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あの光 の商品レビュー

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21件のお客様レビュー

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2023/10/20

現代人は、日常的に生存そのものを脅かされることがおよそなくなった。一方で、自身の生に意味を与えようと「承認欲求」を日々増殖させている。 本作は、この厄介な「承認欲求」を鍵に、信じる側、信じさせる側双方の思いの相乗効果が作り上げた小さな虚構の王国の盛衰記である。 ハウスクリーニ...

現代人は、日常的に生存そのものを脅かされることがおよそなくなった。一方で、自身の生に意味を与えようと「承認欲求」を日々増殖させている。 本作は、この厄介な「承認欲求」を鍵に、信じる側、信じさせる側双方の思いの相乗効果が作り上げた小さな虚構の王国の盛衰記である。 ハウスクリーニング会社から独立をはたした主人公高岡紅は、ある日、汚部屋のクライアントから悩みの相談を受け、掃除と開運を結び付けたアドバイスをする。 それがたまたま功を奏したことから、彼女は、クライアントたちから奉られ、あれよあれよと新興宗教まがいのオンラインサロンの巫女に祭り上げられる。 しかし、嘘を重ねて固められた砂の城は、一部の信者の暴走であえなく崩壊する。廃墟の中から主人公が見つけた「あの光」とは何だったのか。 心に闇を抱える登場人物たちの移ろいゆく心理や、一度、流れができると教祖すら神輿につかまり続け、偽りを演じ続けざるを得ない集団心理の恐ろしさを巧みな描写し、クライマックスに向けて、息もつかせぬドラマ展開を見せる筆致は、まさに見事の一言に尽きる。 300ページを超える大作だが、ページをめくる手を全く止めさせない。 私たちは、スマホと対峙しながら、主体的に情報を取得しているつもりだが、実はいつの間にか秒刻みで与えられる情報の洪水に翻弄され、考えることを放棄させられている。 本作は、誰かが道を示し、手を引いて、心の空白を満たしてくれることを待ち望みながら立ちすくむだけで、自分で歩く力を失いがちな私たちの鏡に映された本当の姿をまざまざと見せてくれると感じた。

Posted byブクログ