五感の杯

松山猛【著】

• 販売会社／発売会社: 文藝春秋
• 発売年月日: 1986/06/20
• JAN: 9784163406107

商品レビュー

2019/11/09

2019年11月9日読了。

●パリ第2区、ドノオ通りは、オペラ座からわりかい近い
小路であり、ハリーズ・ニューヨーク・バーはそこに
ある。若き日のヘミングウェイが、仲間との夕暮れの
一杯を楽しんだ店としてよく知られている。

●アルゴンクィン・ホテルのブルー・バーもニューヨーク
のホテル・バーのひとつの典型だろう。
ロンドンにはブラウンズ・ホテルのバーや、リッツのび
っくりするほどの造りのフランス王朝風のバーがあって
ここもまた過去の栄光の残照を持っている。

●はじめにジンがあった。その軽い苦さを含んだ、口あた
りの良いスピリッツは、オランダ人によって十七世紀に
発明された。オランダ人はそれを、一種の薬効のある飲
物として発明したのだった。苦さの源はジュニパー・ベ
リーと呼ばれる杜松の実で、解熱効果や利尿作用を持つ
薬酒として古くけら知られ、使われてきたものだった。
オランダのライデン大学医学部教授フランシスカスが、
ジュニパー・ベリーをアルコールに漬け込んで蒸溜し、
薬用酒を作ることに成功したのは1660年。

●紹興酒にはしじみの醤油漬けにからすみ。よく冷えた
ウォッカにはロシア風パンケーキにサワークリームを塗
り、キャビアやイクラをのせたものが良い。フラスカテ
ィというイタリア産の軽い白ワインには、よく冷えたト
マトとモッツァレラチーズがよろしい。

●ドライ・カウンティー
→ アメリカ合衆国において、地方行政当局が酒類販売を
禁止したり、制約している郡。

●最も有名なのは、サボイ・ホテルのバーであろう。サボ
イの発展は、大西洋の彼方の、アメリカが禁酒法という
珍妙な法で酒飲みたちを苦しめたあたりにもある。アメ
リカで飲めぬならと客船に乗り込んで、ロンドンを目指
した人たちは多かったのだ。
このバーは、有名なカクテル・ブックを生み出した。
今日、語られ、また愛飲者の多いスタンダードなカクテ
ルのすべてが、このアール・デコそのものの表紙と装丁
の一冊の本に書き込まれている。

●スペインではワインも良いが、それよりもシェリーが絶
品だ。特にモンティージャ産のごくあっさりとしたもの
など、なんとなく天国に近い土地で作られたような味が
する。

●ヴィノ・ティント＝赤ワイン

●名物に旨いものはなしというのを証明しているのが、
ボルドー地方の地酒ピノオだ。ひたすら甘いリキュール
で、あくの強さは天下一品。ワインを作る人たちが
こんや酒を好むのかと不思議な気もする。

●カンヌのレストランで脂の乗った鰯を肴に飲んだワイン
がベレ。ベレはニース産で、ニースというのはフランス
の都市部で最も多くのワインを産出する地方だと後で聞
いた。〜軽すぎず、なかなか腰のある野性味もあるのだ
が、ちゃんと都会的に洗練された味。

●コニャックのベースになるワインにはいっさい酸化防止
剤は使われない。11月から3月の末までに、発酵を終えた
ワインは蒸溜されるのだが、それはワインの変質をおこ
さぬためには寒い季節が適しているからだ。
コニャックにも節季がある。それは6月で、その前の冬造
られたものはカウント・ゼロと呼ばれる。カウント・ス
リーで、コニャックは二歳半のスリースター、カウン
ト・フォーで四歳半のVSOPへと出世する。

●コニャックの成立を調べていくと、そこにはいろいろな
歴史的背景がある。コニャック地方にはプロテスタント
が多く、カソリックの兵によって畑は戦場となり、よい
葡萄が獲れなくなったらしい。しかしそれにもめげず特
産品を造ろうとした、人間のしたたかさがコニャックの
かくし味なのかも知れない。