13月のカレンダー の商品レビュー
侑平は、研究者として尊敬する教授の下で働いていたが、研究データを捏造するという不正のために辞して違う会社に勤めていた。 だが人との交わりを避けているうちに誰ひとりとして親しくする者もなく、毎日鬱々とした生活に嫌気がさしてその仕事も辞めていた。 ある日、両親の離婚以来、疎遠だった...
侑平は、研究者として尊敬する教授の下で働いていたが、研究データを捏造するという不正のために辞して違う会社に勤めていた。 だが人との交わりを避けているうちに誰ひとりとして親しくする者もなく、毎日鬱々とした生活に嫌気がさしてその仕事も辞めていた。 ある日、両親の離婚以来、疎遠だった父から父方の亡き祖父母の空き家相続を持ちかけられ、子ども時代の夏休みに遊び行っていたことを思い出し、15年ぶりに四国・松山に向かった。 そこで祖父の書斎にあった書類の中から13月まであるカレンダーと脳腫瘍を患った祖母の病状を記したノートを見つける。 侑平は、祖母が広島出身だったことやその兄が原爆で亡くなっていたことを近所の人から聞き、何も知らなかった、知ろうともしなかったことで、今になりもっと深く知りたいと思い行動する。 父が家族に対して深く関わろうとしなかった理由もわかった。 そして侑平自身のなかでも、いろんな人と話をするうちに変化していったように思う。 広島の原爆投下後の生き残った人も想像を絶する惨禍を経験したということが、頭ではわかっていても実際それが祖母に近しい人からの言葉で聞くとやりきれない気持ちだろう。 そして祖母もまた苦しんできたということを知ると生きている間に話を聞きたかったと思ったかもしれない。 生き残った者の罪悪感という、サバイバーズギルトにというのも初めて知った。 知らなかったことは無かったことではない。 知ってこれからどうするのかが大切だと感じた。
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怪しげなタイトルだが、宇佐美さんにしては珍しくほぼ直球勝負の小説だった。 訳あって大学院を辞め、その後勤務した企業も辞めた侑平は、松山にある今は亡き祖父母の家を訪れる。きっかけは、離婚後疎遠となっていた父からの電話だった。 書斎に残されていた祖父のノートには祖母の病状が記されてお...
怪しげなタイトルだが、宇佐美さんにしては珍しくほぼ直球勝負の小説だった。 訳あって大学院を辞め、その後勤務した企業も辞めた侑平は、松山にある今は亡き祖父母の家を訪れる。きっかけは、離婚後疎遠となっていた父からの電話だった。 書斎に残されていた祖父のノートには祖母の病状が記されており、2008年のカレンダーにはあるはずのない「13月」が印刷されていた。 要約してしまえば、ここから侑平が祖母の過去を調べるだけの話なのだが、その内容が衝撃的過ぎて言葉が出ない。過去を知った侑平が生き直そうと決意する姿も好印象だった。 戦後80年となる今年、この本に出会えたことに感謝したい。
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侑平は研究者として仕事をしていましたが、研究で不正を行ってしまい職を辞します。 侑平の父母は離婚していて侑平が中二の時に祖母の寿賀子を亡くしていました。 中学教師だった祖父の和成は5年前に83歳で亡くなっていました。 侑平はふとしたきっかけで祖母の寿賀子のことを知りたくなり愛媛...
