検証 ナチスは「良いこと」もしたのか? の商品レビュー
ナチスの主要な政策について要点がコンパクトにまとめて述べられているので一般読者にとってとても親切な内容。 本書の問題意識について幅広い読者層へ間口を拡げたことは「岩波ブックレット」の一冊にふさわしい。 第五章の最後の節に、ナチスの社会政策(軍需・戦時経済)の失態が分かりやすくま...
ナチスの主要な政策について要点がコンパクトにまとめて述べられているので一般読者にとってとても親切な内容。 本書の問題意識について幅広い読者層へ間口を拡げたことは「岩波ブックレット」の一冊にふさわしい。 第五章の最後の節に、ナチスの社会政策(軍需・戦時経済)の失態が分かりやすくまとめてあり、「良いこともしたのか?」への研究者としての真摯な回答だと思う。 が、それにつづく第六、七、八章は特に、読み方を気をつけたほうがよい。 各章前半の〈事実〉部分はまとめ資料として整理されているのでしっかりと目を通し、後半「その妥当性について検討していこう」から後の部分は、「良いことは皆無だ」論を執拗にこじつけているきらいがあるので斜め読みでもよい。 「ナチスは良いこともした」論に反論するために、 政権・政党の評価(善悪)と政策の評価(有効性)を無理やり合一化させて述べようとしている。 つまり、知見不足の一般市民がやりがちな「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」論を「専門の研究者」が著している。アカデミズムの威を借りた横暴だ。 多角的な視点を導入すべき人文社会学において、そもそも「ナチスは良いこともした」論を非常に限定的な視点でしか捉えられていない著者に対して、学術研究者としての危惧を感じる。 「ナチスは良いこともした」論の隆盛は、狭隘で権威主義的なアカデミズムが生み出した反動であることを認識してほしい。
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本書の内容でタイトルを付けるのであれば、ナチスは「良いこと」をしたのか?にするべきである。 「良いことも」もいうタイトルであるならば、ナチスが行った悪行は別で論じるべきであり、同列で語れば衝撃の大きい方に結論が傾くのは目に見えている。 ナチスが世界史に残るような「差別」や「犯罪...
本書の内容でタイトルを付けるのであれば、ナチスは「良いこと」をしたのか?にするべきである。 「良いことも」もいうタイトルであるならば、ナチスが行った悪行は別で論じるべきであり、同列で語れば衝撃の大きい方に結論が傾くのは目に見えている。 ナチスが世界史に残るような「差別」や「犯罪」を国主導で行ったことは周知の事実であるし、それを差し置いてでも良いことを行ったかという検証を描いて欲しかった。 本書では常に「良いこと」の判断基準にオリジナリティを置いているが、これは納得出来ない。 例えば、最近の流行り物や活動に対して「あれはオリジナリティがないから良くないね」なんて評価は適切だと思いますか? 更には、施策の意図が戦争に直結することや排他性があることなどを理由に「良いこと」ではないと結論づけている点が多々あるが、当時の政治をこの基準に当てはめた時に、1つでも「良い」と評価できる施策を行った国や政党があるのか甚だ疑わしい。 要は「ナチスは悪」という結論ありきのストーリーになっている。 また、終わりにで述べられている、「ナチスは良いこともした」という意見を持った人々に対する作者の論法は、自分たちの研究結果に反対する人には頑なに耳を貸さないという傲慢さが溢れ出ているように感じた。
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育休、アウトバーン、環境保護… ナチスを絶対悪とする論調に反発するように取り沙汰される各種政策を批判的に検証。先進的に見える施策も数々の犠牲と差別の上に成り立っていた事が分かります。ブックレットながら非常に読み応えある好著。おすすめです。
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近頃インターネット上で「ナチスは良いこともした」と主張したがる人が増えているとか....あまり知識のない自分はこの本でアウトバーンの建設、フォルクスワーゲンの開発、歓喜旅行団の事業 、失業対策のことなど知りました。日本は女性の地位が低いと言われていますがヨーロッパ諸国でもつい最近...
近頃インターネット上で「ナチスは良いこともした」と主張したがる人が増えているとか....あまり知識のない自分はこの本でアウトバーンの建設、フォルクスワーゲンの開発、歓喜旅行団の事業 、失業対策のことなど知りました。日本は女性の地位が低いと言われていますがヨーロッパ諸国でもつい最近まで日本と何ら変わりなかったことも知りました。男性だけでは人類は成り立たないのに何故こんな状態が出てきたのだろう。いつも思うのだが大衆も自分たちの疑問に思うことを大いに話すことが独裁を止められるのではないかと思う。しかしそれには確固とした自分を持っていないとね。
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通読して全編エキサイティングかというとそうではないが、toxic な現代SNS史学トークにおける vaccine として配布されたものとしては有り難く接種させてもらった。特にアウトバーン政策の評価を軽く流した直後に「国際社会から見えないように発行し続けた疑似国債が1938年までに...
