新古事記 の商品レビュー
作者は、「新古事記」というタイトルを付けたことによって、絶望の度合いを和らげる、といった趣旨のコメントをしているらしい。 確かにキリスト教では、人は絶対的に正しい唯一神が作りたもうたもの。じゃあ、絶対正しい神が人間を作ったなら、なぜ原爆なんて起きたんだろうか。そんなに正しくて素晴...
作者は、「新古事記」というタイトルを付けたことによって、絶望の度合いを和らげる、といった趣旨のコメントをしているらしい。 確かにキリスト教では、人は絶対的に正しい唯一神が作りたもうたもの。じゃあ、絶対正しい神が人間を作ったなら、なぜ原爆なんて起きたんだろうか。そんなに正しくて素晴らしい神なのに、人間の愚かさを予見できなかったのか?神に対する絶望があるのだろうと思う。 一方で日本の神々は、間違う存在、弱い、脆い存在として描かれている。 絶対的に正しい神がこの世を作り、その中で人間が過ちを犯したと考えるよりも、情けない人間くさい神々がこの世を作ったから、過ちが起こることもあると考えた方が、絶望の度合いは和らぐ気がするよなぁと。 あと、この物語で1番宗教とか神だとかについてよく考えているのはベンジャミンだったと思う。分かりやすいのは3つの太陽を見た時。プエブロの人々や妻たちは、3つの太陽を神話で理由付けして理解する。ベンジャミンはそれを気に入らない。「僕たちはこの世の真理を知りたいんだ、宗教ではそれを神とかいうようだけど、僕らはそんな曖昧な捉え方はしない」的なことを言っている。ベンジャミンは不可解な現象を宗教で理解することを嫌い、科学で忠実に理解しようとしているのである。つまり、科学は、神が作ったこの世界の秩序を、解明し説明する学問とも言えるのだ。(パスカルやスピノザなど、科学と宗教の両立をこのように説明する哲学者は多い)宗教と科学は、不可解に満ちたこの世の現象を説明する手段であるという点では同じと考えられるのである。だからこそ、アデラは「宗教は感受性よ」ベンジャミン「物理学も感受性の学問だ」という会話が出てくるのだろうと思う。 この本を読んだ時に、科学者たちは最初から神を不必要なものとして、宗教を捨てて突き進み、自分たちを新たな神にしようと試みたのだ、そこに人間の傲慢さがあるのだ、とまとめる人もいるかもしれない。ただ私はその逆の可能性の方が恐ろしいと思う。つまり、科学者たちは神を退けたのではなく、むしろ神が創りたもうたこの世界を完璧に理解しようとしすぎたのである。その結果として、神に近い力を手に入れてしまい、大きな過ちを犯すことになるのではないか。
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映画オッペンハイマーは鑑賞していました。そのプロジェクトに関わった研究者の家族が日本にルーツを持つ女性だったことと、日本の神話や歴史書である古事記との繋がりが分からず仕舞い。伏線回収が出来なかった私は読みが浅い。
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「新古事記」(村田喜代子)を読んだ。 村田喜代子さんよくぞこのタイトルを見つけてくれました。 見事だよ。 オッペンハイマー所長を中心に研究◦開発を続ける所員たちは自分たちが手がけているその対象物ゆえにか強度のストレスを抱え、そして何も知らされていない妻たち(とペットの犬たち)...
