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トラジェクトリー の商品レビュー

3.6

24件のお客様レビュー

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2025/09/17
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

名古屋という土地、英会話教室、講師、という設定が私自身に馴染み深いもので、これまでのことを思い出しながら読んだ。 ブランドンとアポロ計画の宇宙飛行士たちとの対比が興味深かった。 確固たる目的地へと向かうために、住み慣れた場所(地球)から離れた人たち。 それに対して、中間地点にいるような気がするが、最終地点がなく宙ぶらりんなブランドン。 どこに行っても同じで、「自分」からは逃げきることはできない。 そんな終わりのない閉塞感をひしひしと感じた。 作中では、英会話教室の生徒・カワムラさんの提出物と思われる日記が挟まれる。 その日記は教室でのカワムラさんの態度とはかなりギャップがあり、彼の中の柔らかい部分、子どものように純粋な部分が表れているようだった。 私は言語に興味があるので、英語ネイティブの元同僚が言っていた以下の言葉が衝撃的だった。 (元同僚は出版関係の仕事をしている) . ——まあ、つまり、すべてが英語になっても、英語の中に日本語の一部を残すことができればいいなと思う。みんな日本語のことを忘れていっても、こんな言葉が英語の中で生き続けていたら、それはそれで素敵だなと思って。その意味では、やり甲斐のある仕事なんだ。 (P91,92) . このセリフを読んだとき、なんて傲慢で上から目線なんだと憤りを感じた。 また、英会話教室のスタッフ・ダイスケも、こう言う。 . やはりコストパフォーマンスも考慮に入れないといけないね。仮に日本語を勉強することにしたら、学習時間を控えめに設定しても、週二時間は要るでしょ。つまり年間で言うとおよそ百時間。授業の時間や移動の時間を入れれば、二百、三百時間じゃない。それは最低限でしょ? 本格的に勉強しようと思えばもっとかかるでしょう。時間の使い方は自由だけど、私ならやはりそんな時間があれば、アジアのこんなヘンテコな文字に使うよりももっと面白い使い方がいろいろあると思うなぁ。 (P65) ——あ、でも、教科書はここには持ち込まないほうがいいかも。このスペースはグローバルゾーンだからね。 (P80/「教科書」は日本語の教科書のことを指す) . ダイスケが求めているような「グローバルで活躍できる日本人」が増えて、グローバル化が進んでいっても、日本語がなくなることはないだろう(と私は願っている)。 母語というのは、自分自身である根っこを育てる力のようなものだと感じている。 言葉は人間を形作るものだ。 根を張った確固たる自分自身さえあれば、どこにいても、例え遠くに行ったとしても、宙ぶらりんにはならないのかもしれない。 そんなことを考えた。 . 表題作『トラジェクトリー』も『汽水』も、私自身の人生にとても近い作品だった。 他人事とは思えなかった。 そして「グローバル」という言葉について、何度も考えさせられた。 今の世界では、「“中心的な英語圏”に同化していくこと」が「グローバル」であると考えられていないだろうか。 少なくとも日本では、そういう傾向があるように思う。 私は幼少期から「西洋的なもの」に憧れ、語学の道を歩み、地元を出て、方言を隠しながら暮らしているが、未だ宙ぶらりんのままだ。 この本を読んで改めて、自分のルーツや居場所について考えたくなった。 . 子供の頃には方言が自ずと口をついて出た。方言であることすら意識はなかった。自分の言葉が正しくないこと、多くの人にとっては田舎の無知の証に聞こえることに気がついたのはその後だった。方言をやめる決心がついたわけではない。ただ対等に相手にされるためにはどのような言葉を話せばいいか、分かってきただけだ。地元の者同士なら方言で構わないけれど、どこでも通じるプロフェッショナルとして見做されるためには標準的な言葉を使うほかない。 少しずつイントネーションが変容した。言い回しがスタンダードなものに変わっていった。教育が身につくにつれて地方特有の言葉遣いが抜かれ、清澄とされる言葉だけが残った。 その英語はカウンターの上のロゴマークのように実用的で味気なく、なんだか物寂しい言葉だった。 (『汽水』P139,140)

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2025/09/16

作者は、所謂、日本語を母語としない方です。読むと、成程、日本人には気付けない視点で書かれているように感じます…が、そこら辺りが上手く理解されなかったような気がしました。 帯には、端正な日本語とありましたが、自分には蒸溜水のような、綺麗ではあるが魚の棲めない文章に感じました

Posted byブクログ

2025/09/14

母語が日本語でない作者が書いて芥川賞候補というのに興味を覚えて読んだ。 英会話学校のネイティブ講師ってたしかにこんな感じ。日本の若者がもはや英語を勉強することにさしてモチベーションないのもこんな感じかもしれない。都市郊外のショッピングセンターがじわじわ寂れていくかんじとか、ひとり...

