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愚か者の石 の商品レビュー

4.3

31件のお客様レビュー

  1. 5つ

    16

  2. 4つ

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  3. 3つ

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2024/10/28

ここはJAPAN版アウシュビッツなのかい…?! 主人公巽とキーパーソン大二郎が途中で移送された硫黄採掘場での過酷な労働。ついそう思ってしまった程に劣悪な労働環境。 ホロコーストと一緒にしてはいけないのですが、当時の杜撰な捜査で罪人となってしまった冤罪の人間もいる訳で…。 ひ弱な...

ここはJAPAN版アウシュビッツなのかい…?! 主人公巽とキーパーソン大二郎が途中で移送された硫黄採掘場での過酷な労働。ついそう思ってしまった程に劣悪な労働環境。 ホロコーストと一緒にしてはいけないのですが、当時の杜撰な捜査で罪人となってしまった冤罪の人間もいる訳で…。 ひ弱な現代人の私は3日で倒れるなと震えていた本作。 しかしその実はtomoyukiさんがレビューに書かれていた通り、人間讃歌でした。 時は明治18年。 巽は学生生活を謳歌しつつ、政治活動にも参加。ところが中央官察の制圧を計画した所属団体の策略により運悪く逮捕され、国事犯として13年の実刑が下されてしまいます。編笠を被り柿色の囚人服を着せられ船に乗り汽車に乗り辿り着いたのは北海道の樺戸集治監。周りは様々な犯罪者のごった煮。単なる学生だった巽は初心なままで彼らの中に放り込まれる事に。婚約者にも裏切られ落ち込んだのも束の間、ここを出たら復讐してやる、と怒りを生きるパワーに変えてしまう。凄すぎる。 私なら生きる屍と化してしまう。この彼とその後10年以上も相棒となる男が大二郎です。 口から産まれたような彼は飄々とホラを吹き、適当な話をしては過酷な労役で精も根も尽き果てた囚人達を笑わせていました。 ですが自身の事は一切話さず煙に巻いてどこか掴み所の無い男だと巽は評していましたが、やがて彼に救われている自分に気付く事になります。 割と序盤で大二郎が大切にしている石が出てきます。 光に翳すと中の水が揺らめいて綺麗だけれど何の価値もない石。驚きの方法で看守に見つからぬようにずっと隠し持っているので、よほど曰く付きの物なんだろうと予想していたら、予想以上に大切な物だった…。 大二郎…!!涙 あーもう天を仰ぐしかないわ。天を仰ぎすぎて首がもげるわ… こんな事があって良いのか!!最後は救われたのかい?!そう信じてるよ?!大二郎…!! でも推しは中田看守です(ゆーきさんに予想され見事に的中) 1人だけいつも制服の手入れを欠かさず、能面のように表情も変えず粛々と与えられた仕事を全うする。他の看守のように憂さ晴らしで囚人を虐める訳でもなく、かと言って囚人に気安くする訳でもなく、ただただ中立。 中立なので威張り散らしもしない。 巽と大二郎たちの移送中のトラブルで遭難しかけた時には、懐に忍ばせておいた饅頭を2人に分けてあげる優しさも。 この時の饅頭が巽にとってどれ程美味しい物だったのかが伝わって来て、思わずスーパーで食べれもしない黒糖饅頭を買いそうになりました。(すぐに影響される) 本書は9割が獄中での話です。なのに印象に残っているのは巽が外で労役をしていた際に眺めている田舎の景色です。馬に乗って「囚人さんありがとう」と屈託なく手を振る子供や、囚人たちにとっては命に関わる雪、広大な大地に沈んで行く太陽。 河崎さんは初めましてなのですが、細かい所まで丁寧に物語を紡いで下さるのでどっぷり浸れました。 極寒だがのんびりした景色が臨める大地から、2人は1日に2度は囚人が倒れる過酷な釧路集治監へ移されます。 大二郎ですら、硫黄のガスで身体を弱らせお得意の口八丁が鳴りを潜めてしまう。 しかし、ここでの経験が巽の心境に大きな変化をもたらします。 大二郎の犯した罪とは何なのか? この石は大二郎にとってどういう物なのか? 何故、巽を裏切るような行為をしたのか? まるで2人と共に獄中生活を送ったかのような重厚感の後に待っている終盤。 中田と巽と共に、我々読者も一緒にこの謎を解く旅に出る事に。 ここでも丁寧な風景描写に心惹かれますが、どんどん真相に近付くに連れて緊張感も増してきます。 集治監を信用出来ないと言う、以前に説法をしに来ていたお坊さんに会いに行った所なんかは辛い真実が次々に訪れて第1次天仰ぎの儀式に突入。(2度目は先程書いた大二郎の真実にです) 盛大に心が折れたままで迎えたラストシーンなのですが、なんとこのラストシーンで何故か私まで救われた気持ちに。 これは是非とも体感して頂きたいのですが、好きなラストシーンベスト10の中にランクインしました。 とにかく…良い…。人間賛歌だぁー!! 生きねば!と、某ジブリのような事を強く思った読後感でした。 ゆーきさん、めちゃくちゃ大好きなお話でした!ありがとうございます♪ さて本書を拝読してフランクリンの名著『夜と霧』を思い出した訳です。そこにも人は希望があれば生きていけるとフランクリンの実体験を元に書かれていました。 彼は同じく収容所に連行され生きているか分からない妻の姿を思い出して乗り越えました。 大二郎にとっての石がそれに当たり、巽にとっては大二郎が無意識のうちに希望となっていた訳ですね。 ちくしょー…泣けるわい!!