「新古事記」(村田喜代子)を読んだ。 村田喜代子さんよくぞこのタイトルを見つけてくれました。 見事だよ。 オッペンハイマー所長を中心に研究◦開発を続ける所員たちは自分たちが手がけているその対象物ゆえにか強度のストレスを抱え、そして何も知らされていない妻たち(とペットの犬たち)はそのストレスを一身に受け止めながらも凪いだ日常を送る。 そんな妻の一人日系三世アデラの祖母のノートには海を渡ってきた祖父の国の創世神話が記されていた。 神ならぬヒトの手によって産み出された新たな火によってもう一度泥濘の中から新しい世界を創世する顛末はまさに新古事記なのだ。 凄まじき業火を産んだロスアラモスという隔絶された施設の特殊な静寂さを時にユーモアさえ交えながら淡々と描くその乾いた文体が印象的だな。 これは全ての人にお勧めできる名著だと思う。
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一編の手記からこれほどの小説にまで仕立てあげてしまう手腕が半端ない。 まるで現場をリアルタイムで見てきたような描写と想像力。 恐れ入りました。
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神々とか、人為とか、自然とか、科学とか、いろいろ考えさせられる。なぜ原爆は開発され、使用されたのか。そのアポリアを、開発の現場にいる核物理学者の奥さまや愛犬たちの日常から透かし見る。日系の血筋を意識する主人公アデラや先住民のアーイダから見る世界観も心惹かれる。
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翻訳本かと思った。 文体も、原爆に対する解釈も。 戦争を知らない若い人の作品かとも思った。 仕事柄、被爆したおばあさんからお話を聞かせてもらっているので、なんだかおとぎ話を読んでるような、やりきれない気持ちになりました。
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ロス・アラモスはアメリカの原爆開発の舞台となった地である。マンハッタン計画に基づき、高台のこの地に研究所が築かれた。それだけでなく、ここには科学者らの家族も住むこととなり、街が作られた。 研究の性質からして、機密は守られなけらばならず、人の出入りも厳しく管理された。 一風変わった...
ロス・アラモスはアメリカの原爆開発の舞台となった地である。マンハッタン計画に基づき、高台のこの地に研究所が築かれた。それだけでなく、ここには科学者らの家族も住むこととなり、街が作られた。 研究の性質からして、機密は守られなけらばならず、人の出入りも厳しく管理された。 一風変わった、閉ざされたこの街で、科学者たちは研究に励みつつ、一方で家庭生活も楽しんだ。若い研究者らが多かったから、彼らの多くは子供をもうけた。 夫たちが作ろうとしているものが何なのか、妻たちは詳しくは知らなかった。それよりも日々の生活を回すだけで精いっぱいだった。 子供が生まれ、犬が駆け回り、普通の営みが行われている中心で、行われているのは大規模殺戮兵器の開発だったのだが。 主人公のアデラは、恋人・ベンジャミンとともに、カリフォルニアからロス・アラモスの「Y地」へやってくる。アデラは見た目は白人だが日本人の血を引いており、真珠湾以後、日系人への風当たりの強さをひしひしと感じているところだった。ベンジャミンについていくことはよいアイディアに思われたのだ。 Y地は台地の上にあり、大きな町からは離れた、奇妙に閉じられた場所だった。 アデラはベンジャミンとまだ結婚していなかったため、Y地の中へは入れず、塀にへばりつくように建っている動物病院の看護助手として働くことになった。 アデラがお守りのように持っているのは、おばあさんからもらったノート。そこにはおじいさんの国の文字やお話が綴られていた。実のところ、アデラはおじいさんの顔も知らず、おじいさんが米国に帰化した経緯も真偽が判然としないものだった。だが、おばあさんが綴った日本の漢字や神話は不思議にアデラの心を捉えた。 Y地にはユダヤ系研究者家族も多く、信心深い妻たちの中にはシナゴーグが必要と考える者もいた。実際、それは作られたのだが、神職を引き受ける男性はおらず、妻たちの1人が仮のラビとなった。 Y地につく郵便物はすべて、「私書箱1663号」に集められる。麓の人々はY地で何が行われているのかも知らず、膨大な郵便物が届く私書箱を奇異に思っている。 犬も人も次々に妊娠し、新しい命が生まれた。恋人たちは一組、また一組と結婚し、ベンとアデラも結婚することになった。 