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日本語の発音はどう変わってきたか の商品レビュー

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18件のお客様レビュー

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2024/07/19
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 万葉仮名を手掛かりに太古の日本語の発音を探る。  例えば、「山」の和語(=つまり、訓み方)が何か? 「山」と中国由来の漢字のだけでは、それは分からない。  そこで万葉仮名の登場。仮名書きの「夜麻」とある。「やま」と呼んだのでは?と推測できる。ただ「夜麻」だけでは「よま」などとも読める。そこで、『万葉集』の中から「夜麻」以外に、「山」を表している表現を、「也麻」、「野万」、「八万」と、いくつも探し出して古代語の「やま」の存在を確定させていく。  ものすごく気の遠くなるような作業だ。 「八世紀後半に成立した『万葉集』は、四千数百首もの和歌を収める古代語の宝庫であり、これによって私たちは奈良時代の言葉を体系的に再建できるのである。」  大伴家持ら先人の偉業に感謝である。  さらには、中国音韻学を活用し、唐の時代の音(唐代音)を活用する。その音は、その時代の漢詩が時代を代表するものであり、李白、杜甫、白楽天の詩を、当時のように作り、真似て、読むことが後の世にも重んじられたから。だから、その発音が今も残るという説明だ。 漢字の読み方に、発音記号を使わずに、多数の漢字を相互に組み合わせるように規定させる「反切」という手法があり、それを使って理解できるという。これもまた気の遠くなるような作業だ。  然様に、本書では、なぜ昔の発音が分かるか、いかにして調べていったのかが具に説明されており、その苦労を知るだけでも、どっと疲れてしまうような内容だった。  古代日本語にhの音が存在しなかったことから、 「ハ行子音は、奈良時代にはP音であった。これが平安時代はじめにPから破裂性がやや退化してfの音に近い「ファ・フィ」のような音声になった。」  という話も展開されていく。  時代が下ると、『日葡辞典』をはじめ、海外のキリシタンがものした資料で、「Fato(鳩)」、「Ficari(光)」といった記載から、 「ハ行子音は、fで表記されるのも、当時のハ行音が両唇摩擦音であったことを推測される。」  と、実にありとあらゆる文献にあたって、ようやく推論が、より確からしくなっていく凄みがあった。

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2024/03/29

新書にして230ページほどの分量だが、8世紀から18世紀の千年以上にわたる日本語の音声変化をたどる好著。当然ながら、変化をたどるためには聞いたこともない当時の音声を「再建」する必要がある。その材料となるのが、奈良時代の万葉仮名であり、室町時代のキリシタン文献だった。万葉仮名につい...

新書にして230ページほどの分量だが、8世紀から18世紀の千年以上にわたる日本語の音声変化をたどる好著。当然ながら、変化をたどるためには聞いたこともない当時の音声を「再建」する必要がある。その材料となるのが、奈良時代の万葉仮名であり、室町時代のキリシタン文献だった。万葉仮名については漢語音韻学に基づいて精緻な研究が行われ、上代特殊仮名遣、8つの母音の存在、甲類音と乙類音の区別、音節結合の法則などが明らかにされる。こうした複雑な音声や法則は、もともと単語の音節が少なかったことによるものだ。社会情勢の変化は言語情報の必要性を増加させるが、初期の段階では少ない音節に多くの音声を盛り込むことでこれに対応していた。しかし、更に情報が増えると少ない音節では対応しきれなくなり、単語の音節そのものが増えてくる。すると複雑な音声や法則により単語を弁別する必要性が薄れ、母音は減少、甲類音・乙類音の区別は相対化し、音節結合の法則も崩れていった。このような観点から、日本語の音声が具体的にどのような変化を経てきたのか、その変化を先人たちがどのように対自化してきたかを描く。どの言語にも同様の変化は見られると思うが、ひらがなの発明、ひらがなと漢字の混合文体など日本語の特殊性を考察する上でも必須の情報が詰まっている。

Posted byブクログ

2024/02/25

かねてより「昔の日本語はこんな発音でした」みたいな記事を読むたびに、どうやってそんなことを調べられるのだろうかと不思議に思っていた。本書によりおおむね疑問氷解。スッキリしました 日本語は五十音図の母音と子音がクロスした発音であると思ってふだん疑うこともないが、たとえばタ行などは...

