ウクライナ戦争の200日 の商品レビュー
著者の小泉氏の奥さんはロシア人らしい。軍事評論家である同氏が、東浩紀をはじめとし、元陸上自衛隊員であり小説家である砂川文治、防衛防衛研究所政策研究部防衛政策研究室長の高橋氏、他アニメ監督や漫画家とウクライナ戦争について語った本。人選は「?」と思う所もあったが、それが面白く感じる部...
著者の小泉氏の奥さんはロシア人らしい。軍事評論家である同氏が、東浩紀をはじめとし、元陸上自衛隊員であり小説家である砂川文治、防衛防衛研究所政策研究部防衛政策研究室長の高橋氏、他アニメ監督や漫画家とウクライナ戦争について語った本。人選は「?」と思う所もあったが、それが面白く感じる部分もあった。 考えさせられたのは、この本に通底するテーマでもあるように見えたが、戦争の変容。核を用いる事での、「エスカレーション抑止のためのエスカレーション」と呼ばれるロシアが有する核戦略思想。他方で核を脅しに使いつつ、実際には、ゲリラ戦のように非近代的な側面も持つ。 ― 小泉 ほとんどゲリラ戦の戦い方に近いです。毛沢東が「抗日遊撃戦争論」でも昔いていますが、ゲリラ戦の神髄は、いかに国民の支持を取り付けるかということ。国民が味方になってくれれば、ゲリラの戦士は生まれてくるし、物資や敵の情報を渡してくれたりもする。市民のハーツ・アンド・マインズの争奪戦なんですね。その争奪戦においてウクライナは成功している。ロシアの侵略に抵抗するという明らかな理由があるので、今回のウクライナはこの点で非常に優位にある。 また、戦い方だけではなく、戦争における意思決定も人間によるものであり、決して合理的ではないと指摘する。度々引用されるマーチン・ファン・クレフェルトの「戦争の変遷」だが、これはクラウゼヴィッツの「三位一体論」に対する批判的な視点から生まれた理論を含む。クラウゼヴィッツの「三位一体論」は、戦争を政府、軍隊、国民の三つの要素が相互に作用するものとして捉えるが、ファン・クレフェルトは、国家対国家以外の戦争に変容していくという話だ。 ロシア対ウクライナ、という構図は一見、国家対国家の戦いに見えるが、中身は、ロシアの正規軍とウクライナの正規軍の戦いが中心だが、ゲリラ戦術や非正規戦術も駆使され、さらにはサイバー攻撃や情報戦など、従来の戦争の枠を超えた手法が多用されている。また、民間企業や個人が戦争に関与し、ハッカー集団や民間のボランティアがサイバー攻撃や情報を提供。近代的な兵器や技術が必ずしも戦争の勝敗を決定するわけではなく、こうした武器や手法が効果的に使われており、戦争の形が変わった現代、どのように終戦すべきなのか、最終的にはやはり人間による意思決定であるが、その決定に至る情報の質や扱い方が複雑化している。 ― 小泉 人間って、それほど合理的な生き物ではありませんよね。先ほど砂川さんが紹介された「戦争の変遷」は、人間の非合理性を的確に突いています。この本でクレフェルトは、ヨーロッパの戦争の歴史を遡り、非合理的な戦争のほうが多かったと言っている。人間は政治的な目的追求のためだけに戦争をやってきたわけでは決してなくて、スポーツの延長だったり、目的達成から見れば不必要なくらいに人間を殺したりする。プラスマイナスを考えながら、人間が戦争をしていると思ったら大間違いなのだと。 ― 小泉 将来の戦争を予見することがいかに難しいかということですよね。 イスラエルの歴史学者マーチン・ファン・クレフェルトが、冷戦の終わりに著書『戦争の変遷」の中で、将来の戦争は近代以前の戦争に戻っていくと言っている。最近でもアメリカの国防大学のショーン・マクフェイトが同じような話をしている。ロシア軍の中でも、依然として独ソ戦のような戦争に備えなければいけないと言う人もいれば、とにかくハイテクに投資すべしみたいな人もいるし、あるいはプロパガンダとテロを使って戦争を起こさずして敵国を瓦解させられると主張する人々もいます。結果的に二十一世紀の現在にこういう戦争が復活してきたのを見ると、いろいろな戦争の形態がある中で、ある形態からある形態に移り変わって行くというよりは、その時代に取り得る戦争の幅が広がったり縮んだりする、スペクトラムなものであるという印象を受けます。 ― 高橋 当初は非常に使いやすいと言われたジャベリンですが、実際のところは扱いが難しいらしいです。というのも、ジャベリンの操作運用マニュアルは二百六+ページほどもあって、本来なら八十時間の講習が必要とされている。特に、赤外線センサーを冷却するプロセスが複雑とのことです。それをウクライナ軍はいきなり実戦現場に放り込んだので、混乱してしまう兵士もいた。ジャベリンには、製造元であるロッキード・マーティンのカスタマーサービスのフリーダイヤルが記載されているらしく、前線から電話するケースもあるようですが、実はつながるのは広報部署で、すぐには答えられない。
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この戦争で一躍有名になった感のあるロシア軍事安保研究者である著者の対談集。 7人の対談相手の人選が面白く、この戦争を契機としてロシアの軍事、文化、歴史、地誌などいろいろな側面が語られる。 ある時点の断面なので戦況など既に古びてしまったものもあるが、普遍的な考察も多々含まれる。...