ユダヤ教徒が読む旧約聖書では、神が最初に現れた。おばあさんが残したノートの中の日本の神様は天地とともに現れた。 できたての国は 土と思えないほど柔らかで スープ皿に浮かんだ 鹿肉の脂身のように 海のクラゲのように ゆらゆら漂っていた プエブロ族の娘がY地に働きに来ていた。彼らの部族には蓄財観念がなく、畑を耕して働いては、日々、自然にお祈りしていた。 アデラが曇りのない目で見つめるY地の日々。 一方で、研究は着々と進んでいた。 本書のインスピレーションの元になっているのは、「ロスアラモスからヒロシマへ」という1冊の本である。科学者の夫とともにロスアラモスで2年間暮らした女性の手記だ。女性は戦後、広島を訪れて、アメリカ人女性として、「人間の人間に対する非道」を忘れまいと誓ったという。 この女性はユダヤ系であったが、著者はここに日系三世の女性の視点を入れ込んだ。 原爆開発国であり、同時に移民の国でもあるアメリカ。 神にも匹敵しうるような技術を手に入れ、そしてそれを行使するとはどういうことだろうか。 物語の記述の大半は、穏やかな「日常」なのだが、その背後にある結果の大きさに言葉を失う。 物語の最終章は「新しい世界は神じゃなく、人の子がつくるのだ」と題される。 ニューメキシコの大地の草の海を、人の子と犬が駆け回る。大地を焼き尽すかもしれない業火を手に入れた今、「新しい世界は神じゃなくて人の子がつくる」。 神なき世界で行われる人間の人間に対する非道を、本当に人は背負いきれるのだろうか。
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特殊な空間の物語 戦争中でも一見平和な日常 時々不審な流れがあっても 過ぎれば忘却... 深く考えるのを避けて... なんとも不気味な感じ 心にざらりとした感触を残す 庭文庫にて購入
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淡々と進む不思議な魅力の小説。原爆開発の機密都市での研究者の妻たちのドラマを描く。 「ロスアラモスからヒロシマへ」という一科学者の妻の手記が原案の小説。ニューメキシコの荒涼とした土地に隔離された研究者とその家族だけが暮らす町での出来事が淡々と描かれる。 題名に古事記を入れたと...
淡々と進む不思議な魅力の小説。原爆開発の機密都市での研究者の妻たちのドラマを描く。 「ロスアラモスからヒロシマへ」という一科学者の妻の手記が原案の小説。ニューメキシコの荒涼とした土地に隔離された研究者とその家族だけが暮らす町での出来事が淡々と描かれる。 題名に古事記を入れたところは、天地創造と圧倒的に破壊力を手にした人類との対比か。 「われは死なり世界の破壊者となれり」オッペンハイマー博士が語ったヒンズー聖典の一行が印象に残る。
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今年の目標は読んだ本はすぐに評価する!これをしないと読み終えた感動や憤りが忘れられて文章化できなくなるw さて 古事記を読んだことがない。というか、昔の表記が苦手でこの本は現代語訳化されたほんとばかしに勘違いして読んだのである。で、なんだこれは?オッペンハイマーが出てきた瞬間から...
今年の目標は読んだ本はすぐに評価する!これをしないと読み終えた感動や憤りが忘れられて文章化できなくなるw さて 古事記を読んだことがない。というか、昔の表記が苦手でこの本は現代語訳化されたほんとばかしに勘違いして読んだのである。で、なんだこれは?オッペンハイマーが出てきた瞬間から全然思っていたのと違うとばかりに頭が拒絶反応を起こし、冒頭はまったく内容が頭に入らず後悔しかなかったが、読み進めていくうちに(決して途中放棄しないのがモットー)、Y地で原子力爆弾の開発チームが活動しており、その研究者の恋人が診療所に預けられる犬の世話をする隠れみの日系三世の女性の物語という筋書きに納得し、もう”古事記”というつながりは捨てて、その女性の物語として読むとまぁ、悪くない(笑 シリアスなんだか日和見なんだかよくわからない雰囲気の中、研究者の恋人が開発が完成に向かうにつれて塞ぎ込み、Y地全体が異様なムードに圧され、そして実弾実験での脅威、日本への投下と戦争小説とはまた違った視点での物語はそれなりに読めた、が、現実味もなく切迫した感もなく、気の抜けたサイダーを飲み続けたような読書感で終わった
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