毛糸のズボン 直野祥子トラウマ少女漫画全集(文庫版) の商品レビュー
講談社の「なかよし」や「少女フレンド」に一九七一年から一九七三年にかけて掲載された短編漫画を復刻した文庫本。著者が阪神淡路大震災で被災され、原稿が消失してしまったため、掲載誌から起こしたと奥付にある。 トラウマという言葉を安易に使う風潮は、医療従事者として苦々しく思っている。...
講談社の「なかよし」や「少女フレンド」に一九七一年から一九七三年にかけて掲載された短編漫画を復刻した文庫本。著者が阪神淡路大震災で被災され、原稿が消失してしまったため、掲載誌から起こしたと奥付にある。 トラウマという言葉を安易に使う風潮は、医療従事者として苦々しく思っている。そして、一九七〇年代前半には、わたしはまだ生まれていなかった。でも、当時少女だった人々にとっては、著者の作品は、もしかしたらトラウマになっているのかな。それならそれで、言葉の使い方として正しいんだろうな。著者が「これは私の黒歴史です」(p323)と自作解説している『シャイアンの大ワシ』(pp227-257)がわたしは一番好き。著者が西部劇映画をほんとうに好きだったことが伝わってくる。
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阪神・淡路大震災で元原稿が焼失してしまったものの、掲載雑誌からスキャニングして書籍化した一冊。そのため、ところどころインクの擦れや経年染みが見受けられるものの迫真の画を楽しむのには何ら問題なし。 直野祥子先生自らによる全話セルフ解説が面白い。 14話収録。いずれも1971年〜7...
阪神・淡路大震災で元原稿が焼失してしまったものの、掲載雑誌からスキャニングして書籍化した一冊。そのため、ところどころインクの擦れや経年染みが見受けられるものの迫真の画を楽しむのには何ら問題なし。 直野祥子先生自らによる全話セルフ解説が面白い。 14話収録。いずれも1971年〜73年までの作品群。 《マリはだれの子》…小さい頃、親から叱られた時に「あんたは橋の下で拾ってきたのよ!」的なことを言われ、「自分は本当に両親の子なの?」と悩んだ事がある方もおられるかもしれませんね。本作の主人公〈マリ〉は近所の人から「ほほ しつこいようだけどさ マリちゃんはだれににたんでしょうね さとしちゃんはパパとママにそっくりなのに」(p12)と、弟の〈さとし〉と比べてマリは両親に似てないといらん事を何度も吹き込んだがために起こってしまった悲劇。「不愉快な思いをされた方は物語の最後を「救助されました」という希望の新解釈を付け加えてお楽しみいただければ」(p311)と、先生自らやさしいフォローを加えております。 《宿題》…この作品集のなかでも、絶望の方向性が異色な作品。昔はこういうガチで怖い先生っていましたよね。絶対に話が通じないというか。しかし先生のあだ名〈ゲンコツヘドラ〉ってすごいな。あまりにも夏休みの宿題が終わらなすぎて「ええっゲンコツヘドラが死んだ!」(p88)と、始業式6時間前にして碌でもないことまで夢想しだす始末。ただ何に驚きかといえば「先生のモデルは大好きだった担任の先生です。」(p315)と語られているけど、え、ゲンコツヘドラが? 《こじきの死》…なんちゅうタイトルよ。先生も「配慮のないタイトルをつけてしまいました。」(p318)と振り返っておられます。それはそうと、昔は本当にあちこちで見かけましたね、いわゆる路上生活者の方々。児童公園の生垣にブルーシート張って普通に住んでいる方がいて、ボールとか飛んでっちゃった時とか緊張するのですがバナナ食うか?とかパン食うか?とか、親切にしてもらった記憶があります。後味の悪さがすごい。 《はじめての家族旅行》…モースト・トラウマ・ストーリー。これの何が怖いって、いつ誰の身にも起こり得るという普遍性と再現性。p176、177の見開きページの猛火と黒煙の中に消えてゆく一家の幸せなひととき、という演出には寒気しかない。よりにもよって家族の旅行先は別府、別府といえば‘地獄’が待っているじゃないですか。旅から戻った家族を待ち受けているのはまさしく…。 火の用心、だいじ。 《へび神さま》…山間に伝わる因習、というオカルト要素とドラマ性が強めな、胸にズッシリ来るトリの一作。こういうのもいいね。怪奇よりもげに恐ろしきは人の妬み嫉み。へびの風評被害。日本在来種のへびでこういう時に引き合いに出されるのってどのへびなんだろう。ヒバカリとか?やっぱりマムシ? それと、あまり調べた事がなかったけども日本国内においてこういう生贄とか人柱の文化って本当にあったのだろうか?なんでまたこういう場合、差し出されるのは若い女性なんだろうか。そこには何らかの示唆があるような気がする。 火の元の始末は本当に気をつけよう! 1刷 2025.9.23
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ただあの薄気味悪い夕景の思い出が今では懐かしく美しいのです 因みにアメリカバイソン激減の躍動感理由はインディアンの食糧を断つ作戦だったといいます
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一つ一つの作品がパンチ効きすぎ。 ねっとり脳裏にいやな感情が残る短編ばかりでサクサクとは読めず、1冊読むのにかなり時間を要しました。 本人によるあとがき、それぞれの作品に対するコメントも情報量多くて素晴らしいです。
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あの頃の女の子たちはこんなものを読んでいたのか。まだ夜は暗く、情報も人づて、恐怖はより増幅していく。
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自分がうまれたころの少女漫画誌に掲載されたトラウマ作品が集まった本。怖いのはそんなに好きじゃないのだけど、ちょっと興味本位で手に入れた。
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「トラウマ文学館」で「はじめての家族旅行」を読んでしっかりトラウマになっていたところ、直野祥子トラウマ少女漫画が文庫になったと聞いて喜び勇んで買いました。 著者自身の解説にもある通り、現代ではコンプラ的に絶対NGな表現もあり、口当たりのよいエンタメ作品の後味悪さではなく、本気で心...