侑平は研究者として仕事をしていましたが、研究で不正を行ってしまい職を辞します。 侑平の父母は離婚していて侑平が中二の時に祖母の寿賀子を亡くしていました。 中学教師だった祖父の和成は5年前に83歳で亡くなっていました。 侑平はふとしたきっかけで祖母の寿賀子のことを知りたくなり愛媛県松山市の郊外にある町を訪ねます。 そこで侑平は寿賀子の為に和成が作った13月まであるカレンダーを見つけます。 なぜ和成は13月まであるカレンダーをわざわざ作ったのか…? 昭和20年8月6日、広島に原爆が落とされ苦しんだ人々が大勢いたこと。こんなに克明に描かれた文章を読んだのは私は漫画の『はだしのゲン』をずいぶん昔に読んで以来でした。 原爆投下の描写は凄まじくむごいものでした。 一瞬にして全身に大火傷を負い、「水が飲みたい」と言いながら死んでいく人々。 13月のカレンダーは寿賀子や周りを幸福にする奇跡のカレンダーでした。 今年の8月6日は過ぎてしまいましたが、核兵器が使われることがどうかもうありませんようにと思いました。
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SL 2025.8.29-2025.8.31 8月7日の広島、まるでドキュメンタリーのように惨状を描き出す。これが戦争、原爆の現実。たった一発の爆弾で街も人も家族もズタズタになる。被爆者たちは一生、いや子の世代までも被爆者であることに苦しめられる。ただその時にその場所にいただけな...
SL 2025.8.29-2025.8.31 8月7日の広島、まるでドキュメンタリーのように惨状を描き出す。これが戦争、原爆の現実。たった一発の爆弾で街も人も家族もズタズタになる。被爆者たちは一生、いや子の世代までも被爆者であることに苦しめられる。ただその時にその場所にいただけなのに。 戦争のことも原爆のことも少しは知っていると思っていたけど、戦後の被爆者の苦労は想像を絶するものだった。 戦後80年、わたしたちはまだ親世代が戦争とつながっていたけれど、もうほんとに戦争がひと事になりつつある日本。せめてこういった作品を読んで何かを感じて欲しい。 多くのことを考えさせられる作品だった。
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亡き祖父母の家を訪れた侑平が見つけたのは、13月まであるカレンダーだった。余命宣告をされた祖母のために祖父が作ったというそのカレンダーは気休めのようなものだったはずなのに、「十三月はあったのよ」と謎めいた言葉を残した祖母。祖父母の人生を辿ることにした侑平は、過酷な人生を生きぬいた...
亡き祖父母の家を訪れた侑平が見つけたのは、13月まであるカレンダーだった。余命宣告をされた祖母のために祖父が作ったというそのカレンダーは気休めのようなものだったはずなのに、「十三月はあったのよ」と謎めいた言葉を残した祖母。祖父母の人生を辿ることにした侑平は、過酷な人生を生きぬいた人々の物語を知ることになる。 核にあるのは広島の被爆体験をした人々の物語。実際に遭った人のみならず、関わった人たちの人生にも波紋を起こし、さらに後々に至っても心理的な被害をもたらす原爆は本当に許されざるものです。実害はもちろん風評被害により人生が狂った人たちの物語も痛々しいです。しかしすべての不幸を原爆のせいだけにしてしまうのもまた新たな不幸を生み出すことになってしまうのか、という悲惨さもまたやりきれません。強い心をもって生き抜く人たちは頼もしいけれど、そうでない人もいますからね。 さまざまな人たちの物語を通じて前向きな心を取り戻していく侑平に力づけられます。そして最後に起こる「奇跡」のすばらしさ! たしかに十三月はあったのだとしか思えませんでした。
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装幀からは想像つかない壮絶な作品だった。 物語は、仕事に挫折した主人公・侑平が、愛媛県松山市にある亡き祖父母の空き家を訪れる場面から始まる。 祖父の書斎で見つけた13月まであるカレンダーは何を意味するのか? 祖母の故郷である広島との関連性は? 1945年8月6日、広島へ原子...
装幀からは想像つかない壮絶な作品だった。 物語は、仕事に挫折した主人公・侑平が、愛媛県松山市にある亡き祖父母の空き家を訪れる場面から始まる。 祖父の書斎で見つけた13月まであるカレンダーは何を意味するのか? 祖母の故郷である広島との関連性は? 1945年8月6日、広島へ原子爆弾が投下された一日が圧倒的なリアリティで描かれる。 戦争がもたらした数々の悲劇と理不尽、被爆者への偏見と差別は読んでいて苦しかった。 侑平が家族のルーツを探る中で辿り着いた真実と奇跡が涙を誘う。 今年は戦後80年、未来永劫この平和が続きますように。
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戦後80年で、戦争を風化させない取組が小説界でも多いが、その中でも出色の出来の作品。ストーリテリングの上手さも人物描写・背景描写も流石で、ラストに回収される奇跡の物語には落涙必至。ホラーで一番怖いのはヒトコワと言われるが、原爆被害についても同じことがいえる。被害そのものではなく流...