Posted byブクログ

2024/10/26
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明治時代、士族の家系で苦労知らずに育った主人公巽は、国事犯(政治思想犯)として懲役13年を申し渡され、北海道の樺戸集治監(監獄)に収監される。 そこでともに鎖につながれた大二郎という男、そして冷徹な刑務官中田と過酷な環境と労働を過ごす。 前半から中盤にかけ、激烈過酷な収監生活の描写が続く、特に釧路の硫黄採掘現場の、囚人ばかりでなく刑務官すら健康を損なう人権などという言葉がクソの役にも立たない現場の壮絶さは記憶に刻み付けられる。 後半大二郎が脱獄し、恩赦で囚人生活を終えた巽と中田が大二郎の足跡を追う部分、いわば回収パートを読み進めていくうちに、生きることの虚しさ、それでも生きていくことの素晴らしさを感じた時、この本の良さが身に沁みてくる。 犯罪者の更生には、監視付きの厳格な生活、無駄のない規則正しい生活と、世間に役立つ労働、華美さのない質素な食事と、最低限の衛生環境、自分の罪を見つめなおし贖罪を考える時間と空間を与えることが大切なんだと思えた。 犯罪者でなくても、そのストイック生活習慣は参考になる部分も多いと思えた。服役中の巽が白米のおにぎりや饅頭を食うシーン、出所後はじめての食事やセックスシーンを読むと、過度の贅沢を知るのは実は不幸なんじゃないかと思えたり。 とはいえ、最早取返し(更生)のできないレベルの罪人、最近でいうと闇バイトで暴行や殺人を犯したクズどもなんかは、硫黄掘ったり、原子炉掃除したり、その死刑のかかる費用すら勿体ないクソ命を少しでも使い切ったたらエエと思った俺は、やっぱり俗物の偽善者やなぁ

Posted byブクログ

2024/10/23

月形に集治監があったこと、全然知らなかったのと、アトサヌプリについても。北海道には、知らなければならない歴史がたくさんある。 2024/8/29読了 2024年の40冊め!

