輝石の空 の商品レビュー
第1作は2020年刊行だから、4年かけてようやく3部作読み終えた!(刊行に9年かかった『レッド・マーズ』3部作よりずっとイイが) ジャファに狂ったように依存していくナッスン、娘を探すためなら他人も自分の体も利用するエッスンふたりが、ついに太古文明に行き当たり、錆び現世を滅ぼすのか...
第1作は2020年刊行だから、4年かけてようやく3部作読み終えた!(刊行に9年かかった『レッド・マーズ』3部作よりずっとイイが) ジャファに狂ったように依存していくナッスン、娘を探すためなら他人も自分の体も利用するエッスンふたりが、ついに太古文明に行き当たり、錆び現世を滅ぼすのかあああ!? というのが、終末世界のリアリティ豊かに描かれて、各キャラにもだいぶ感情移入してて、ひたすらワクドキで没入しました。 エンタメとしても文明批評としても非常に質が高く、この作家はこれからも注目したい。
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『第五の季節』三部作の最終巻。 本作を「差別問題に向き合った」と表現するとしっくりこない。 「差別する」という日本語はどことなく受動的な印象を受ける。「元からそこにある差によって扱いをわけている」といったニュアンスを感じる。 しかし”差”はつねに「差別」の過程のなかで新たに生産...
『第五の季節』三部作の最終巻。 本作を「差別問題に向き合った」と表現するとしっくりこない。 「差別する」という日本語はどことなく受動的な印象を受ける。「元からそこにある差によって扱いをわけている」といったニュアンスを感じる。 しかし”差”はつねに「差別」の過程のなかで新たに生産されている。 直接的ではないが、本作の中でも繰り返しそのことが強調されている。 オロジェンが最初から差別されるべき対象だったわけではない。権力が、過去に遡って彼らが差別されるべき系譜として、歴史を読み変えたのだ。 「差別」は、権力によって一方的に生成され押し付けられるより根源的な意味での暴力だ。 本作でも「差別」という言葉は用いられず、「ジェノサイド」と呼ばれる。 民族浄化。 そしてこれはホアが直接言及しているが、ジェノサイドとは単純に虐殺のことを示すのではない。 人間が、人間として扱われなくなること。 人間としての権利の抹消が、ジェノサイドの根幹部分に存在している。 本作は、母と娘といったミクロな関係から、地球と人類というマクロな関係までを織り上げながら、ジェノサイドにいかに向き合っていくことができるかを描こうとする。 ジェノサイドに対して取りうる態度には、二律背反性がつねに入り込んでくる。 人として与えられるべき当然の尊厳を奪われたものが抱く当然の権利としての怒りや抗議、破壊行動。 一方で破壊行動に対する要請には必ず自分や同胞の誰かの尊厳や人生が充分に尊重されねばならないという祈りや愛がある。 人は、怒ることによって祈ることがある。 一見両立しないこの怒りと愛が実際はコインの裏表のような関係であることを本作は描き出している。 本作の特徴である「二人称の語り」。 作者はあとがきで「色々な人称を試してこれが一番しっくりきた」と話している。 二人称は、相手に話しかける文体であると同時に、相手の気持ちを誰何し、しかし想像ではなく事実として記述する文体であるといえる。 したがって、二人称はつねに他者志向的であるし、同時に他者を外部から決定してしまうという根源的な暴力の側面を持っている。 そしてそのような暴力性は、しかし、それがどのような意図でどのように語られるかによって、相手に対する慈しみとして立ち現れる。 二人称は、暴力性を持ちながらも他者への愛であることができる。
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いやー、驚きの連続。 SFとファンタジーが混ざったような、手強い内容だった。 とても満足な三部作だった
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(オベリスクの門 のレヴューからの続き) 読み終わっても当分余韻引きずるくらい好きだったので この作者が合うんだろうと(実際私自身が40歳くらいのおばさんですし・・・) 同じ作者の他の作品も読もうかな~とか思わないでもないです。 でもきっとこの3部作が一番好きだと思います。た...
(オベリスクの門 のレヴューからの続き) 読み終わっても当分余韻引きずるくらい好きだったので この作者が合うんだろうと(実際私自身が40歳くらいのおばさんですし・・・) 同じ作者の他の作品も読もうかな~とか思わないでもないです。 でもきっとこの3部作が一番好きだと思います。たぶん。
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終わってしまうのがとても心苦しかった。 作品のメッセージ性は言わずもがなだが、もはや作中世界を現実との類比の対象にしてしまうのは贅沢がすぎるのではないかと思える。 特に1部2部までのオロジェンVSスティルとか、オロジェンVS守護者のような単純な対立構造しか見えていなかったところか...
