天使と歌う の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
音楽小説には外れがない(知らないだけかもしれないけど)。 どれを読んでも面白い。知らないことがどんどん自分に流れ込んでくる。なんだか自分まで音楽家になった気がしてくる。 文字の間から音楽が聴こえる、見えない音符が響いてくる。そんな経験をさせてくれる音楽小説も多い。 日本画の復元模写を描いたデビュー作から、今度はクラシック音楽、しかもチェロ奏者だと!? どれだけ芸術に造詣が深いんだと思ってたらご自身は薬剤師だという。なんだか、すごいな。 愛野史香の『天使と歌う』は両親の離婚により、小学生の時に「喪失」という絶望を味わった主人公大夢が、隣に隠棲していた世界的チェリストと出会うことで自分の中の音楽の芽を開放していく物語。 ヨー・ヨー・マが奏でる深夜の月あかりのような凛として繊細なメロディが、2CELLOSの真夏の太陽のような激しく熱いビートが文字と文字の向こうに見え隠れする。 幼い時から専門的に音楽を学べる人は、経済的に恵まれているだろう。弦楽器なら特に。 いくつもの偶然が大夢の中にある音楽の扉を開いてくれた。けれど、偶然を必然へと変えていくのは本人の努力、ただそれだけ。 病を得て妻の故郷日本で隠棲する世界的チェリスト、ルカ・デリッチがたまたま出会った少年。彼にただただチェロを歌わせる楽しさと、技術を惜しみなく与えることがルカの喜びだったのだろう。 その平和で平凡で温かい生活が、ある日終わる。大夢の進路、世界的宝であるチェロの所有権、そして新しいコンクールの開催。 年齢制限のための夢をあきらめてきた者たちが、その才能を開放させる新しい舞台。 それぞれにそれぞれの思いがある。それぞれがそれぞれの舞台の主人公である。 誰のものでもない、私の物語を自分の手で開くこと。その素晴らしさを教えられる。
Posted by
『あの日の風を描く』でデビューした愛野史香さんの2作目。前作は油彩画がテーマだったが、本作はクラシック音楽のチェリストが主人公だ。 病気のため引退した著名なチェリストが発見し指導した少年が、彼に託されたチェロの使用権を得るため人生初のコンクール出場を決意する。 『蜜蜂と遠雷』を彷...
『あの日の風を描く』でデビューした愛野史香さんの2作目。前作は油彩画がテーマだったが、本作はクラシック音楽のチェリストが主人公だ。 病気のため引退した著名なチェリストが発見し指導した少年が、彼に託されたチェロの使用権を得るため人生初のコンクール出場を決意する。 『蜜蜂と遠雷』を彷彿とさせる、12日間に及ぶコンクールの描写が熱かった。音楽家になるつもりなどなかった天才少年の心境の変化と、彼を支える人々の思いも読みどころだ。 刊行日 2025/07/15、NetGalleyにて読了。
Posted by
