蝙蝠か燕か の商品レビュー
2022年53歳、逝去。 まだ若いが、著者らしいと言えば、著者らしい。 藤澤清造に取り憑かれたように人生を捧げ、その一生を私小説のために生きた。ファン精神などと言えば、氏が墓場で憤怒するだろうか。氏のアイデンティティとして、藤澤清造は生活の一部となり、生き方の模範でもあり、そし...
2022年53歳、逝去。 まだ若いが、著者らしいと言えば、著者らしい。 藤澤清造に取り憑かれたように人生を捧げ、その一生を私小説のために生きた。ファン精神などと言えば、氏が墓場で憤怒するだろうか。氏のアイデンティティとして、藤澤清造は生活の一部となり、生き方の模範でもあり、そしてその破滅的な生き様は、どこまでも晴れはしない西村賢太の孤独な生涯における慰めであったに違いない。 蝙蝠か燕か、何かの象徴を見たようなタイトル。想像されるのは日陰と日向の対比だが、氏の生き様にとって、それ自体はこだわるものでもない。拘泥するのは歿後弟子となった師匠のみ。飛び立つ黒い影。導かれたのも、その生き様だった。 ー そうだ。すべては二十三年前のあのときに、何もなくなった状態でこの墓前にぬかずき、この人の無念を引き継ぐのを願ったことから始まっている話なのだから、別段慌てて焦りを募らしたり、無力感に打ちひしがれるがものはない。こんなのは、他の誰の為にやっているものではないのである。いよいよ駄目となったら、脳を麻痺させた上で芝公園にゆくなり、またこの墓前に辿り着くなりすれば良いだけのことである…彼は薄汚れた黒ジャンパーのポケットから、またラッキーストライクの袋を取り出した。そして一本を取り出して火を付けたものを、またぞろに火先を上にして線香立ての中へと押し込んだのち、自分も一本を吸いつける。 ー それから二十三年が経ったが、自分のこうした活動や清造伝は、果たしてその人の役に立っているのだろうか、との根元的な疑問が、ひょいと脳中に浮かんでしまった。自分では、なにか随分と奮闘を重ねてきたつもりだが、突きつめるとそれは藤澤清造の為になっているのかと云う疑念である。この他愛ないと云えば至極他愛のない自間に、しかしながら鮮烈で異様な衝撃を受けるかたちとなった貫多は、すぐとはそれに対する答えを模索することができず、ただ棒立ちの状態になって瞑目した。 瞑目し、揺れる氏のよすが。 道徳モデルには重ならない生き様を肯定してくれる数少ない存在は、本の中に眠る。私も藤澤清造と出会ってみたくなった。西村賢太の小説は、氏の生涯をかけての書評レビューなのであった。
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没後に単行本化されたこともあり、そういうつもりで読んでいると、文章が『芝公園六角堂跡』以前のような荒々しいものではなく、成熟を感じさせられるせいか、表題の『蝙蝠か燕か』を読んでいると、なんだかあの世から生涯を振り返っているように思えてくる。
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この作品を読了してこれで全ての西村作品を読んだことになる。 西村作品に多く出てくる「秋恵」が全く出てこない、西村作品としては稀有な作品。 敬愛する藤澤清造氏の没後弟子を自称して命日に「清造忌」を取り行ったり、七尾に住まいを持ったり、藤澤氏のご遺族との交渉など、今作は藤澤清造一色な...
この作品を読了してこれで全ての西村作品を読んだことになる。 西村作品に多く出てくる「秋恵」が全く出てこない、西村作品としては稀有な作品。 敬愛する藤澤清造氏の没後弟子を自称して命日に「清造忌」を取り行ったり、七尾に住まいを持ったり、藤澤氏のご遺族との交渉など、今作は藤澤清造一色なので、若干の物足りなさを感じられる向きもあるかもしれないが、そこここに西村賢太氏の美しい情景描写があり、はっとさせられたりもする。 昨年の急逝は急病によるもので、死を予測できたとは思えないのだけれど、死に関しての思い書いた文章も複数あるのも複雑な思いで読んだ。 今は生前、藤澤清造氏の隣に建てた墓に眠っておられる西村さん、安らかに。
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発売日に買ったものの読まずにしてた。 これが最後か。 手元にあってまだ読んでないのが雨滴は続くと、どうで死ぬ身のひと踊り
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師たる藤澤清造の全集および書作文庫での復刊へ奔走する西村賢太氏の日々。自身も「何故それ迄に」と疑念を持つ程の執着。 ですが作中の「だが彼我も、当人には当人なりの事情と目的があって、互いにそれを自信をもって行なっているのだ。」と言う氏としては珍しい他者共感の一文が一ファンとしても面...
