我が手の太陽 の商品レビュー
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いつも通りに大丈夫だと思っていたものがフェールする。その恐怖は計り知れないものであり、かつそれは、我々読者が伊東の主観を次第に信じられなくなってゆく視点と調和し、圧倒的な描き方であると感じた。伊東の仕事に対するプライドは、自らの技量に疑念が募るとともに尊大さへと変わってゆき、それは安全を疎かにする態度に表れる。「汚い手で触るな」と検査官から言われるラストシーンは、手の中で太陽を扱うという事実に酔いしれ、火への畏怖を忘れた伊東に対する、火からの拒絶に見えるのだ。
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溶接工を描いた小説という事で興味をもって読んだ。読む前にネットで調べると、ハンダづけとアーク溶接の区別がされていないような解説があり、若干、技術的な正確性に不安のある話かと思ったが、全くの誤解。技術的に正確などころか、所謂、現場や職人の姿が極めてリアルに描かれている。そして、「手...
溶接工を描いた小説という事で興味をもって読んだ。読む前にネットで調べると、ハンダづけとアーク溶接の区別がされていないような解説があり、若干、技術的な正確性に不安のある話かと思ったが、全くの誤解。技術的に正確などころか、所謂、現場や職人の姿が極めてリアルに描かれている。そして、「手に職」をもって生きる「職人の手」をモチーフとしたメタファーが、このハンダから始まっているのだと小説の技巧にも舌を巻く。 あるある話で言うと、やはり現場は安全第一と言いながら、そこを管理する人間によって、消耗品の交換タイミングがいい加減だったり、安全帯の使い方も目が行き届いていなかったりする。八重洲ビルの事故みたいな問題が、昨年も起きている。それと、職人同士の会話だ。よく分からないが自信満々の誤った論説、というのがある。彼らの論理、仲間うちの論理である。 そうした人間模様、検査官、親方との関係性、よく書けているなーと思った。現場で働く人は、これを読んで安全について考え、職人の悩みに触れておくのも良いかも知れない。
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挫折知らずだった職人肌を襲う衰え・不調。その自らを追い詰め、追い詰められていく様が恐ろしい。溶接作業や現場仕事のディテール描写にも痺れる。
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溶接工の技術や知識は皆無でしかも終始職人技の話と主人公のプライドと慢心などの心の葛藤で進んでいくがどうして今まで出来ていた事がある日突然に出来なくなったのか、しかも溶接工から外されてからの他人を見下すような態度を取るようになったのか先に先にと読まずにはいられなくなってしまい中断せず、中断できずに読み終わる。 読書熱が無くなったと嘆いていたのがウソのような食いつきにびっくり。
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⚫︎感想(※ネタバレ) 何度か出てくるこの表現に注目した。 「自分が仕事で相手にするものは、そのまま自分のことだ。それは自分の力量で、自分の職能で、自分の価値のことだ。」 ベテラン溶接工、伊東。40歳。仕事に対するプライド、スランプ。その原因は何なのか。年齢か、職業病か、奢りか、見て見ぬふりをしている不安か。「検査員」がやってきて、伊東の不手際を忠告しにくる。「検査員」は無意識の自分自身であり、また同時に自分であるということは、上記の記述から、自分が仕事で相手にするものである鉄鋼をも意味しているのではないか。 師匠である牧野の手は「思いのほか冷たく、ショックを受けた」のは、牧野が太陽を手放したのだと感じたからではないか。 「検査員」の手は熱く、硬かった。 最後に冷たく柔らかい自分の手が残った。「検査員」であり、自分の仕事相手である鋼鉄が持っていってしまったものは、かつては熱さを扱えた、我が手の太陽だったのか。しかも硬くなく、柔らかいのだ。弱いのだ。 誰しも第一線での活躍が死ぬまで続くわけはない。いつかはそれぞれが、誇りを持つ何かを手放していかなくてはならない。現実を受け入れるとは、そういうことなのだ。 石田夏穂さんの作品、3冊目となった。共通して最後まで読ませる推進力につきる。こちらはユーモアはなく、「我が友、スミス」「黄金比に縁」にくらべて純文学色が濃く感じた。 ⚫︎あらすじ(本概要より転載)第169回芥川賞候補作。 鉄鋼を溶かす高温の火を扱う溶接作業はどの工事現場でも花形的存在。その中でも腕利きの伊東は自他ともに認める熟達した溶接工だ。そんな伊東が突然、スランプに陥った。日に日に失われる職能と自負。野球などプロスポーツ選手が陥るのと同じ、失った自信は訓練や練習では取り戻すことはできない。現場仕事をこなしたい、そんな思いに駆られ、伊東は……。 “「人の上に立つ」ことにまるで関心がなかった。 自分の手を実際に動かさないのなら、それは仕事ではなかった。” ”お前が一番、火を舐めてるんだよ” ”お前は自分の仕事を馬鹿にされるのを嫌う。 お前自身が、誰より馬鹿にしているというのに” 腕利きの溶接工が陥った突然のスランプ。 いま文学界が最も注目する才能が放つ異色の職人小説。
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熟練の溶接工が陥ったのはスランプ? それとも……。 ぼくはガテン系(死語?)の職場で働いたことはないので、やたら専門用語を駆使して書かれた現場のリアルさはイマイチわからない。ただ、臨場感はある。そして仕事に対する矜持は普遍のものだと思う。 初読みの石田さん。硬質な文体と“職人”と...
