事に行くことになる・・・。 なかなか鮮やかなトップ・シーン。ここから、要はこの二人が別れてしまうまで。ボーイ・ミーツ・ガール物語とも言える小説。 以下、ネタバレ含めて備忘録。 ▼梨田は若い頃は銀行員だった。ひょんなことから会社をやめて、妻とも別れ、画商に。梨田の画商というのは、政治家の闇金の流通にも一役買うような、そういう言ってみれば薄汚れた商売でもある。そして朝子という恋人はこれまた確かバツイチだったはずで、(この時代はまだ多くなかった)ワーキング・ガールである。 主人公・梨田には友人がいて、中国系であり、これが洪さんという。洪さんはスーパーを経営していたりする実業家だけど、実は政治運動もしている。それは「台湾の民主的独立」である。 ▼台湾は毛沢東に負けた蒋介石が仲間と乗り込んできて支配してしまった。ずーっと、1949ー1987の38年間、戒厳令が敷かれていて、簡単にいうと今日の日本のような言論の自由や民主主義がなかった。ちなみにこの小説が1982なので、まだ戒厳令の真っ最中。 元々台湾で暮らしていたのは「内省人」と呼ばれ、蒋介石と乗り込んできたのが「外省人」と呼ばれ、超少数派の外省人が、もっというと蒋介石の家族子孫とその一派が、全て支配。1947年から始まった反対派への凄まじい弾圧・処刑は、台湾映画「非情城市」に描かれました。この映画は1989年ですから、戒厳令後に撮られたわけです。蒋経国の死後の作品。 ▼というわけでこの小説発表当時、台湾は酷い国だったんです。民主主義目線でいうと。ただ、共産党中国へのブレーキ機能があるから、世界最強国アメリカはずっとそんな酷い台湾政府を支持してきた。さてそこで、台湾に住んでいない台湾人によって「亡命政府」が作られていて、台湾を蒋経国一派から独立させる運動を(ささやかに平和裡に)している、ということなんです。 そして、画商梨田がひょんなことから友人になっている洪さんが、その亡命政府の大統領なのです。 ▼さて、物語は梨田と朝子の恋の成り行きを見守りながら、「世界の誰もが真面目には相手をしない、理想主義のおままごとのようなもの」であるはずの、亡命台湾政府大統領の洪さんに、何やらきな臭い動きがはじまるのを描いていきます。 そしてどうやら、洪さんは家族などの弱みを台湾政府に握られて、台湾に降参するのではなかろうか、と。一体どうなってしまうのか・・・。 ▼という面白い小説で、後味として「国家と個人という摩擦、軋轢を感じずに済んで暮らしていければ無事だけれども。すぐ近くで国家というものとヒリヒリと対峙している人間模様を見せつけられると、改めて、空気のようでいるけれど確実に我々と隣接している国家というぬめっとしたものを意識して狼狽えてしまう。国家がないと多分困るけど、国家は突き詰めていくと個人と対立する。どうあるべきなんだろうねえ・・・」という感じです。そういう意味でこの小説の主題は「国家と個人、国家という政治機能と個人」ということなんでしょうね。大変に滋味深い読書の快楽でした。 (これは丸谷さんの長編小説で唯一、電子化されていないんですよね。文庫も事実上絶版のようで・・・ここにも国家が関係していなければいいんですけどね・・・)
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