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開墾地 の商品レビュー

3.8

19件のお客様レビュー

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2026/04/07
  • ネタバレ

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アメリカ南部出身の日本への留学生が就職活動前に故郷に里帰りした時の話。実家は葛に覆われ、イラン人の父は庭と家の修理に汗を流していた。彼は英語である母語のもつ土着性に辟易してそこから逃れたく思っていた。父のペルシャ語に憧れを持つも、父は英語を学んだことで自由を勝ち得たためペルシャ語の学習を勧めなかった。彼は当時勢いのあった日本の企業進出のために地元にあった日本語学校に通い日本語を学ぶことで英語という檻から逃れたのだ。そして、久しぶりに帰省した故郷で母語の持つ逃れ得ないその性質をホームセンターに並ぶ客の会話から思い出した。父はホームセンターで買った着火剤と火で葛を燃やし、その煙が棚引いていくのを眺めた。 日本からやってきてアメリカ南部に定着した葛が第二の主役になっている。葛は南部の言語にも生活にも完全に溶け込みきっている。しかしそれは南部アメリカにもとからあった植物ではなく日本から持ち込まれた外来種であった。そのような外からやってきたものが馴染み生活に完全に定着することもあれば、ペルシャ語・日本語・英語の中で揺れ動く父や主人公ラッセルのようなものもある。

Posted byブクログ

2026/03/25

正直「鴨川ランナー」のほうが面白かったけど、、 イラン出身のお父さんとのやり取りがメインに描かれる。父親の話すペルシャ語のこと。 p72 いつでも英語の外へ出て、ペルシャ語へ自由に移動できる父親のことを羨ましく思うことがあった。 p77 「ラッセルは英語が話せる。きみはまだ分かっ...

正直「鴨川ランナー」のほうが面白かったけど、、 イラン出身のお父さんとのやり取りがメインに描かれる。父親の話すペルシャ語のこと。 p72 いつでも英語の外へ出て、ペルシャ語へ自由に移動できる父親のことを羨ましく思うことがあった。 p77 「ラッセルは英語が話せる。きみはまだ分かっていないだろうが、それは実はとても幸運なことだよ。外国語を勉強しなくてもどこにでも行ける。どこに行っても、言いたいことを言えない苦しさはない。だから、ペルシャ語なんか学ぶ必要はない。きみは自由だから」 父親の言葉には切実なものがあったが、当時のラッセルは納得できなかった。自由と言われても、母語はむしろ檻のように感じられた。 (略) 母語から抜け出したい気持ちには変わりはなかった。父親が一人だけで入り込んでいたあの不思議な世界を、自分の目で見たかった。だがラッセルは二度と父親にその願いを伝えることはなかった。 *** 面白い感覚だなあ。母語から抜け出したい。外国語を操ることで違う世界に行きたい、自由になりたいという渇望。著者自身そういう気持ちから日本語を学んだのだろう。面白いなぁと思いつつ、英語学習歴10年のわたしも、確かにそういう面もあるかもなぁという気もする。それは目的ではなかったが、結果として、英語を使うと違う世界を見ることができ、自由を感じることができているから。 ---------- p86 葛が日本語だと知った時の衝撃はいまだに覚えていた。 *** 葛の木は英語でkudzuなのですって。日本語から来ているのだと。幼いころから家のにkudzuがあったが、日本に来て電車に乗っていてなじみのある蔓(葛)が目に入り、日本語では何というのだろうと調べたら子どものときに使っていた「kudzu」と、その語源である「葛」が隣に並んでいたという。

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2025/12/27
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

『鴨川ランナー』よりもさらに複雑に、言語と自己の関わりについて常に考える、考えざるをえない状況を描く。 イラン出身でペルシャ語を母語とし、米国に暮らす父。 アメリカに生まれ英語を母語とし、父とも英語で会話をしてきた自分、は日本へ留学している。一時帰国中。 父の人生にフォーカスしたくなる。 自宅の庭に次々に繁茂する葛、日々それと格闘する父。本当は何と格闘しているのか。格闘してきたのか。 「葛」が「kudzu」であったように、「異」であっても重なるところはある。母国を出て、母語でない言葉を使い、必死に人生を開墾してきた彼が、これから誰かとの重なりを感じられますように。 ・・・・・・・・ 『鴨川ランナー』から続けて『開墾地』を読み、著者のことも考えるのだけれど。誰が書いたかということをわきに置いて、とても面白い物語だった。自身の経験から生み出されたものだろうということは意識しながら読んだが、日本語を母語としない人が日本語を使って書く、ということはまるで意識しなかった。それだけ日本語がうまいからだ、なんてことも考えなかった。 1冊の本を読んで、ああ面白かったとページを閉じる。私にとっての面白い基準は一体なんなのだろう。ストーリー、文体、はありそうだ。では著者はどれほど影響しているか。 読む前から絶対に面白いに違いないと思える著者がもちろん何人もいるが、それってバイアス込みで読んでいる? などなど、面白いと感じる源について、ぐるぐる。

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2025/08/22

サウスカロライナ出身のアメリカ人。英語指導助手として日本に来て、大学の准教授にまでなった。日本語で小説を書く。 本作は芥川賞候補作、のちに2度目の芥川賞候補になっている。 自身を題材にした作品だが、帰国してイラン出身の義父と過ごす時間の静謐なこと。自分とは何かと考える主人公に惹き...