この戦争で一躍有名になった感のあるロシア軍事安保研究者である著者の対談集。 7人の対談相手の人選が面白く、この戦争を契機としてロシアの軍事、文化、歴史、地誌などいろいろな側面が語られる。 ある時点の断面なので戦況など既に古びてしまったものもあるが、普遍的な考察も多々含まれる。 バランスが取れつつ徹底してマニアックな著者ならではの奥深い対談と思う。
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ウクライナ戦争をテーマとして7つの対談(うち1つは鼎談)が収録されています。「ドイツと中国から見るウクライナ戦争」(×マライ・メントライン×安田峰俊)、「ロシアは絶対悪なのか」(×東浩紀)が特に面白かった。
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イズムィコ先生が22年秋に出した対談本。雑誌での対談をまとめたものなので対談の時期には若干のばらつきがあります。 いろいろな種類の方との対談が入ってますが、一番話がかみ合ってるのは軍事専門家(高杉氏)。それと歴史を踏まえた会話のできるヤマザキマリさんもよい感じです。外国の視点から...
イズムィコ先生が22年秋に出した対談本。雑誌での対談をまとめたものなので対談の時期には若干のばらつきがあります。 いろいろな種類の方との対談が入ってますが、一番話がかみ合ってるのは軍事専門家(高杉氏)。それと歴史を踏まえた会話のできるヤマザキマリさんもよい感じです。外国の視点からの最終章も話がかみ合ってましたし、最初の章を除けばちゃんと対談になっているのがイズムィコさん、流石です(最初の章は、相手に問題があるだけのこと)。
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著者は、ロシアのウクライナに対する蛮行が時計の針を百年戻しており、ロシアの蛮行を許すべきでないという個人的なスタンスをとりつつ、ロシアや中国といった専制国の価値観を自由主義陣営の価値観に当てはめて、ロシアを一方的に断罪して追い詰めることの危険性を論じている。 国際的な政治力学...
著者は、ロシアのウクライナに対する蛮行が時計の針を百年戻しており、ロシアの蛮行を許すべきでないという個人的なスタンスをとりつつ、ロシアや中国といった専制国の価値観を自由主義陣営の価値観に当てはめて、ロシアを一方的に断罪して追い詰めることの危険性を論じている。 国際的な政治力学は善悪だけで決定されないし、感情を差し引いたリアリティで考えなければならないものだと改めて気付かされた。 本著は感情を超えた政治のリアリティを論じており、著者と有識者の対談形式により難解なテーマが理解しやすく記されている。
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ロシアの軍事・安全保障研究者の小泉氏と7名の著名人との対談 対談した方は以下の通りです。(敬称略) 東浩紀(評論家・作家) 砂川文次(小説家) 高橋杉雄(防衛研究所防衛政策研究室長) 片渕須直(アニメ映画監督) ヤマザキマリ(漫画家・文筆家) マライ・メントライン(エッセイスト...
ロシアの軍事・安全保障研究者の小泉氏と7名の著名人との対談 対談した方は以下の通りです。(敬称略) 東浩紀(評論家・作家) 砂川文次(小説家) 高橋杉雄(防衛研究所防衛政策研究室長) 片渕須直(アニメ映画監督) ヤマザキマリ(漫画家・文筆家) マライ・メントライン(エッセイスト) 安田峰俊(ルポライター) マニアックな軍事の作戦・戦術の話から国家間のパワーバランス・外交の話、国民生活と戦争という日常と非日常の交わり方まで、対談した方々の特性に応じた様々な切り口でウクライナ戦争の初戦を切り取って対談してました。 今、読んでももちろん面白いですが、10年後、20年後にウクライナ戦争を振り返った時、開戦当初はどんな熱を帯びていたのかを知ることができる非常に参考になる面白い書籍となりそうです。
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世界には多様な価値観が混在しているのだということを、改めて理解することが出来ました。 イズムィコ先生と、東浩紀や砂川文次、片渕須直、高橋杉雄、ヤマザキマリらとの対談集 開戦から200日くらいまで。今となっては、、、という点もあるけど、リアルタイムで進行中の事象なので仕方ないか...