かねてより「昔の日本語はこんな発音でした」みたいな記事を読むたびに、どうやってそんなことを調べられるのだろうかと不思議に思っていた。本書によりおおむね疑問氷解。スッキリしました 日本語は五十音図の母音と子音がクロスした発音であると思ってふだん疑うこともないが、たとえばタ行などは、同じt音で揃えると実はタ・ティ・トゥ・テ・トになる。そんな身近すぎて逆に意識できていないことが見えてくる快感もあった

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2024/01/23
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題は「日本語の発音」だが、広範囲な言語学研究の成果の一部として日本語発音変遷を描いた、重厚な背景を持つ本。 第一章の奈良時代の日本語の発音で言えば、万葉仮名から「上代特殊仮名遣い」を再発見した橋本進吉の話は知っていたが、語根内の「音節結合規則」を発見して有坂秀世の話は全く知らなかった。そしてこの規則が、語と語根の範囲を示す、現代でのアクセントに類するものであることなど全く知らなかった。 次いで第二章、平安時代では、語が長くなることにより文節が生じ、そして文節を示すために音便が生じたとのこと。また奈良時代までは連続母音を避ける傾向だったが、語の接続が増えてゆき連続母音が許容されるようにもなったと。そして仮名文字の出現により、発音と文字との一致、そして(漢字で書く面倒が減ったことで)散文という文学が発生したと。 またハ行の発音変遷も面白い。奈良時代のp音から中世近世のf音、そして18世紀前半ごろからのh音への変化。 第三章、鎌倉時代では巨人藤原定家によるルネサンス。仮名遣いの乱れの指摘だけではなく、漢字かな混じり文を一般的にしたのも定家だとは知らなかった。漢字を組み込むことにより単語が明確になるわけで、逆に言えば平安時代に書かれたかなのみの文章が、鎌倉時代には既に読みづらくなっていたことを示しているようだ。ただ、定家が写本をつくるときに本文改変をしているのは、現代人からすればとても気にかかる。 第四章、室町時代にはポルトガル人宣教師により、当時の発音がローマ字音写されて「日葡辞書」として現代に伝わったことで、当時の発音が明確に判明する。ハ行がf音だったこと、そしていわゆる四つ仮名「じぢずづ」の区別の存在。ダ行にまだ鼻濁音が残っていたために、すんなりと合流しなかったとか。ちなみにいわゆるズーズー弁ではこの四つ仮名の区別が無いとの余談も入る。またオ段長音オーがもともとau(開音:逢坂(あふさか)京(きやう)など)とeu/ou(合音:今日(けふ)蝶(てふ)/法(ほふ)など)とだったのが合流した(「オ段長音の開合の別」)のは江戸初期らしく、日葡辞書の頃は合流前なので区別されて記録されているのだとか。 第五章、江戸時代の話の前に、漢字の音読みに呉音漢音唐音の区別の話が出てくる。ここは「日本語の発音」であっても中国での漢字発音の話と、日本国内での発音変化の話(ハ行の発音変化など)が両方絡んでくるのでとてもややこしい。しかも日本語は音節末尾が(「ん」を除いて)必ず母音で終わる(開音節)が、中国語での漢字発音は子音で終わる閉音節も存在するため、閉音節の漢字発音を開音節で取り込むときに音がズレてしまうこともさらにややこしさに拍車をかける。中国の入声(漢字発音が-k/-t/-pで終わる)や鼻音(-ŋ/-n/-m)に関する話もあり、日本国内での変化前の発音は地名などに残存しているところが面白い。 第六章、江戸時代には「近世ルネサンス」が生じ、例として契沖による万葉集研究(および定家仮名遣いの訂正)、本居宣長による古事記研究が挙げられている。このルネサンスの根本が、上流階級による中世歌学の「みやび(都会的洗練)」継承への対抗として新興知識層が上代古典に注目した、との話に驚いた。都会以外の文化の根拠とするものが「やまとごころ」「やまとだましひ」などの民族主義から生じてくると。ただ、契沖による定家仮名遣いの理論的修正は残念ながら権威により完全無視され、評価されたのは70年後の楫取魚彦「古言梯」までかかったのだとか。そして契沖の仮名遣いを更に修正したのが本居宣長。宣長の時代まで下ると、漢字かな混じり文の書物が一般大衆にまで広まり、そのために漢字の音読み表記が著者たちの勝手な類推などで不安定化した。ここで宣長が(中国語に基づく発音だった)漢字と日本語とを分離して、理論的に発音分析することで日本語発音を整理することができた(ただしその裏には彼の排外的思想が蠢いているわけだが)。また宣長の頃には契沖の頃から更に発音変化が生じて、ア行が全て平安時代と同じく単独母音に戻っていたことも幸運したらしい。 なお契沖や宣長は五十音図に基づいて発音研究を行っている。余談として、アカサタナの順は円仁「在唐記」にある梵音の順序によるものだそうで。 第六章末尾で近代が取り上げられる。歴史的仮名遣いが「中世仮名遣いを否定して十八世紀に確立した」ものであり「口語体は、東京語を基盤としてそれに歴史的仮名遣いが乗るおかしな代物」として歴史的仮名遣い論者を切り捨てているのも興味深い。 知らない話がとてもたくさんあり、読んでいて興奮する本でした。この本も図書館で借りた本なのだが、ぜひ手元に置いておきたい。