師たる藤澤清造の全集および書作文庫での復刊へ奔走する西村賢太氏の日々。自身も「何故それ迄に」と疑念を持つ程の執着。 ですが作中の「だが彼我も、当人には当人なりの事情と目的があって、互いにそれを自信をもって行なっているのだ。」と言う氏としては珍しい他者共感の一文が一ファンとしても面映ゆかった。
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なぜか読みたくなる、そして読めてしまう西村賢太さん。 藤澤清造さんの「殉後弟子」としての短編集や全集出版に奔走する著者を書いた私小説でした。 著者の破天荒なプライベートを書いた私小説とは違い、コアな層以外にはとっつきにくい内容です。 好きですけどね。派手さは無い。やっぱり、他の作...
なぜか読みたくなる、そして読めてしまう西村賢太さん。 藤澤清造さんの「殉後弟子」としての短編集や全集出版に奔走する著者を書いた私小説でした。 著者の破天荒なプライベートを書いた私小説とは違い、コアな層以外にはとっつきにくい内容です。 好きですけどね。派手さは無い。やっぱり、他の作品も読んでいる読者からすると、藤澤清造さんについての記述は繰り返し読んでいるものになってしまうし。若い頃の話はパンチがあるけれど、老いてくれば目新しいことは無くなるし、私小説はその点難しいなと思いました。 亡くなる数年前まで親密な女性がいたのは知らなかった。その方とのことについての話が読みたかったな。どこかで書いているのだろうか。
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- ネタバレ
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逝去からちょうど一年後に発売された本。P148(まあ、あれだ。人それぞれってことだよな……)がとても良かった。著者は孤独の中で自分の支えを見つけ、人生を捧げている人だからこそ、そこに関わる他人の所作には非常に厳しい。皆同じ価値観ではないのに……。「これしかない!」と人生を棒に振り、お金も人間関係も自分都合で巻き込みながら突き進むのは破滅的だと思い読んでいたけれど、命懸けで真剣で純粋だからこそ、危険な生き方になってしまったのかもしれない。そう思った時の(まあ、あれだ。人それぞれってことだよな……)が良かった。
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完成した小説で言えばラストということで、不思議と死を匂わせたところも有り、読んでいてなんとも言えない気分となった。 出されてしまった小説感は否めず、個人的な評価は凡作という判断ではあるが、独特の作風で、読み手を不思議と惹きつける類稀なる作家さんの新作をもう読めないというのは、矢張...
完成した小説で言えばラストということで、不思議と死を匂わせたところも有り、読んでいてなんとも言えない気分となった。 出されてしまった小説感は否めず、個人的な評価は凡作という判断ではあるが、独特の作風で、読み手を不思議と惹きつける類稀なる作家さんの新作をもう読めないというのは、矢張り悲しい限り。 西村賢太の没後弟子の出現を今は待とう。 ★3.0
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2023.04.05 私は純文学、私小説の類はほとんど読まない。ところが筆者の本はちょくちょく読む。こんな破滅型の人生を送り、50代であっさりと急逝されたことは彼には相応しいと思う。
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西村さんの本を読むのは、確か2回目。 多分「苦役列車」を読んで、どうも合わないなぁ、と思ったきりで、亡くなったと聞いて、最新刊らしきこの本を借りた。 やはり、合わない。 なんだか寂しくなったり、ちょっと気持ち悪くなったり。 ほぼ同年代なんだけど、違った環境の違う人なんだな、と改...
西村さんの本を読むのは、確か2回目。 多分「苦役列車」を読んで、どうも合わないなぁ、と思ったきりで、亡くなったと聞いて、最新刊らしきこの本を借りた。 やはり、合わない。 なんだか寂しくなったり、ちょっと気持ち悪くなったり。 ほぼ同年代なんだけど、違った環境の違う人なんだな、と改めて感じた。 しかし、人はいつ死ぬか分からないもの。 儚いものだな、とこれまた改めて思った。 著書とは関係ないけど。
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