熟練の溶接工が陥ったのはスランプ? それとも……。 ぼくはガテン系(死語?)の職場で働いたことはないので、やたら専門用語を駆使して書かれた現場のリアルさはイマイチわからない。ただ、臨場感はある。そして仕事に対する矜持は普遍のものだと思う。 初読みの石田さん。硬質な文体と“職人”と呼ぶにふさわしい主人公の描写はマッチしていたけれど、作者が言いたいことが理解できたとは言い難い。検査員って現実の存在? 暗喩? 妄想? 最後の一文の意味は? もやもやする作品だった。
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腕利きの溶接工が陥いるメンタリティの落とし穴が触れられそうなほど克明に描かれていて、その手触りに慄く。 ヒヤリ、ハットどころじゃないドキドキ。 人がしくじる過程。 シリアスに徹した石田さんも凄いな...。 ある程度の馴染みがあるからかも知れんけど、唯一無二の小説だとすら思えた。 ...
腕利きの溶接工が陥いるメンタリティの落とし穴が触れられそうなほど克明に描かれていて、その手触りに慄く。 ヒヤリ、ハットどころじゃないドキドキ。 人がしくじる過程。 シリアスに徹した石田さんも凄いな...。 ある程度の馴染みがあるからかも知れんけど、唯一無二の小説だとすら思えた。 工事現場の花形と自負していながらも、健康を犠牲にし、いつかは退かなければならないという伊東の葛藤。 職人の孤高、自分から作り出す孤立、エネルギーがいつまでも留まらないのと同じように自分からも失われ続けるもの。 なぜ人は老い、壊れていくのか。見ていて辛かった。 そんでこの描かれている慢心は、工事作業者としても、そうじゃない人間としても、誰もが心当たりのあるものじゃないかなと。 アーク溶接、昔にやる機会もいくらかあったけど、これから溶接する箇所すら見えない暗闇の中で少しのズレも許されない、慎重さで手を止めることすら許されない、微かなスパークだけを頼りに綺麗な線を引いていくこと、神技としか思えなかったな...。
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話の筋はいわゆる転落系。に加え、石田さん得意のニッチな設定をかけあわせたもの。衝撃のラストは比喩表現、か。 なかなか頭に入りづらいマニアックな用語など、細かな説明がとにかく多く、そのためリアリティはとてもあるが、一方、物語というより、説明書を読んでいるかのようであった。ニッチな業...
話の筋はいわゆる転落系。に加え、石田さん得意のニッチな設定をかけあわせたもの。衝撃のラストは比喩表現、か。 なかなか頭に入りづらいマニアックな用語など、細かな説明がとにかく多く、そのためリアリティはとてもあるが、一方、物語というより、説明書を読んでいるかのようであった。ニッチな業界故にそれらはもちろん必要であろうが、それがマイナスに働いたところが多く、また、ユーモアさ欠いた本作は、石田さんらしさも半減したように感じる。 同じような作品を産み続ける作家さんがいる中で、チャレンジする姿勢は素晴らしいが、評価としては、過去作を超えているものではないかな、と。 ★3.2
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「我が友、スミス」の人とかだったのかと後から知った。「我が〜」シリーズになったら面白いな。 これは溶接工のお話だった。 冒頭の簡易ラジオ基盤作業のところで3人のレンガ職人の話を思い出した。あの話が導こうとする「作業の全体像を掴んで目的意識を持って働いている人は、ただ作業をしている人よりも素晴らしい」的な主張に、うまく言語化できない違和感があったんだけど、読んでいてそれがちょっとだけクリアになった。 作業だけに集中することができる爽快感や、余計な意識を捨て去って自分の手の感覚やガスの色、鉄の変化に向き合うことでのみ到達できる研ぎ澄まされた瞬間の虜となれる幸せは大きいだろうなあ。 「3人のレンガ職人」に納得しきれなかったのは、そういう職人としての美しさを否定されているように感じてしまっていたから。 わたしはその美しさを知らないから、それが絶たれようとしている最中の主人公の焦燥感にそこまで共感できなかったけれど、こうなっちゃったら誰も説得はできないんだろうな、というのはちょっと感じた。
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溶接工の話。 知らない言葉が多く状況がわかりにくいところがあったが主人公の心境はものすごくわかる。 自分の技術や体の衰えなどの日々の葛藤。なかなか他人には理解してもらえない苦労が伝わってくる作品。
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