別れを告げない の商品レビュー
憑依体験に近い。 作者の想いを通じて痛みと傷とアイデンティティの苦しみを体験するような読書時間だった。 インソンの指の描写で私は試された。この痛みを受けて、先に待っているであろう更なる痛みを読み受けられるかと。しかし作者はキョンハを私に共に居させてくれた。 私は体験する。キョンハ...
憑依体験に近い。 作者の想いを通じて痛みと傷とアイデンティティの苦しみを体験するような読書時間だった。 インソンの指の描写で私は試された。この痛みを受けて、先に待っているであろう更なる痛みを読み受けられるかと。しかし作者はキョンハを私に共に居させてくれた。 私は体験する。キョンハになり、インソンになり時にインソンの母になり。強いられた沈黙の意味を考えよ、その中で生きた時間を味わえよと。 現実か夢なのか流動する時間が、雪、血、風、鳥、火で混ざっていくが混沌というより美しいのだ。読んでいいてこんなに苦しいのに何故こんなに震えるような美しみを感じるのか。キョンハの見た事を感じた事を忘れていけないと感じる。これが継承、語り継ぎなのだと思った。
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ノーベル文学賞はアジア初の女性作家、韓国のハンガンさんが受賞しました。そのネットニュースを見て早速アマゾンで買おうとしたら売切れ
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
あとがきより。「この小説でインソンが、やや教科書的ともいえるほどに事件の解説に努めているのは、ハン・ガン自身が、今の韓国社会で四・三事件への理解がいまだ十分ではないと考えていることを意味するのかもしれない。」 済州島四・三事件とは、戦後の朝鮮半島に米ソが進駐する中、南だけで単独選挙を行うことへの武装蜂起によるものである。
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1948年済州島四・三事件をモチーフとした話。作家には、済州島事件の犠牲者であり親族を探し続ける活動をしていた母を、帰省して介護のうえみとった友人がいて、長く会っていなかった。ふいにソウルで緊急入院中の友人から、入れ替わりで済州島の家で鳥の世話をしてほしいと向かった時は大雪で、大...
1948年済州島四・三事件をモチーフとした話。作家には、済州島事件の犠牲者であり親族を探し続ける活動をしていた母を、帰省して介護のうえみとった友人がいて、長く会っていなかった。ふいにソウルで緊急入院中の友人から、入れ替わりで済州島の家で鳥の世話をしてほしいと向かった時は大雪で、大変な思いで友人宅に着いたあと、現実なのか、夢なのか、ソウルで入院しているはずの友人を近くに感じ、友人が見聞きした多くの済州島犠牲者について語る話を疲れた体でこそ引き受けることができる。心身の痛み、寒さ、疲労と事件が相まって、知ろうとする苦しみを乗り越えれば何か見えるはずと読み進めた本でした。
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一日で読了。すばらしい。 降り続く大きな粒の真っ白い雪と白い鳥 2人の女性 済州島の四・三事件
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初見だけでは読み解けない深いテーマがあると思うけど図書館で借りた本のため、時間切れが惜しい!と思った作品。タイトルが秀逸。主人公も友人も、その父母もジェノサイドの悲劇を簡単に「別れ」で済まそうとはしていない。今度はそこをきち?と読み解きたい!
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済州島のジェノサイド4・3事件について全く知らなかったので驚きながら読みました.そして,主人公は友人インソンの母に繋がる4・3事件の爪痕に,伯父への想いの深さに圧倒されます.雪深いインソンの家で待つインコのアマ,病院にいるはずのインソン.幻想と幽霊か生き霊の混在する中蘇る愛が消え...
済州島のジェノサイド4・3事件について全く知らなかったので驚きながら読みました.そして,主人公は友人インソンの母に繋がる4・3事件の爪痕に,伯父への想いの深さに圧倒されます.雪深いインソンの家で待つインコのアマ,病院にいるはずのインソン.幻想と幽霊か生き霊の混在する中蘇る愛が消えかかるろうそくの光に浮かび上がります.何が確かで何が幻か,混沌とした雪の世界.
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ハン・ガンの小説は痛くて冷たい(心がではなく景色が)。その印象はこの本でも同じだった。 他人の痛みを感じることが、その人を心に刻むことなんだと。痛みを想像するのではない。自分も傷を負ったように、感じる。 作家のキョンハは友人で写真家・映像作家のインソンから呼び出しを受け、病院に向...
