あなたが僕の父 の商品レビュー
東京に住んで20年以上が経つ富生には、故郷の館山に一人で暮らす父がいる。 母が亡くなってから6年経つあいだ、ほとんど帰らずにいたが電話で話す父の様子がおかしく感じて久しぶりに帰る。 バンパーがへこんだ車を見たり、雑然とする部屋や弱くなった父を目の当たりにし、8年付き合った彼女がい...
東京に住んで20年以上が経つ富生には、故郷の館山に一人で暮らす父がいる。 母が亡くなってから6年経つあいだ、ほとんど帰らずにいたが電話で話す父の様子がおかしく感じて久しぶりに帰る。 バンパーがへこんだ車を見たり、雑然とする部屋や弱くなった父を目の当たりにし、8年付き合った彼女がいたが、ひとりで父と同居することを決める。 老いていく父のもとへ帰ることに躊躇なく当然かのような自然さに意外な気もした。 けっして父といい関係ではなかったはずなのに…と。 しかもリモートで仕事できるとはいえ、40歳だといちばん中心になって仕事する世代ではなかろうかと思ったのだが、それに長い付き合いの彼女と結婚は考えなかったのか?とか。 だが父が何もかもできなくなる前に、いろんなことを忘れてしまう前に同居することを選んだ富生。 大事な人を大事にすることはできなかったが、父を見たい、父が父として話せるうちに、もっといろいろ話したい。もっともっと話し、知らなかったことを知りたい。今はそうしたい。という気持ちを優先した富生に深い情を感じた。 自分のことよりもまず父のことを思った富生の行動にこれが自然な親孝行なんだと思った。 いつものように町の景色や最寄りの駅などを的確に記しながら父と暮らしていたときには、会話がなかった代わりに十五歳の頃と二十二歳の頃の思い出を織り交ぜて、今の四十歳の父と暮らす自分を語る文章はとても優しい。 うどんを茹でる父の姿の表紙絵を見て、お父さんさんの話、もう少し聞かせてよ。となるのも頷ける。
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東京住み40歳の僕は5歳下の彼女と交際。千葉住み父親が認知症っぽくなってきたので、どちらを中心に生きるべきか? タイトルは老いた父だけど、それ以外の多くの男女の機微多数。良かった。
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私は両親との関係は良くも悪くもない。ちょっぴり悪いよりの。 今思うと自分の軽率な行動から亀裂が入ったということも、考えるようになった。 そんな想いがあったからこそ、この本のタイトルやカバーを見た時に、自然に手に取っていた。 自分は両親に似ていないと思っていたけど、少しずつ2...
私は両親との関係は良くも悪くもない。ちょっぴり悪いよりの。 今思うと自分の軽率な行動から亀裂が入ったということも、考えるようになった。 そんな想いがあったからこそ、この本のタイトルやカバーを見た時に、自然に手に取っていた。 自分は両親に似ていないと思っていたけど、少しずつ2人の要素をもらっている。 多少なりとも外交的なのは母似だし、本を読んだり、インドアっぽさが多少なりともあるのは父親から来ていると思う。 それを踏まえて、まだまだ自分は両親のことを知らない。 自分がどんな思いで産んだのか。 どんな思いで名前をつけたのか。 高齢出産に不安がなかったのか。 両親達の関係が崩れるようなことはあったのか。 高齢になった両親、そして近いからという理由であまり実家に帰ってなかったが、 3ヶ月に1回くらい、実家に帰って、ご飯を食べながら両親の話を聞くのが、 自分なりにできる親孝行なんじゃないかと。 あとは、どう捉えられるかわからないが、自分も結婚して子供が欲しい。 子供が好きだというのもあるが、何より自分の老後に誰も周りにいないとか、面倒を見てくれる人がいないのは、あまりにも寂しい。 もちろん、必ずしも子供が世話をしてくれるとは限らないが、1人でもそういう人が周りにいるだけで心が救われる 今後の人生を考えるきっかけを与えてくれる本だった
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小野寺ワールド全開。 78歳で一人暮らしをしている父・敏男の異変に気付き、故郷の館山にある実家に帰郷した40歳の富生が主人公。 小野寺さんの淡々とした文章が、父と息子の微妙な距離感とマッチしてとても良かった。 車のバンパーの凹み、ぶつけた事を忘れている父。 冒頭から不穏な空...