サウスカロライナ出身のアメリカ人。英語指導助手として日本に来て、大学の准教授にまでなった。日本語で小説を書く。 本作は芥川賞候補作、のちに2度目の芥川賞候補になっている。 自身を題材にした作品だが、帰国してイラン出身の義父と過ごす時間の静謐なこと。自分とは何かと考える主人公に惹きつけられる。 ネットで見た彼の顔の表情にも納得した。

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2024/06/07

前作に続いて、母国語でない日本語をここまで小説にできる著者ってとにかく凄い。 日本、アメリカ、父の母国イラン、さまざまな国の中で、言語や文化を、違和感なく表現している。 いろいろなルーツの中で感じる思いを、装丁とリンクして侘びさびを感じてしまう。 3作目、Kindle版、A...

前作に続いて、母国語でない日本語をここまで小説にできる著者ってとにかく凄い。 日本、アメリカ、父の母国イラン、さまざまな国の中で、言語や文化を、違和感なく表現している。 いろいろなルーツの中で感じる思いを、装丁とリンクして侘びさびを感じてしまう。 3作目、Kindle版、Audible版で発売しているが、まだ書籍は出ていない。 Audibleデビューするか?いや、やっぱり生本で読みたいのだ。

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2023/11/05

イラン人の養父との血縁に因らない関係に、「そして、バトンは渡された」を思い出した。でもこの物語の中心にあるのは家族ではなく、言語。飛び交う言葉とその言葉が纏うものから意識せずとも意味を読み取ってしまう母語と、意識しなければ音の連なりでしかなくなる言語のことが、繰り返し語られる。主...

イラン人の養父との血縁に因らない関係に、「そして、バトンは渡された」を思い出した。でもこの物語の中心にあるのは家族ではなく、言語。飛び交う言葉とその言葉が纏うものから意識せずとも意味を読み取ってしまう母語と、意識しなければ音の連なりでしかなくなる言語のことが、繰り返し語られる。主人公にとって、母語は愛しかったり、優しかったりはせず、かえって自身を閉じ込めるものに感じていて、その感じ方が新鮮だった。 訥々としたふたりのやりとりが、ちょっとせつなくて、おだやかで、気持ちよかった。 蔓延る葛の葉、越境者のメタファーなんだろうか。

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2023/09/02

言語がテーマ。 前作の異邦人も少し続いている。 葛がなんとも言えない圧迫感、切迫感をもたらしている。 二か国語の間で生きる。そのうちの一つは英語。 なんと味わい深いのだろう。 お父さんの昔話がとりわけ。

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2023/05/18

切実さを感じる。このグローバル化された時代にあって、確かに英語は万国共通の言葉として強みを発揮し続けているが、その英語という母国語から主人公ラッセルは抜け出すことを考える。そしてマイナーな(失礼!)ペルシャ語を学ぶことで自らのルーツに接近しようとする。言葉を学ぶこと、それによって...

切実さを感じる。このグローバル化された時代にあって、確かに英語は万国共通の言葉として強みを発揮し続けているが、その英語という母国語から主人公ラッセルは抜け出すことを考える。そしてマイナーな(失礼!)ペルシャ語を学ぶことで自らのルーツに接近しようとする。言葉を学ぶこと、それによって自分が知らない、父が見ていたはずの世界へ脚を踏み入れようとすることは新しいアイデンティティを得ること、そこから未知の領域を垣間見ようとする試みとも言えるだろう。そうした自分自身の中の迷いや言いよどみが実に読みやすい日本語で書かれる

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2023/05/07

英語圏で育って日本語の世界で生活する著者 アメリカに帰り、父親との暮らしの中で 父親と従兄弟が話すペルシャ語を不思議な感じで 聞いた子どもの頃を思い出す 英語が十分に話せなくて、いろんな対応をされる父親 そして、言葉の間で生きる自分 祖国と言語、微妙な、そして繊細な表現

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2023/05/07

情景が目に浮かんでくるような描写でとても読みやすかった。 葛の蔓が繁茂しているのをぼんやりと眺めながらその中から聞こえてくる虫の声を耳を澄ます。 やがて、多くは語らないけど優しさのある父の声が聞こえてくる。 ラッセルが2歳の時に母が今の父と結婚したが、7歳で母は出ていく。 父だ...

情景が目に浮かんでくるような描写でとても読みやすかった。 葛の蔓が繁茂しているのをぼんやりと眺めながらその中から聞こえてくる虫の声を耳を澄ます。 やがて、多くは語らないけど優しさのある父の声が聞こえてくる。 ラッセルが2歳の時に母が今の父と結婚したが、7歳で母は出ていく。 父だけは、それまでと何も変わらず彼と暮らす。 アメリカ生まれのラッセルとは英語で喋るが、父の言語はペルシャ語だ。 父が、故郷の家族と話すときは英語を使わない。 そのことに寂しさを感じるのか、自分だけ家族ではないと思ってしまうのか…。 国が違えば、ことばも違うという当たり前のことだが、日本から離れたこともなく、身近に日本語以外を話す人がいない自分には想像できないことだった。 だが、父親が一人だけで入り込んでいたあの不思議な世界を、自分の目で見たかった。というラッセルの優しい思いが、心に沁みた。

Posted byブクログ