Posted byブクログ

2024/11/01

この作品を読み始め、すぐに頭に浮かんだのが、吉村昭著「赤い人」 舞台は一緒なのだろう 吉村作品とはスタンスが違う様な感じがした 川﨑秋子さんが、何を描きたかったのはわからない 昨今冤罪に無罪判決が確定した 世の中、間違いはあると思う それをどう修正していくか、我々の責任かと思う

Posted byブクログ

2024/10/03
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※このレビューにはネタバレを含みます

なんとも言えない読後感だが、後半1/3 がとても良かったので星5つに。 初めの方は飽きてしまい、どうしてそんなに評価高いのか不思議ではあったが、淡々と読み進めると、樺戸集治監の看守中田と、大二郎と、瀬戸内巽たつみ。この3人の三者三様の生き様がよかった。 東京大学で学徒の運動員に関わり、国事犯として徒刑13年の巽。たまたま隣にいた山本大二郎と部屋も同じ、鎖で繋がれる仲になり、いい加減な軽口で嘘つきの大二郎に心を許していく。硫黄の採掘で過酷な釧路集治監へ移送される途中の吹雪では生死を分ける体験を共にして、小さな絆のようなものが生まれる。 釧路は過酷で日に何人も亡くなっていく状態…あまりの酷さに声を上げた典獄のおかげで途中で作業が中止になり元の樺戸へ戻ることに。最後大二郎が大切にしていた石からの発火で火災が起き脱走となり、巽は裏切られた気になるが、勤め上げ晴れて自由の身に。そこからが面白かった。自由になったものの長期の習慣からか質素に日雇いで暮らし、突如監獄への差し入れを思い出し行動すると中田にであう。 その後は共に行動し脱走した大二郎の行方を一緒に探す。 農家が大変なのは分かるが折角脱走しても一般のイジメで亡くなった大二郎はやるせない。それを告白した青年のおかげで出土も捕まった経過も分かったのだった。 辛い。でもどこまでフィクションなんだろう、と思ってしまうほど後半はリアルだった。 罪人の気持ちなんて知らんわ、と思い読み始めたが途中からは夢中になっていた。不思議な魅力のある話だった。

Posted byブクログ

2024/09/30

明治18年、北海道月形町の「樺戸集治監」に収監された巽と大二郎。凄絶な服役生活の中にあって、大二郎の明るさだけが巽の救いだった。そんな大二郎が火事に乗じて脱獄する。残された巽は割り切れない思いと怒りを抱きながらも模範囚となって服役し、12年後恩赦により仮放免される。札幌でその日暮...

明治18年、北海道月形町の「樺戸集治監」に収監された巽と大二郎。凄絶な服役生活の中にあって、大二郎の明るさだけが巽の救いだった。そんな大二郎が火事に乗じて脱獄する。残された巽は割り切れない思いと怒りを抱きながらも模範囚となって服役し、12年後恩赦により仮放免される。札幌でその日暮らしをする巽の元を訪れたのは、彼らの担当看守だった中田だった。 北の開拓地での囚人たちの地獄のような苦役。死と隣り合わせの房生活。非人道的な扱いがこれでもかと描かれる前半。そんな中にあって、大二郎の憎めなさに救われる。 巽と大二郎と看守の中田、この3人の間にある立場を超えた思いが物語に深みを増す。 大二郎が隠し持っていた石英の玉の秘密、犯した罪の真相、そして脱獄後の行く末。謎解きのように真実が明らかになっていく物語の終盤は、切なさと哀しさで苦しくなる。 貧農の出で、周りの仲間に馬鹿にされながらも、職務を淡々とこなし、常に正道を歩もうとする看守の中田が特に魅力的。 辛い読書ではあったが、読後は存外に清々しい。中田はこの後看守を辞めていたりして、なんていらない想像をしてしまいました。

Posted byブクログ

2024/09/30

明治時代中期の北海道石狩川沿いの刑務所での、出自も物事の基準も違う二人の囚人と看守の三人を中心にした話。殺人の罪で服役する同房の大二郎のことを、鎖で繋がれて一緒に外役をする思想犯の巽はなぜか気にして過ごします。同じく普段から冷徹な看守の中田もさりげなく大二郎を監視している様子。脱...