終わってしまうのがとても心苦しかった。 作品のメッセージ性は言わずもがなだが、もはや作中世界を現実との類比の対象にしてしまうのは贅沢がすぎるのではないかと思える。 特に1部2部までのオロジェンVSスティルとか、オロジェンVS守護者のような単純な対立構造しか見えていなかったところから、長い歴史の中に根を下ろした派閥間の複雑な関係が明らかになるところに超大陸の底知れなさを感じる。
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破壊された地球3部作の最終巻。旅がふたたび始まっていく。 エッスンは仲間とともにユメネスへ向かう。その旅は希望のない、いずれは迎える絶滅を少しでも先延ばしにするだけでしかない。コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』を彷彿とさせる世紀末の旅。その旅でエッスンはカストリマのみんな...
破壊された地球3部作の最終巻。旅がふたたび始まっていく。 エッスンは仲間とともにユメネスへ向かう。その旅は希望のない、いずれは迎える絶滅を少しでも先延ばしにするだけでしかない。コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』を彷彿とさせる世紀末の旅。その旅でエッスンはカストリマのみんなと仲間になる、彼女の人生で初めてのことだ。ミオブで海賊と一緒に生活したことはあった、でもその一瞬の幸せはオロジェンであることで終わってしまっている。エッスンの心境に変化が出てきている、娘ナッスンを探し出すだけでは無く仲間や人類そして地球を助けるためにオロジェニーを使おうと。 一方、ナッスンは絶滅した文明の造った地下鉄で地球の裏側に向かう。それまでに父親に弟を殺害され、孤独で過去を隠し続ける母親から逃げ出し、さらに父親を殺害してきた。なにもかも奪われ続けてきたナッスンが初めてシャファを愛することができた。そのシャファも地下鉄の旅で失いかけていく。ナッスンはシャファを痛めつける地球を破壊することに決心する。 エッスンとナッスンの戦いはエッスンが操るオニキスのオベリスクとナッスンの操る27のオベリスクの戦いだ。オリベスクから発せられる光・エネルギー・波動が感じられる、すざまじい破壊力があることが伝わってくる。2人のそれまでの人生で抑圧されていたものが一気に爆発的に表に出ていく感じが表されている。暴力的なだけではなく美しさもある戦いだ。ナッスンはエッスンが以前の母親ではないことに気付いたに違いない、それによってナッスンも破滅から再生へ考えが変わっていったのだろう。 ラストでナッスンは地下鉄でスティルネスへ帰るのを躊躇するシーンがあります。ものすごい戦いのあとですぐに結論をだすのは難しいと思います。ですが、なんとか希望を持って生きてもらいたい、でないとこの話は悲しすぎます。
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とてつもなくおもしろい。「第五の季節」「オベリスクの門」に続く第三部にして完結編。3年連続ヒューゴー賞受賞は伊達じゃない。読んでいて興奮しながら読み耽ってしまった。とてつもなく読むのが大変そうなびっしりとした文章なのだけど、読むのが苦ではない。それほど集中して読み続けられるパワー...
とてつもなくおもしろい。「第五の季節」「オベリスクの門」に続く第三部にして完結編。3年連続ヒューゴー賞受賞は伊達じゃない。読んでいて興奮しながら読み耽ってしまった。とてつもなく読むのが大変そうなびっしりとした文章なのだけど、読むのが苦ではない。それほど集中して読み続けられるパワーがある。この独自な世界観、内容をここまでありありと目の前に浮かぶように表現しきった翻訳家の方には大きな感謝を送りたい。これを読まないのはもったいなさすぎる。文句なしに脱帽だ。
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3部作の最終巻。 発売後すぐに読み始めたものの、前の巻を思い返しながらなのと、視点が色々変わるので最初の方は読み進めるのに苦戦しました。が、半分から終わりぐらいは一気でした。 読んでいて、父なる地球というフレーズが面白いな、と思いました。母と違い、大地がものを生み出さず、厳しい...