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2024/01/02
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「発音の変遷」というよりも「音と文字の不一致がどのようにして生まれてきたか」という観点でとてもおもしろく読めた。 文字(漢字)が伝わる前にも日本語は存在していたが、漢字が伝わったことで音に相当する漢字を割り当てるようになった。それが万葉仮名としてある程度整理される。その段階では、同じ「い」の音でも排他的に2グループの漢字群が割り当てられていて、「い」の発音にも2種類あったことが分かる。そんな漢字で当時の母音は8種類あったことが分かった。 しかし音声は変わっていく。音節の少ない原始的な日本語が、より複雑な節や語を含む言語に発展していくにつれて、微妙な音の違いで意味を区別する必要が薄れていく。すると発音は手を抜く方向に変化していき、母音は今と同じ5つに集約されていく。pで発音された「は」行もより楽なΦ(歯は使わず、唇を合わせるだけのfのような音)に変わっていく。 鎌倉時代にはすでに平安時代の和歌がまともに読めなくなっていて、藤原定家がそれを体系的に整理して読めるようにした。これが今に伝わるいわゆる古典の原型になっている。 漢語は外国語としてそのまま日本語に吸収される。現代において英語がカタカナで日本語に吸収されるのとまさに同じように。漢語が伝わった年代によって、中国の政治的中心が異なるため、同じ漢字でも発音が異なる。だから漢字の音読みは複数あることが多い。また中国語の発音そのままでなく、日本語が持つ音体系の中から発音が割り当てられる。これも現代そのまま。 さらに契沖、本居宣長らが現代の五十音を整理する。 実は書いてある内容はかなり専門的であり、正しく理解できている自信がない箇所が結構ある。なので上記はかなり雑なまとめであり、間違いもあるかもしれない。 でもとにかく日本語という言語が1000年以上も前に成り立っていて、それが大きく形を変えることなく綿々と伝わってきているということがとても実感できた。

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2023/11/04

なかなか難敵な1冊でした。大学生の時に勉強した英語学の発音をもう一度学習し直してからチャレンジすべきだったかもしれません。 とはいえ・・、そんな余裕もないので、読みきりました。 日本語は難しい。言われてみれば、漢字に加え、ひらがな、カタカナ、ローマ字、英語まで文中に存在する言...