明治時代中期の北海道石狩川沿いの刑務所での、出自も物事の基準も違う二人の囚人と看守の三人を中心にした話。殺人の罪で服役する同房の大二郎のことを、鎖で繋がれて一緒に外役をする思想犯の巽はなぜか気にして過ごします。同じく普段から冷徹な看守の中田もさりげなく大二郎を監視している様子。脱獄した大二郎の行方を休みをとった中田は、恩赦で放免となった巽を誘い探します。大二郎の最後と殺人の経緯はあまりにも愚かで、そして尊いものでした。 河﨑さんの作品から北海道の歴史や自然を教えてもらっています。樺戸集治監の建物は、今は博物館となっているようなので覗いてみたいものです。

Posted byブクログ

2024/09/28

人間讃歌は『勇気』の讃歌ッ!! 人間のすばらしさは勇気のすばらしさ!! ・・・と叫ばずにはいられない。傑作でした! 明治初期(西暦1885年)。北海道の監獄に収監された男ふたりの物語。 彼らは絶望せず、人としての矜持を失わずにいられるのか?生きて、この地獄から出...

人間讃歌は『勇気』の讃歌ッ!! 人間のすばらしさは勇気のすばらしさ!! ・・・と叫ばずにはいられない。傑作でした! 明治初期(西暦1885年)。北海道の監獄に収監された男ふたりの物語。 彼らは絶望せず、人としての矜持を失わずにいられるのか?生きて、この地獄から出られる日は来るのか? 始めは『ショーシャンクの空に』的な、大脱走モノか?と思いながら読んでいた。 はたして物語の行く末は・・・? 序盤は、酷寒の「樺戸集治監」での過酷な労役と、主人公である瀬戸内巽(せとうち・たつみ)の人間的成長が描かれる。 彼は東京から送還された20歳そこそこの甘ちゃん坊やだったが、年上の大二郎と相棒となり、監獄の日々を耐え抜いていく。 前半の核は、巽と大二郎の関係性だ。 おしゃべり、ホラ吹き、剽軽な大二郎は、巽にとって心許せる相手となっていく。地獄を生き抜くのは一人では無理なのだ。 しかし、大二郎にはどこか人を煙に巻くようなところがあり・・・。 そんななか事件が起こり、彼らの文字通り「鎖で繋がれた関係」は終わりを迎える。 ここから物語は一気に面白さを増し、ある種ミステリー的展開へと進む! すべての真相が判明し、最後の一文まで読み終えたとき、あなたにも生きる勇気がきっと湧いてくるはず。 やるせなさと切なさを抱えていても、それでも前を向く、そんな勇気が。

Posted byブクログ

2024/09/22

元士族の巽は運悪く運動員で捕まり、過酷な北海道の監獄へ送られる。そこで大二郎と鎖で繋がれながら作業をする事になる。大二郎は不思議な石を夜な夜な眺めそれを看守の中田に見咎められるが、何故か中田は巽に抜けた歯と一緒に持っていろという。過酷な労働で死んで行く囚人達。それでも巽は生きてい...

元士族の巽は運悪く運動員で捕まり、過酷な北海道の監獄へ送られる。そこで大二郎と鎖で繋がれながら作業をする事になる。大二郎は不思議な石を夜な夜な眺めそれを看守の中田に見咎められるが、何故か中田は巽に抜けた歯と一緒に持っていろという。過酷な労働で死んで行く囚人達。それでも巽は生きていこうとする。

Posted byブクログ

2024/09/09
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

網走監獄博物館と弟子屈の硫黄山に行ったことがあるので物語の解像度がかなり高く脳内再生できた。集治監の過酷さは特にリアル。 物語冒頭から大二郎のキャラクタ的にやむにやまれぬ事情で罪を犯したのだろうなぁと思っていたので、ラストはあまりの救済のなさに切なくなった。1人の子どもが救われたと思えば良いのだけど… 根底にはとりあえず生きろ!と強いメッセージのある骨太なお話でした。 一つ不満を挙げるなら本の帯で200ページ分くらいがっつりネタバレしてるのはどうなの?って思ったことくらい。火事で脱走するシーンめちゃくちゃ後半じゃん…

Posted byブクログ