3部作の最終巻。 発売後すぐに読み始めたものの、前の巻を思い返しながらなのと、視点が色々変わるので最初の方は読み進めるのに苦戦しました。が、半分から終わりぐらいは一気でした。 読んでいて、父なる地球というフレーズが面白いな、と思いました。母と違い、大地がものを生み出さず、厳しいからなのかな、と思いましたが、作中、男性の方が子供の面倒見ていたりするので違うのかも。父と子は出てきましたが、母はエッスンを代表とした人類だったんですかねぇ? この作品はフィクションですが、ここ最近は思いもつかなかった天災や厄災が起こっているので備えることと、助け合いは大事だよなぁとも思いながら読みました。 発達した科学は魔法と変わらない、という論も面白かったです。今、自分が使っていてもどうしてそう動いているのかわからない機器に囲まれて生きているし、理屈がきちんとわかる人にはわかるんだろうけれども、わからなくても機能を使う事には問題がないという。その理屈部分がわからなくなっても機能が作動する分には使い続けていられるんだろうな、と。 最後に何故語り口調なのか、なぜずっと彼が語っていたのかがわかりその辺りは彼らが石食いになった過去も含めて「おぉ~」ってなりました。いやぁ、確かに手ごわかった。でも出会えてよかった作品だなって思いました。
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ヒューゴー賞に価値無し、ということを再認識するための苦行でござった、と。 まぁ、女性作家のエキゾチック系、という時点で見切っておくべき、だったんだけど…
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
オベリスクによって晶洞を破壊されてしまったカストリマの人びとは、無人になったレナニスの街を目指す。アラバスターと同じく体が石に侵食されはじめたエッスンは、彼女らと共に移動しながらも早く娘の元へ駆けつけたいと考えている。一方、ナッスンは守護者のシャファと共に〈見出された月〉を離れ、地球の裏側にある古代都市の遺跡へと旅だつ。そして遂にホアが自らの過去を語りはじめる。〈破壊された地球〉三部作最終巻。 前作を読んでから1年半経っているので内容をほとんど忘れちゃってて、正直「???」になってしまった。でも今作を読んだあとに読み返すオベ門の面白いこと!思わせぶりに謎めいていたアラバスターとの会話や、カストリマの動力装置をめぐるトンキーの考察など、そういうことね!と。そうして再度今作を開き、ホアの記憶のクライマックス部分を読み返してやっと要点が掴めた。『第五の季節』から各章の終わりに付いていた石伝承や古文書の抜き書きも、もう一度読み返したくなってくる。 最終巻で一番わくわくしたのは、ホアが語る古代文明シル・アナジストの様子と、その遺物を使って地球内部を移動するナッスンの旅だ。本シリーズの地底旅行はどれだけ鉱物まみれになるのかと思いきや、シル・アナジストの遺物は動物や植物を改造しまくったシュルレアリスティックな生命体なのだ。ホアの打ち明け話によって、〈鉱物パンク〉だと思ってた世界観が〈生命エネルギーパンク〉に反転する。そこから逆説的に「石も生命を持っている」「地球も意思を持っている」と畳み掛ける。有機的なようで非人道的なユートピアをつくりだしたシル・アナジストの魔法は、科学の発展と同じ道をたどって優生思想にたどりついてしまう。 個人的に、このシリーズのすごいところは主人公への厳しさだと思う。エッスンが過酷な目にあうというだけではなく、どこで間違い、何を見誤り、誰に謝罪すべきなのかを常に厳しく問い質していく。今作では〈季節〉がはじまってからのオロジェンはむしろ英雄だったのだ、という伝承が発掘されていくが、それが鼻につかないのは、エッスンもナッスンもひとつひとつの選択を常にジャッジされる緊張に身を置いていることが読者にはわかっているからだと思う。 そしてこのシリーズ一番の魅力は、ホアの語りが持つ”声”だと思っている。饒舌だが硬質で、アフォリズムめいた言葉がリズム感よく畳み掛ける、エモーショナルな文体。エッスンに対する厳しさも、二人称の呼びかけを地の文に採用したからこそ効果的になっていると思う。読者が一番近しく感じる地の語りをホアが担当することで、〈石喰い〉と呼ばれるようになってしまった人びとの”人間性”がグッと伝わりやすく、説得力あるものになっている。私が前作の設定をすっかり忘れながらものめりこんで読んでしまったのはこの文体の力によるものだ。翻訳も素晴らしいと思う。 ただ、『天冥の標』と併読していたので、この技術力を持ったシル・アナジストがなぜ宇宙開発に乗りださなかったのか不思議で仕方なかった。特に『第五の季節』のラストで大興奮した、月の不在という謎の種明かしがちょっと期待外れだった。鉱石幻想の集大成のような月をめぐるファンタジーが読めるものと思っていたのだ。 ジェミシンがこのシリーズをあくまで地球の物語として完結させた意図はわかる。シル・アナジストは地球を所有物と考え、奴隷化しようとした。地球が人類に復讐する論理と、アラバスターたちオロジェンがスティルネスに抱く恨みは完全にシンクロしており、〈季節〉は復讐の連鎖から生れでた。ここにはっきりとエコロジカルなメッセージが埋めこまれている。 また、藤本和子の『塩を食う女たち』『ブルースだってただの唄』で知った黒人女性のスピリットが今作にも漲っている。劣等感を抱きながら生きることを当たり前と思いこんで暮らしてきた人びとの苦悩と怒りが、エッセンシャルに昇華されたパワフルな三部作。いま出会えてよかった。
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