通読して全編エキサイティングかというとそうではないが、toxic な現代SNS史学トークにおける vaccine として配布されたものとしては有り難く接種させてもらった。特にアウトバーン政策の評価を軽く流した直後に「国際社会から見えないように発行し続けた疑似国債が1938年までに国家支出の61% かつ国民所得の21%」(小野寺・田野 2023:49下段)とあり、空いた口が塞がらなかった。ポーランド侵入に至るまでナチス政権が東西欧州に対して好戦的(=襲いかかる意志あり)だったことはある程度理解していたつもりだったが、政権奪取前後からそんなむこうみずな錬金術を使っているということは、もはや“後で人を襲って収奪する”ことしか念頭に無かったと言っても間違いではないレベルで、末恐ろしくなった。実際本書の後半でも、デートレフ・ポイカート『ナチスドイツ: ある近代の社会史』を引きながら「ドイツ人は最初は借金で生活し、次には他人の勘定で暮らした」と、「ならず者国家」のならず者性がどこにあるかを的確に要約してみせている。
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施策はオリジナルではないし、戦争目的や人種差別的な意図で実施され、結局戦争で徹底しきれなかったからダメ、みたいな
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ナチスの行いを全否定する事が目的の本。 否定するため選ばれた定義で「良い」を否定している。 例えば「アウトバーン」。日本車の走行性能がドイツ車に追いついた(LS登場以前は惨憺たるものだった。私もドイツ車所有だが未だ追いついていないと思っている)のは近年ではないだろうか。 世界最高...
ナチスの行いを全否定する事が目的の本。 否定するため選ばれた定義で「良い」を否定している。 例えば「アウトバーン」。日本車の走行性能がドイツ車に追いついた(LS登場以前は惨憺たるものだった。私もドイツ車所有だが未だ追いついていないと思っている)のは近年ではないだろうか。 世界最高の車を作り続けたのはそれを活かせる環境があってこそだし、ヤナセの雑誌に寄稿したドイツ人もそう書いている。日本車は150km/hも出すと殆どドイツ車に燃費で勝てないのではないか。世界で売っているのに。 出来上がったもののよしあしではなく、最初に考えたのがナチじゃないからとか、それによって労働者に仕事が行かなかったから悪だって? 例えば100年近く大きな戦争のない「冷戦」は核兵器によりもたらされた、だから核兵器は平和をもたらしたから善の側面もある、この意見に賛否はあろうが筆者は否定するための前提条件により悪と決めつける。そんな話だ。 オリジナルでなかったら認めないとか。アップルが「再発明」して大成功している世の中に居てなにを言っているのか。歴史学者は独自解釈がお好きな様だ。 なんかソ連や中国の核はきれいな核を彷彿とさせる一方的な左翼的展開。 P20:右翼ポピュリズム云々とか、この定義に基づいて他国の政策についても同様に自民族中心主義や覇権主義的目的等で「良いこと」でないことを同様に 示せるだろうから判定機として機能しないな。 P96 ただしそのことは、現在に生きる私たちがこれを「良いこと」と評価してするかどうかとはまったく別の問題である。とか、お前ら尺度がおかしくね?と言いたくなる事が多すぎ。 全てを否定するなんて、悪魔の証明である。 それを実現するために「条件」をつけた。それは全否定するための条件である。 こんな本は読むに値しない。
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歴史知識と歴史意識を分けて考えることの重要さ。かどな反ポリコレは歴史意識にたいして過剰な自己喚起的フィルターをかけてしまう…だからといってポリコレに迎合するのでもなく冷静に物事を見極める力をつけるためには本書のような分かりやすく手軽な研究書が有用なのではと思う。 引き続きこのシリ...
歴史知識と歴史意識を分けて考えることの重要さ。かどな反ポリコレは歴史意識にたいして過剰な自己喚起的フィルターをかけてしまう…だからといってポリコレに迎合するのでもなく冷静に物事を見極める力をつけるためには本書のような分かりやすく手軽な研究書が有用なのではと思う。 引き続きこのシリーズ読んでみようかなぁ。
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そうですよねという結論に落ち着いて安心したけど。 専門家が「いちいち火消しするほどのものではないだろう」と沈黙していると、偽書や江戸しぐさや似非科学や最近では土偶の“新”解釈のような、専門家ではない人による言説がネットで一気に拡散して賛同者を得てしまうから、怖いな。 中二病的な歴...
そうですよねという結論に落ち着いて安心したけど。 専門家が「いちいち火消しするほどのものではないだろう」と沈黙していると、偽書や江戸しぐさや似非科学や最近では土偶の“新”解釈のような、専門家ではない人による言説がネットで一気に拡散して賛同者を得てしまうから、怖いな。 中二病的な歴史修正主義者が次々わいてくるのを見るにつけ、日本人の知性が低下してきているのかなぁと心配になる。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
巷にはナチスやヒトラーを擁護・支持し、他の戦争犯罪や政治的弾圧・暴力を相対化せんとする主張がかなり蔓延っている。本書ではそのような主張を妄言と即座に否定せず、ナチズムやナチ体制下の各種政策について一つずつ検証を行っている。 本書にて何より興味深い箇所は、「はじめに」で述べられる歴史学における姿勢--<事実><解釈><意見>の三層に分けて検討することである。筆者によると歴史学では<事実>レヴェルで片付けられる問題は少なく、2番目の<解釈>の層が最重要であるという。たとえ<事実>としては素晴らしく映る事象でも、歴史研究が積み重ねてきた厖大な知見=<解釈>を経て<意見>に辿り着かなければ、全体像や文脈が見えぬまま誤った判断を下すおそれがある。この歴史的事実を扱う際の姿勢はどのような問題においても当て嵌まるであろうし、今後も決して忘れるべきではないだろう。本書はナチス/ヒトラー研究の分野としても歴史学の分野としても適切な入門書と言える。
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