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力と交換様式 の商品レビュー

3.8

8件のお客様レビュー

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2024/06/23
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※このレビューにはネタバレを含みます

「トランスクリティーク」、「世界史の構造」に続き、「力と交換様式」を読了。 20年間にわたる思索と実践から産まれた柄谷の交換様式による体系的な資本主義理解は、最近注目されている脱成長や環境問題に注目したマルクス読解と比較して、資本主義に対する基礎的な分析枠組みを深めるものとして非常に重要だと感じる。 本書では、「世界史の構造」において展開された4つの交換様式に基づく歴史解釈をさらに深め、肝心の「交換様式Dとは何か」という問題に踏み込むために「力」という概念を導入していく。 ここでの「力」は人が意識して影響を与えることができず、ただ不可避的にそこに現れてしまうものといった意味合いが持たせられており、これまでの意識的・計画的な革命や社会主義化に対して、意識されずとも到来する社会主義を提起しているのだと私には捉えられた。 一方で、そのような社会主義の到来に際しては交換様式B,Cに由来する破綻を何度も経過する必要があるという結論を含意しているとも読めるため、そのような破綻をそもそも人類社会が乗り越えられないのでは?という懸念に対して強い反論ができないような結論にとどまっていると思われ、柄谷はある種現状肯定的な思想に転向したのだろうか?というふうにも感じた。

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2023/11/24

2023年バーグルエン哲学文化賞を受賞した作品である。唯物史観では社会の発展要因を「生産様式」とするが、それに対して作者は「交換様式」の概念で人類の発展を理解するというもので、作者が数十年にわたって温めてきた思考を集大成する異色の人類発展史観である。 人間の共同性を贈与と返礼の互...

2023年バーグルエン哲学文化賞を受賞した作品である。唯物史観では社会の発展要因を「生産様式」とするが、それに対して作者は「交換様式」の概念で人類の発展を理解するというもので、作者が数十年にわたって温めてきた思考を集大成する異色の人類発展史観である。 人間の共同性を贈与と返礼の互酬概念から考え始めるものであるが、哲学的で抽象度が高い文章が続き、理解しながら読み進めるのに相当の努力が必要である。 最初に、四つの交換様式の定義から始める。A 共同体における「互酬(贈与と返礼)」、B 国家権力にみられる垂直的な「服従と保護(略取と再分配)」、C 市場における「水平的な商品交換(貨幣と商品)」、D 「Aの高次元での回復」である。これら四つの交換様式を歴史的段階で考え、それぞれの段階が通底したり重なったりして社会は進化する。氏族社会(A)-封建社会(B)-資本主義社会(C)へと進み、「人間の意思を超えて到来する」D段階に至る、そこは「資本主義-国家-ネーションを揚棄する」究極の社会である。この交換様式からみた発展段階説はマルクス主義の経済的下部構造の段階説とは異なり、政治的・精神的なものも含み霊的な力の作用も重視する。Aにはマルセル・モースのいう「ハウ」、Bにホッブスが名付けた「リバイアサン(海の怪獣)」、Cにはマルクスが指摘した「資本の物神(フェティッシュ)性」という霊的観念諸力である。 Dの「A段階の高次元での回復」については、究極の理想である共産主義社会をイメージし「原初への回復・ユートピアの到来」として、それは「向こうから自然にやってくる」という、・・・この辺りまでくると殆どついていけない。何とか喰らい付いてきたのに最後の一番盛り上がった肝心なところで振り落とされる、「もう一回よく読み直してこい」と、そして又読む。 世界宗教は既にDの要素があるということや、アソシエーションなどの概念もD「高次元での回復」のヒントになる気がして頷ける部分も多々ある。箇所によっては論理・論証の凄さに共感し感覚が昂ぶることもある。作者はこの作品で哲学思考の可能性を存分に味合わせてくれる。人類の将来展望も示す。マルクス・エンゲルスをはじめヘーゲル、カント、ギリシャ哲学者や歴史的な思想家の成果をベースに組み立てた密度の濃い論考である。 生煮えながら少しわかりかけてきた気もする。読む毎に刺激的な思考の世界に入りつつあるという実感が満足感を増幅させる。

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2023/11/16

恐るべき名著。近年では東浩紀「観光客の哲学」に匹敵するかそれを上回るスケールの哲学書といえるのではないか。 交換様式と「力」について、個々の踏み込みとしては弱いような、もう少し説明がほしいような、また、繰り返しが多いような気はしたものの、世界史を総掴みする壮大な試みには驚いた。...