世界には多様な価値観が混在しているのだということを、改めて理解することが出来ました。 イズムィコ先生と、東浩紀や砂川文次、片渕須直、高橋杉雄、ヤマザキマリらとの対談集 開戦から200日くらいまで。今となっては、、、という点もあるけど、リアルタイムで進行中の事象なので仕方ないか。 このタイミングで読むことに意義があるって感じの一冊。
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文藝春秋社の関連雑誌で対談した5人とこの本のために語り下ろしたもの1件を収録。対談時期は4月から9月。 対談相手は ・東浩紀:1971生、批評家・作家 株式会社ゲンロン取締役 ・砂川文次:1990生、小説家。元陸上自衛隊で対戦車ヘリコプターの操縦士。 ・高橋杉生:1972生、防...
文藝春秋社の関連雑誌で対談した5人とこの本のために語り下ろしたもの1件を収録。対談時期は4月から9月。 対談相手は ・東浩紀:1971生、批評家・作家 株式会社ゲンロン取締役 ・砂川文次:1990生、小説家。元陸上自衛隊で対戦車ヘリコプターの操縦士。 ・高橋杉生:1972生、防衛省防衛研究所防衛政策研究室長。 ・片淵須直:1960生、アニメ監督。「この世界の片隅に」 ・ヤマザキマリ:1967生、漫画家 ・マライ・メントライン:ドイツ人 翻訳者、通訳、エッセイスト。2008より日本在住 ・安田峰俊:1982生、ルポライター 天安門事件など中国を多くルポ 「ロシアは絶対悪なのか」(文藝春秋2022.7月号 4.11対談)×東浩紀氏と 東:ウクライナの仕掛けている戦略は必ずしも敵国ロシアには向かっていない。・・「ハイブリッド戦争」対「非ハイブリッド戦争」という状況になっているようにみえるのですが・・ 小泉:その通りですね。ハイブリッド戦争の理論はあくまでも敵国が民主国家である場合を想定していす。・・ロシアは権威主義体制でメディアもネットもプーチンの支配下にある。プーチンが(ロシアで)支持されている限りはロシアは戦争を継続するはずです。 小泉:今回つくづく感じるのは人間とはそもそも非合理な存在だ、ということ。 小泉:今回の戦争によって、米国一国のもとに世界が安定しているのではなく、複数の大国がそれぞれ異なる世界観を掲げて「競争的に共存する」世界に変化したのだと思います。・・ロシアは孤立するようにはなるでしょうが、瓦解していくとも思えません。 ヤマザキマリ:プーチンは、思惑通りの自分を象ろうと誇張し過ぎた為に実態が消えてしまった人という印象があります。イソップ童話の身体を膨らませて大きく見せようとして破裂してしまうカエルを思い出します。 ヤマザキマリ:イタリアの私の家族は、イタリアは他民族や他宗教との争いの歴史の中で生きてきた歴史があるから、またやってる、でもいつかは終わる、というような客観的かつ長いスパンで考えている。 「シベリアの掟」ニコライ・リリン著 小泉氏が紹介 イタリアでベストセラーになった本。かつてシベリアに犯罪流刑地があったが、彼らはスターリン時代にモルドバに強制移住させられた(今の沿ドニエストル地域らしい)。著者の自伝的小説。モルドバでは犯罪共同体の掟を守りながら育つが嫌気がさしイタリアに移住した。 ・・映画化もされたようだ「ゴッド・オブ・バイオレンス」2013イタリア ジョン・マルコヴィッチ出演 2022.9.20第1刷 購入
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著者があとがきでも書いている通り、啓蒙的ではない=初心者向けの解説書的な立ち位置の内容ではない。この戦争を様々な角度から語られており、自分の中でこの戦争を咀嚼するのには非常に有益。一番面白かったのは最後のドイツ、中国の専門家を交えての対談。500日、1000日とか続編希望。もちろ...
著者があとがきでも書いている通り、啓蒙的ではない=初心者向けの解説書的な立ち位置の内容ではない。この戦争を様々な角度から語られており、自分の中でこの戦争を咀嚼するのには非常に有益。一番面白かったのは最後のドイツ、中国の専門家を交えての対談。500日、1000日とか続編希望。もちろん一刻も早く戦争が集結するのが一番ではあるが。
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ロシア軍事の専門家である小泉悠と、各界の識者との対談集。 ウクライナ戦争を様々な視点から考えられるという点ではよい。
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