「トラウマ文学館」で「はじめての家族旅行」を読んでしっかりトラウマになっていたところ、直野祥子トラウマ少女漫画が文庫になったと聞いて喜び勇んで買いました。 著者自身の解説にもある通り、現代ではコンプラ的に絶対NGな表現もあり、口当たりのよいエンタメ作品の後味悪さではなく、本気で心を抉りにくるとこがよいです。 解説から引用させていただくと、"刺激的で露悪的で開放的で、どんなものでも認めてくれる空気に満ちて"いた時代を生きた昭和生まれに刺さるはず。おすすめです。
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「トラウマ」とか「怖すぎる」とかいう評判がこの本にはあって「そんな事あるんかな」と半ば冷めた態度で読み始めたのですが冒頭の「マリはだれの子」を読んで「その通りだな」と納得。嫌な経験、忘れたい記憶を煮詰めた珠玉のホラー短編集です。 「マリはだれの子」は朝の通勤電車で読んでいたので...
「トラウマ」とか「怖すぎる」とかいう評判がこの本にはあって「そんな事あるんかな」と半ば冷めた態度で読み始めたのですが冒頭の「マリはだれの子」を読んで「その通りだな」と納得。嫌な経験、忘れたい記憶を煮詰めた珠玉のホラー短編集です。 「マリはだれの子」は朝の通勤電車で読んでいたのですがしばらく世界が止まったというか、1話読み終えただけですごく気分が暗くなりました。普段からホラー作品は多く読んでいるのですがそれでもこの衝撃。1970年代の復刻ではありますが普遍的な恐怖を描いており読み継がれるべき名作でしょう。
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トラウマ少女漫画、ってことなので、よくあるホラー漫画かと思いきやちょっと違うなあ。たしかにあからさまなホラー漫画もありますが、もっとささやかで身近でありふれている分トラウマになってしまいそうな恐怖が描かれています。めっちゃ嫌だこれ。でも面白い! お気に入りは「へび神さま」。タイト...
トラウマ少女漫画、ってことなので、よくあるホラー漫画かと思いきやちょっと違うなあ。たしかにあからさまなホラー漫画もありますが、もっとささやかで身近でありふれている分トラウマになってしまいそうな恐怖が描かれています。めっちゃ嫌だこれ。でも面白い! お気に入りは「へび神さま」。タイトルからしてオーソドックスなホラーだと思ったのですが、そっちか! という印象。蛇を祀る風習といい人の心のおぞましさといい、どれもこれもが嫌だし怖い。そんな中で自ら「罰」を受けようとする少女たちの姿が切なすぎますよこれ。やりきれない。 「ひも」「かくれんぼ」あたりもじわじわ来て嫌な話。「宿題」と「はじめての家族旅行」は大人目線だとさほど怖くはないのだけれど、子供の頃に読んでいたら一番怖かったかもしれません。なるほどトラウマだろうなあ。そして全体的に、自分のしたことを罪であると認識することでさらに恐怖が増幅される、という嫌な構図になっている物語が多いと思います。善人ほど苦しむんだよなこれって……。
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直野祥子が1970年代初頭に少女誌に掲載したホラー漫画を集めた文庫オリジナルの短編集。 収録作の中では同じちくま文庫の「トラウマ文学館」(頭木弘樹編)に収録されている「はじめての家族旅行」のみ既読(これは以前、ネットでバズったこともあり直野祥子の恐怖漫画としては一番知られている...
直野祥子が1970年代初頭に少女誌に掲載したホラー漫画を集めた文庫オリジナルの短編集。 収録作の中では同じちくま文庫の「トラウマ文学館」(頭木弘樹編)に収録されている「はじめての家族旅行」のみ既読(これは以前、ネットでバズったこともあり直野祥子の恐怖漫画としては一番知られているものだろう)で、それ以外は今回が初めて読むものばかり。 収録作は、ストレートに呪いの恐怖を描いた「おつたさま」を除けば、「はじめての家族旅行」がそうであるように、人間の思い込みや迂闊さ、臆病さ、猜疑心などの心理が引き越す悲劇を描いた「怖い」というより心に檻が溜まるような厭な気分にさせる作品ばかり。ストレートな人間の悪意を描いたものではないというのがどうにも質が悪い。 現在だとこういう話は何らかの批評性がないと許されないだろうが、そういう批評性を持たない単に厭な話ゆえの行き場の無さに余計に気が滅入る。
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