戦後80年で、戦争を風化させない取組が小説界でも多いが、その中でも出色の出来の作品。ストーリテリングの上手さも人物描写・背景描写も流石で、ラストに回収される奇跡の物語には落涙必至。ホラーで一番怖いのはヒトコワと言われるが、原爆被害についても同じことがいえる。被害そのものではなく流言飛語と差別意識が一番恐ろしいことがよくわかる。13月のカレンダーに込められた想いはひしひしと伝わるが、それが13月あるカレンダーに必然性を感じなかったところが残念で、別のもっとしっくりくる題材があったのでは、とも思う。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
何もかもが奇跡という名の下にあるような気がした。 1番最後のこのセリフがこの小説の全てだと思った。 ここまで読んで最後にこの一節で締めくくるとは、なんと心を震わす言葉かと思った。 宇佐美まことさんの小説は羊は安らかに草を食みを読んでから生半可な気持ちで読むものでないと知り、今回も一文字一文字自分なりに丁寧に読んだ。 読み飛ばしなんて絶対にできないほどの気迫が伝わってくる文章で、ところどころ苦しくなるけれどそれでも読み進めた。 個人的には羊は〜の方が衝撃的ではあったが、今作も被爆した人たちのその後の人生を知り、果たして自分に一体何ができるのかとずっとずっと考えながら読み進めた。 13月はあったのよ ファンタジーとも取れるこのセリフだが、この小説に至っては全くファンタジーではない。 うまく言語化できない自分がもどかしいが、人の生死に関する運命は変わらないのだと。 けれど、誰かが死ぬ運命だったそばで、誰かが生きる運命にあったということは、今現在も確かに存在していて、それはファンタジーでもなんでもなくて、後悔をするけれど後悔をしてもというものであって、そこに誰かの生があるならばと慰められている気もして。 自分に何ができるのか、もはや知ることしかできない気もするが、それさえも怠っていた自分を恥じた。 よく分からない感情がごちゃ混ぜでしたが、読んでよかったです。
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戦争や原爆のこと。 ひどい歴史だと思いながらもちゃんと自分が正面から向き合ったことはないような気がする。 この本を読んで、改めてそう思った。 自分の勉強不足に反省。
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戦争は昔の話だとどこかで思っていたが、わずか80年前の出来事なのだと改めて考えると(特に自分の年齢を思えば)、ほんのついこの前のことだったのだなと恐ろしくなる。 14万人がお亡くなりになった広島の原爆投下後の様子がかなり詳細に書かれていた。知ったような気になっていたが、実は何も...
戦争は昔の話だとどこかで思っていたが、わずか80年前の出来事なのだと改めて考えると(特に自分の年齢を思えば)、ほんのついこの前のことだったのだなと恐ろしくなる。 14万人がお亡くなりになった広島の原爆投下後の様子がかなり詳細に書かれていた。知ったような気になっていたが、実は何も知らなかったことを思い知らされる。学生服を着た遺体を見れば飛んでいき、息子を死に物狂いで探す親の描写には、胸をえぐられる思いがした。またこの息子と共に国鉄で働かされ、一緒に探してくれた息子の親友も、なぜたったの14才で、そんな悲しい経験をしなければいけなかったのだろうか。 命は助かっても、顔に大火傷を負い、様々な病に倒れ、結婚や出産で悩み、その後何十年と苦しみが続いていた(る)方も居られる。戦争とは無縁の毎日を送り続けるために、出来ることを考えて行動しなければいけない。
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