なかなか難敵な1冊でした。大学生の時に勉強した英語学の発音をもう一度学習し直してからチャレンジすべきだったかもしれません。 とはいえ・・、そんな余裕もないので、読みきりました。 日本語は難しい。言われてみれば、漢字に加え、ひらがな、カタカナ、ローマ字、英語まで文中に存在する言語。こんな言語は世界広しといえども日本語だけ。でも、そんな言語を小学生でもある程度の精度で話している。それが、日本人。 そもそも、何でこんな複雑な言語構造なったのか? その謎に真っ正面から解凍してくれる1冊です。 そもそも、漢字だけで文章を構成していた日本人。そこに、ひらがな、カタカナが生まれた。似→い、伊→イ、と何故か漢字から2種類の文字が生まれてしまう。そして、漢字とひらがなを組み合わせた藤原定家。彼がいなければ、我々の日本語はまた別のものに変化していただろう。 戦国時代、、江戸時代に当時どんな日本語を話していたのか、興味を持たないない日本人はいまい。 あいうえおはいつ、始まったのか? 小倉百人一首は、何故難しいのか? こういう問いに素直に答えてくれる本である。 子供の頃から、不思議に思っていたことに対する答えを今見つけた感じがする。

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2023/10/19

かつての日本語の発音の仕方は現在とは違うものだったというのはよく聞く話だったのだが、当時レコーダーがあるわけではなし、確定は出来ないがそこそこ確率の高い推察程度だろうと思っていた。この本ではそれが単なる推察などではなく、しっかりとした根拠のある説だということを、まるで推理小説のよ...

かつての日本語の発音の仕方は現在とは違うものだったというのはよく聞く話だったのだが、当時レコーダーがあるわけではなし、確定は出来ないがそこそこ確率の高い推察程度だろうと思っていた。この本ではそれが単なる推察などではなく、しっかりとした根拠のある説だということを、まるで推理小説のように解き明かしている。専門用語も多いし決して飲み込みやすい本ではないのだが、今までに触れてこなかった分野だけに非常に楽しく読むことが出来た。帯の「ファシバフィデヨシ」という惹句は最強(笑)。

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2023/10/15

新書にしては歯ごたえがありましたが、学びが多くたいへん面白く読みました。学術的な記述が多く寝落ちに持ってこい(笑)なのですが、時々顔を出すぷっと吹き出すような言い回しとのキャップがよかったです。 副題にある「てふてふ」から「ちょうちょう」へ、というのは「てふてふ」と書いて「ちょう...

新書にしては歯ごたえがありましたが、学びが多くたいへん面白く読みました。学術的な記述が多く寝落ちに持ってこい(笑)なのですが、時々顔を出すぷっと吹き出すような言い回しとのキャップがよかったです。 副題にある「てふてふ」から「ちょうちょう」へ、というのは「てふてふ」と書いて「ちょうちょう」と読むものだと思っていたのですが、昔はそのまま「てふてふ」と発音していた、というのを初めて知りました。では、どうして「てふてふ」が「ちょうちょう」になったのか。この本を読めばわかります。 私たちが日本人として当たり前に使っている平仮名・片仮名、漢字の音読み、訓読み、あいうえおの「五十音」などなど、知らなかったことだらけで、驚きの連続でした。人に話したくなるけど、うーん、難しい!日本人として日本語を大切にしたくなる内容でした。日本語がもっと好きになりました。

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2023/09/07
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平安時代以前、日本語の母音は"あいうえお"の5音の他、"ゐゑを"の3音を加えた8音があり、「い (i)」と「ゐ (wi)」、 「え (e)」と「ゑ(we)」、「お」と「を (wo)」の発音は区別され、「いし(石)」は「イシ (isi)」でも、「ゐなか(田舎)」は「ウィナカ (winaka)」だった等の導入から既に面白い。 他にも「京(kyau)」と「今日(kefu)」とか、「はひふへの」の発音は奈良時代は「パピプペポ」で「母」は「パパ(papa)」。 録音機もない古代の発音がどうして分かるのかという疑問から始まる奈良時代から江戸時代までの日本語音声の変遷を辿る旅。

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2024/07/08

なんと短期間で再読。 前回のレビューは新書にしては内容が濃すぎる、というやや辛口のものだったが、再読でより理解が深まり、逆に「新書の価値ここにあり」といえる作品だった。 特に上代の日本語を再建する当たりのところは、大河ドラマのようにドラマティック。

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