舞台には誰もいない の商品レビュー
人は誰もが他人には見られることを意識している。そのため、「いい人」に見られたいと演じている部分は確かにある。その極限に位置するのが、役者であろう。その芝居ごとに、その人物に憑依して観客を唸らせる。 この小説は、メソッド演技に魅せられて、ついには命を落としてしまう女優の生き様を描い...
人は誰もが他人には見られることを意識している。そのため、「いい人」に見られたいと演じている部分は確かにある。その極限に位置するのが、役者であろう。その芝居ごとに、その人物に憑依して観客を唸らせる。 この小説は、メソッド演技に魅せられて、ついには命を落としてしまう女優の生き様を描いている。舞台俳優の狂気じみている凄みがありありと伝わっており、面白かった。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
ゲネプロの最中、女優が奈落に転落して死んだ。なぜ女優は死んだのか。その答えに迫っていく作品。終盤まで驚くようなことはなく、女優:遠野茉莉子の日常が描かれている。 面白いのは、茉莉子が死んだ理由を劇団の者達それぞれが予想し、そのどれもが外れているところ。確かに予想はできなかった。私は茉莉子ほど希望を持って死へ向かって行った人間を他に知らない。 生きている間中ずっと、茉莉子は苦しそうだった。嫌いだった母親からの目線、周りからの目線に晒され、役者として成功しているのに全く幸せそうではなかった。 これほど人気が出て、才能に恵まれているのに幸せになれない人間もいるのか。芸能人の自殺のニュースを見ると似たような感想を抱くが、彼らも茉莉子と同じ様に、自らを演じ続けることが苦痛になったのだろうか。 人は何かしらの役割を演じて生きていると言うが、ほとんどの人は自分が役割を演じていると思って生きていないだろう。それで良いと思うし、たまには状況に応じて意図的に役割を演じることも必要だと思う。しかし、茉莉子の様に自分の人生そのものが演技だと感じてしまったら…。 喜びを感じることがないまま、死に喜びを見出して逝ってしまった茉莉子を憐れむべきか良かったねと言うべきか迷うところだ。
Posted by