恐るべき名著。近年では東浩紀「観光客の哲学」に匹敵するかそれを上回るスケールの哲学書といえるのではないか。 交換様式と「力」について、個々の踏み込みとしては弱いような、もう少し説明がほしいような、また、繰り返しが多いような気はしたものの、世界史を総掴みする壮大な試みには驚いた。 そしてラスト。「向こうから」「Dが必ず到来する」と。その言葉に勇気づけられる。

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2023/08/18

呪力(A)、権力( B)、資本の力(C)が結合した資本=ネーション=国家を揚棄する力(D)が、必ず到来する ・・・一冊約400ページを読んでみた(私にとっての)結論が、表紙の内側に記載されていたことばそのまんま、の本でした。 去年くらいから、けっこうまじめに、遠からず、資本主義...

呪力(A)、権力( B)、資本の力(C)が結合した資本=ネーション=国家を揚棄する力(D)が、必ず到来する ・・・一冊約400ページを読んでみた(私にとっての)結論が、表紙の内側に記載されていたことばそのまんま、の本でした。 去年くらいから、けっこうまじめに、遠からず、資本主義の次のシステム?社会?が到来する時代を自ら経験することになるのだろうなぁ、、、と考えていて、次にきたるものを考えるヒントになるかも!?と手にしたのだけれど、、、 うーん、私の読解力では、上記キャッチフレーズ?以上の深まりはなかった。 ただ、遠からず資本主義の次の時代が到来する、という思いは、深まりました。

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2023/07/23

交換様式Aの高次元での回復であるDをキーワードに、時間や地理を横断しスケールの大きい考察が繰り広げられる。 予備知識として欠落している所もあるので、中々消化するのに苦労した。

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2023/04/03

「共産主義とは『古代社会』にあった交換様式Aの高次元での回復である。すなわち、交換様式Dの出現である。」何度も登場するこのフレーズ、何か知らんけどかっこういい。らせん階段のようなものをイメージしてしまったが、それでいいのだろうか。A(互酬)からB(服従と保護)、さらにC(商品交換...

「共産主義とは『古代社会』にあった交換様式Aの高次元での回復である。すなわち、交換様式Dの出現である。」何度も登場するこのフレーズ、何か知らんけどかっこういい。らせん階段のようなものをイメージしてしまったが、それでいいのだろうか。A(互酬)からB(服従と保護)、さらにC(商品交換)、そして1周まわってAにもどって来るが、それは同じものではなく、高次元での回復でなければならない。Aならば今でもいろいろなところで登場しているように思う。先日NHKで見た石見銀山のある大森町もそうかもしれない。リモートワークがわりと自由にできるようになった世の中だからこそ、そういう町があちこちに出現してもおかしくないのかもしれない。都会から移住してきた子どもたちが石見神楽を舞ったりしている。僕も若ければ子どもといっしょにそんな暮らしをしてみたい。「ところがDは、Aとは違って、人が願望し、あるいは企画することによって実現されるようなものではない。それはいわば“向こうから”来るのだ。」らせん階段を上るというような主体的なものではないのだな。向こうからやって来るのだ。「やってくる」というと郡司さんを思い出してしまうが、どこかでつながることはあるのかなあ。「最後に一言いっておきたい。今後に、戦争と恐慌、つまり、BとCが必然的にもたらす危機が幾度も生じるだろう。しかし、それゆえにこそ、“Aの高次元での回復”としてのDが必ず到来する、と。」戦争と恐慌、そこに地震も加えて良いかも知れない。養老先生もかなり地震には期待しているようだ。しかし、地震はこわい。これもまたNHKで先日見たが、地震は本当に怖い。とは言っても、まあなるようにしかならない、とも思っている。とりあえず、長年放置していた家具転倒防止用のつっかえ棒だけは設置した。本書は秋に刊行されるとすぐに購入した。しばらくは本棚に寝かしていたが、この1ヶ月ほどで集中的に読んだ。序論の最後あたりを読んでいると、齋藤幸平さんの仕事もなんか影響しているのかなと思ったりした。また普遍宗教の話に入ると伊東俊太郎先生の本とダブって見えた。とは言えなかなか考えが深まるわけでもないのだけれど。ところでU(原遊動性)については本書ではあまり扱われていなかったと思う。どこで出てきたのか。「遊動論」は読んだが記憶にない。「Dの研究」を読んでいないからだろうか。國分功一郎さんが本書の合評会をされている動画を見た。その中でUについてわりと大きく取り上げていた。長いからもう一度見てみようとも思わないのだが、なんかモヤモヤする。atプラスに掲載されているはずだがなんかパッと見つからん。イライラする。短気は損気。