小野寺ワールド全開。 78歳で一人暮らしをしている父・敏男の異変に気付き、故郷の館山にある実家に帰郷した40歳の富生が主人公。 小野寺さんの淡々とした文章が、父と息子の微妙な距離感とマッチしてとても良かった。 車のバンパーの凹み、ぶつけた事を忘れている父。 冒頭から不穏な空気が流れ、その嫌な予感は少しずつ増していく。 関係性が良かったとは言えない若き日の穴を埋めるように心の距離が近づいていく二人の姿に心が温まる。 読みながら亡き父を思い出し、私ももっと話をしておけば良かったと涙が込み上げた。 切なくて愛おしい家族小説。
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作者と同じ年。もしかしたら、親も似た年。父の車がへこんでたって、うちの父も同じことがあったので。どうすれば?って。自分も親も老いていく。どう向き合うか。
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出たばかりの小野寺史宜さんの新刊。 主人公は40歳の独身男性。 母が亡くなってから、78歳の父が一人で故郷の千葉の館山市に暮らしている。 その父の様子が最近おかしい。 車をぶつける…何度も同じことを聞く、歩くのが遅い…目の当たりにしたのは、父の「老い」だった。 以下、ネタバレあり。 主人公は仕事を不安に駆られ父との同居を決め、会社に申請して仕事を在宅にして、都内から館山市に引っ越してしまう。 しかしそのことを付き合っていた彼女に相談もせず決めてしまったため、二人の間に溝が生まれ、別れることになる。 父親はおそらく認知症だ…はっきりとしたことは記されないが、行動や発言から何となく読者もわかる。 40歳の今の章と、若い頃の主人公の様々な思い出の章が交互に描かれ、昔の父親と老いた父親との違いが時間の流れを感じさせる。 僕の父は60歳で心筋梗塞でこの世を去った。その時点から母は1人で住み、20年前から僕が家族と二世帯住宅を建て、一つ屋根に住んでいる。 母はこの夏に95歳になった。 『もし亡くなったのがお母さんで、お父さんが一人残されたとしたら、一緒に住むだろうか…』そんな話をした。この小説を読んで、もしも親父が長生きしていたら…そんな空想をさせてくれる本だった。 ただストーリーとしては大きな展開は無く、淡々と物語が進み、父親との二人の生活(父親の介護)がこれから続いていくことを暗示して終わる。もう少しドラマティックな何かがあってもよかったかなあ。 その点がちょっと惜しかったなあ。
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父を亡くした直後、役所の手続きで町に出たときに本屋で偶然手に取ったのがこの本でした。 あまり会話は多くなかったけれど、僕を否定することもなく、静かに見守ってくれた父。その記憶と、いま自分も息子を持つ身になったことが重なり、「これは自分にとってぴったりのテーマかもしれない」と思って読み始めました。 主人公・富生さんは78歳になる父の介護をきっかけに、東京から千葉へ引っ越してきます。父には認知症の兆しがあり、不安を抱えながらも息子として支える日々が始まります。 作中で描かれる父の姿は、知っているようで実は知らなかった断片にあふれていて、うどんを茹でるのが驚くほど上手だったり、不器用ながらも確かに伝わってくる愛情があったりします。男同士の距離感、近すぎず遠すぎずという関係が、とてもリアルに感じられました。 個人的に胸に迫ったのは、富生が8年付き合ったパートナーと別れる場面です。父を選び、介護を選ぶその姿は確かに献身的で美しいのですが、同時に「もっと彼自身が幸せになる道を選んでもよかったのでは」とも思わされました。 全体を通して「父との関係」「老い」「息子としての責任」といったテーマが、温かさと切なさをもって描かれています。僕自身、父を思い出しながら、そして息子を育てる立場として何度も胸に響く箇所がありました。 親が高齢になってきた人や、自分と父との関係を振り返りたい人には特におすすめです。心の奥にじんわりと残る一冊でした。
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