ハン・ガンの小説は痛くて冷たい(心がではなく景色が)。その印象はこの本でも同じだった。 他人の痛みを感じることが、その人を心に刻むことなんだと。痛みを想像するのではない。自分も傷を負ったように、感じる。 作家のキョンハは友人で写真家・映像作家のインソンから呼び出しを受け、病院に向かう。インソンはキョンハが以前話したイメージを実際に撮ろうとして木を加工している途中、誤って指を切り落としてしまったのだ。 しかし、インソンはそれで呼んだのではなく、家に残した小鳥が、このままでは入院中に死んでしまうから、家に行って小鳥に水をやって欲しいと言うのだった。 一人済州島の人里離れたインソンの家に向かうキョンハ。雪が降りしきる中、怪我をしながら冷え切って、やっとのことで辿り着く。 そこでキョンハは済州島で起きた事件とインソンの両親のことを知る。 真っ白で美しく、しかし音も人や物の姿も覆い尽くしてしまう雪。その中一人、助けもなく、持病の頭痛にみまわれながらどこにあるかも定かでない家に行こうとする。小さな命を救うためだけに。 小鳥がある日突然死んでしまう体験を私もしたことがある。小鳥だけでなく野生を残した動物は、具合が悪くてもそれを知られないように振る舞うのはこの本にも書いてある。本当はもっと前から具合が悪かったのに、私は気づかなかった。死んで初めて、自分がちゃんと見ていなかったことがわかった。死んだ小鳥の体がすごく軽いことも。生きてるときだって軽かったが、動いてるときは小鳥なりの力を感じていて軽さを感じていなかった。死んだ体を手に持つと、こんなに軽い生き物がどうやって生きていたのかとさえ思った。 そういう記憶の蓋が開いて、雪の中死にそうになりながらインソンの家に向かうキョンハはもう他人ではなかった。 朝鮮戦争についてや、その後の韓国の政情不安定については知識がないでもなかったが、戦後にたくさんの済州島の人たちが、赤ん坊でさえ殺されたということは恥ずかしながら全く知らなかった。(光州事件も知らなかった。) 済州島は日本に近く、手軽に行けるリゾート地というイメージしかなかったので、こんなひどいことが実際にあったのに知らないというのは犯罪に近いと思った。 沖縄をビーチリゾートを楽しむ島だと思っていて、琉球処分をはじめ沖縄の歴史や、戦中戦後(今も)いかに一般庶民がひどい目にあっているかを知らない、知ろうとしないのは犯罪だと思っていたが、お隣の国で起こったことを全く知らなかったのだから同罪である。 独自の言語があるところも沖縄と似ており、訳者の斎藤さんが済州語を島言葉にしてみようと考えたのは理解できる。 事件の流れやその後の扱いなどはあとがきに詳しい。このあとがきだけでも読む価値があるので、小説に興味がない人もこれは読んで欲しいと思う。 様々な戦禍と虐殺。これを私も忘れないようにしたい。 この本を読んだ後、図書館で韓国のガイドブックを何冊か見たが、済州島の古代史などは載っていても四・三事件に触れたものは一冊もなかった。 楽しみに行くんだから悲惨な歴史は知りたくないでしょうということなのだろうが、より深い旅をするために書くべきではと思う。
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様々なバランスが完璧だと思った。だから美しい。 光州事件と済州島四・三事件の虐殺という凄惨な内容であるのに美しい作品だと感じる。 あとがきで作者はこの作品を「究極の愛についての小説」と言っている。 読み終えると正にそうだと解る。 詩のような部分の分量と質、短い段落が生み出す効果...
様々なバランスが完璧だと思った。だから美しい。 光州事件と済州島四・三事件の虐殺という凄惨な内容であるのに美しい作品だと感じる。 あとがきで作者はこの作品を「究極の愛についての小説」と言っている。 読み終えると正にそうだと解る。 詩のような部分の分量と質、短い段落が生み出す効果、心情と景色の描写、語り口など、全てがうまく噛み合って、テーマを最大限に表現する効果を生み出している。 モチーフや言葉のイメージの繋がりや関連によって表現を広げていく。 書かれている内容は別のイメージも含んでいて、その積み重ねで物語がつくられる。 私の語彙力ではうまく伝えられないのだけど、絵画を観るのに似た感じ。そこにあるモチーフには意味があって、この色にはこういう意味があって、みたいな。 後半は「済州島四・三事件」についての記述。私は何も知らなかったので、とても興味深く読んだ。 前半の伏線回収的な、散りばめられていたイメージが繋がっていく。 生と死が混ざり合って溶けていく。 広大な空間にいる感覚になった。読んでいる時がちょうど精神状態が悪かったせいか、読みながら漂っている時間がとても心地良いと感じた。 訳者の腕が良いのだと思う。語り口調のトーンが作品に合っていて、効果的。 済州島は沖縄に似ていると思っていたら、訳者あとがきに済州島の言葉を訳す時に沖縄を参考にしたと書かれていた。正しく伝わるように翻訳することに時間を要したと。その気持ちと行為は作品にきちんと生かされている。
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『少年が来る』を読み、著者の背景を少なからず知った上で、覚悟をもって本書を手に取った。生と死の境い目があまりにも呆気なく、それなのに逞しく‥言葉にするのは難しいが、圧倒的な暴力や不条理に打ちのめされながらも、誰かに励まされるように読み続けることができたのは、それが“著者の夢の世界...
『少年が来る』を読み、著者の背景を少なからず知った上で、覚悟をもって本書を手に取った。生と死の境い目があまりにも呆気なく、それなのに逞しく‥言葉にするのは難しいが、圧倒的な暴力や不条理に打ちのめされながらも、誰かに励まされるように読み続けることができたのは、それが“著者の夢の世界”や“どこかの島の昔話”ではなく、現実の世界を生きる私たちの話なのだと、心の底から思えたから。生きることは辛いことなのかもしれないけれど、それでも。
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