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2022/11/23

交換様式=最も普遍的で説得力のある歴史区分、という感じ。 普遍的であるが故にそのダイナミズムは追えないが、その事柄の相対的なポジションを意識したいときにはとても役に立つ。 来るべきDは"A=B=Cの、Aの高次の回復に因る揚棄"によって現れるという点には、環境問...

交換様式=最も普遍的で説得力のある歴史区分、という感じ。 普遍的であるが故にそのダイナミズムは追えないが、その事柄の相対的なポジションを意識したいときにはとても役に立つ。 来るべきDは"A=B=Cの、Aの高次の回復に因る揚棄"によって現れるという点には、環境問題に取り組む身としては賛同できないが、Aの高次の回復が必要なのは今至る所で言われていること。 自分自身もそこに貢献していきたい。

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2022/11/20

===qte=== 力と交換様式 柄谷行人著 柄谷思想の総決算、希望示す 2022/11/19付日本経済新聞 朝刊 柄谷思想の総決算ともいうべき大著である。マルクス主義において社会構成体の歴史は生産様式によって規定されてきた。柄谷はそれを交換様式で読み変えることを提案する。交換様...

===qte=== 力と交換様式 柄谷行人著 柄谷思想の総決算、希望示す 2022/11/19付日本経済新聞 朝刊 柄谷思想の総決算ともいうべき大著である。マルクス主義において社会構成体の歴史は生産様式によって規定されてきた。柄谷はそれを交換様式で読み変えることを提案する。交換様式A(互酬)、B(服従と保護)、C(商品交換)、D(Aの高次元での回復)である。12年前の『世界史の構造』で提示されていた枠組みだが、むろん問題はDである。互酬の「高次元での回復」とは何なのか? 本書は交換様式の4つの段階を途方もない時間的/地理的なスケールで綿密かつシャープに辿(たど)り直しながら、Dの謎に迫っていく。その際のキーワードが「力」である。 柄谷は交換という営みに「力」が宿ると述べる。それはいわゆる剰余価値とは違う。本書の言い方に従えば、それは「観念的あるいは霊的な力」である。スピリチュアルな雰囲気を感じて警戒する向きもあるかもしれないが、そうではない。確かにそれは、たとえば宗教的な力だと言えるが、特定の宗教宗派ではなく、あらゆる宗教の根源を成す、いわば世界宗教のエンジンとなるような力である。 Aは異なる集団の間の贈与の応酬である。定住によって、それはBに変化する。Bは「王」を、そして「国家」を生み出す。その発展段階とされるCは「貨幣」を生み、それは「資本」に転化する。現在、C、つまり資本主義は多くの意味で行き詰まりを迎えているが、抜本的な対策は見えない。Cのマイナーチェンジでは最早(もはや)どうしようもない限界に至りつつあるのだ。本書はABC、どの段階にも力が宿るという。B=国家の力は「怪獣」であり、C=資本の力は「物神(フェティシズム)」である。それらは人間の意志を超えており、やがて制御不能になる。 そこで社会構成体=集団の最初期段階であるAに孕(はら)まれていたが、B以後に見失われてしまった力を「高次元で回復」することによって、Cの乗り越えが可能なのではないか。このことに(無意識的に)気づいていた者としてマルクスが、エンゲルスが、ホッブズが、トーマス・モアが、ブロッホが、ヴェーバー等々が、次々と召喚される。 ではDとは何か。本書の結論は評価が分かれるかもしれない。だが、それが真摯かつ誠実なものであることは確かだ。これは予言の書であり、希望の書でもある。 《評》批評家 佐々木 敦 (岩波書店・3850円) からたに・こうじん 41年生まれの思想家。著書に『トランスクリティーク』『世界史の構造』『哲学の起源』など。 ===unqte===

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