母語が日本語でない作者が書いて芥川賞候補というのに興味を覚えて読んだ。 英会話学校のネイティブ講師ってたしかにこんな感じ。日本の若者がもはや英語を勉強することにさしてモチベーションないのもこんな感じかもしれない。都市郊外のショッピングセンターがじわじわ寂れていくかんじとか、ひとり暮らしの中高年男性のたたずまいが身近で。 他所から来てまた帰っていく者、滞在して別の土地に通過していく者、突然プツリと行方不明になってしまう者、全く別のルートをたどる同級生、みんなそれぞれ理由があったりなんとなくだったり軌跡を描いている途中。 2篇ともグローバルという言葉が背景に出てくるけど、いまやすっかりイメージが変わってしまった。

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2025/09/10
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

日本で働いている米国人、米国で働いている日本人、世界中を転々としながら働いている人・・・。主人公のブランドンは特に日本に魅力を持って来日したわけではない。知らない心の底では日本の何かに魅せられたのかもしれにが、本人でさえそんなことは分からない。ブランドンが移動した軌跡は地理的には長い。でも、心の軌跡はどうだろうか。あまり移動していないような感じである。というのが表題作の感想。もう1つの「汽水」も似たような感じの作品だ。インターナショナルといったって米国とその他の関係でしかない。日本を忘れること、米国に染まることがグローバル化ではないと思っているので、そこに違和を感じた。

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2025/09/08

啓光図書室の貸出状況が確認できます 図書館OPACへ⇒https://opac.lib.setsunan.ac.jp/iwjs0021op2/BB50399831 他校地の本の取り寄せも可能です

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2025/09/01

日本語が母国語ではない人が書いた小説とは思えないほど読みやすかった。 内容的には、?よく分からなかった。 深く読めなかったのかも知れない。 何ということのない英語講師の日常生活というか、こういう業界なんだなあ、いや、創作だから実際は違うのかなあ、という感じだった。

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2025/09/01

●読前#トラジェクトリー 自ら進んで手にする本はほぼない芥川賞候補作。だからこそ、習慣として候補作はすべて手にして読み始めてみることにしている。海外文学が超苦手なのでアメリカ出身の作家という点には不安、人の交流的な物語は好きなのでその点では期待 https://amzn.to/4...

●読前#トラジェクトリー 自ら進んで手にする本はほぼない芥川賞候補作。だからこそ、習慣として候補作はすべて手にして読み始めてみることにしている。海外文学が超苦手なのでアメリカ出身の作家という点には不安、人の交流的な物語は好きなのでその点では期待 https://amzn.to/4kFG1Df ●読後#トラジェクトリー 積読本が溜まっているので心に余裕がなく、まったくおもしろくなかった。ただ、芥川賞関連作は、言葉や行間に思いを巡らすことができればすごく楽しめるのかな?、と初めて感じた。本作は受賞ならず、ということは感じたことは間違いなのかもだが... https://amzn.to/4kFG1Df

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2025/08/18

新作、待っていました。 そして、再び芥川賞候補で。 今作のタイトルは英語。 やはり、テーマは日本と海外に住むという視点。 著者だからの独特の感性が、日本語で気負いなく綴られている。 2編目「汽水」、小泉八雲が登場するとは・・・ 蒸し暑いこの夏に読むにはピッタリ。

Posted byブクログ

2025/08/17

英語話者が日本に暮らす小説。短編が二篇入っています。英語話者の人が書いているのに、それを感じさせないのが面白い。とくに翻訳調にも感じられなかった。

Posted byブクログ

2025/08/16

芥川賞候補作。新刊本コーナーにあったので、また借りてしまった。やはりメッセージがわからない。日記のような内容なので、特にないのかも。外国に住む感覚は、そうだよなと思いながら読めたが。

Posted byブクログ